四.選べ、魔人

 ――幽龍蜃楼酒店の皆様に。

 ――事情は伏せますが、どうしても外に出なければいけなくなってしまいました。

 ――きっと、もう二度と会えないと思います。

 ――罪王様。天眼を譲る約束をしたのに果たせなくて、本当にごめんなさい。

 ――貴方と出会えて、私は初めて人間として生きることができたような気がしました。

 ――どうか、探さないで。私のことなど忘れてください。

 ――さよなら。私のことを普通の人間の少女として扱ってくれた人達。

 ――さよなら。初めて私と目が合った人。


 月明かりが、誰もいなくなった部屋を照らしている。

 魔人は黙って手紙を読んでいた。


「オレは何度も言ったぞ」


 魔人の肩で、鷹は言う。カチカチと嘴を鳴らす音が耳障りだった。


「このやり方は最悪だってな! 天潤を閉じ込めて解決するわけがねーだろ!」

「――こんなところで喚いていたって仕方がないだろう」


 扉の傍に立つ壊人鬼は緑の瞳を細め、緩やかに腕を組む。


「で、さ――どうするの? 魔人様」


 魔人はなにも言わない。手紙をぐしゃりと潰した。

 ゆらりと窓へと向けられたその瞳は、さながら鬼火のように爛々と光っていた。

 視線の先で、月が雲に隠されつつあった。

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