四.お前は安楽死を求めるか
一.『おかえりなさい』
清潔な部屋だった。
部屋の隅には自動販売機と、偽物の観葉植物。片側の壁には液晶が嵌めこまれ、水槽で戯れる熱帯魚の映像を延々と流し続けている。
そんな空間の中央に、天潤は座っていた。
硝子のテーブルには菓子と冷たい茶が用意されていたが、手をつける気にはなれなかった。
やがて、天潤の鋭敏な聴覚は二つの足音を察知する。
思わず身を固くした瞬間に足音は部屋の前で止まり、やがて扉が開いた。
「――やぁ」
若い男の声だった。靴音を響かせて男は部屋を進み、天潤の目の前に座った。
もう一人の足音は、部屋の入り口の側で止まった。どうやら女のようだった。
「……君になんと声を掛ければ良いのか、ずっと考えていた」
天潤の前で、男は淡々とした口調で言った。
二十代半ばほど。白地に狼の模様を刺繍した立襟の爛式背広をさらりと着こなしている。
「まずは
左右で色の違う瞳を細め、背広の男はゆっくりと指先を合わせた。
「そして你回来了とでも言おうか――天潤」
それは爛語で『おかえりなさい』を意味する言葉だった。
表情こそ動かさなかったものの、天潤の脳裏には今までの記憶が走馬燈の如く流れていた。
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