ネットの島
てつのかたまり
設定警察
ここはネットの島、特に名前はなかったがインターネットで話題になっている情報が流れつくので俺がそう勝手に呼んでいる。
この島に俺が辿り着いた日のことはあまりよく覚えていないし、元々俺がどんな人間だったのかもわからない。
わかるのは十七歳くらいの人間であること、わずかな一般常識があることくらいだ。
ここで何をしているかというと、何もすることがない。
ただ、ボーっとしているだけで時間は過ぎるのだから、こうして教室の窓側の席で外を眺めている。
こんな静かで穏やかな時が流れていると昼寝でもしたくなる。
そんな時に限ってアイツが来るんだ。
教室のドアが勢いよくガラッと開く。
「設定警察だー!」
少しアホっぽい大きな声でそう叫ぶのは同い年の女子だ。
ただ、本人が同い年と話しているだけなので確証はない。
こいつは毎回、ネットで話題になった話を持ってくる。
「それで、設定警察ってなんだよ」
「作品の描写で『ここでこんなことが起きるわけがない』とか『なんで長い間整備されていない機械が動くんだ』とか『なんでよくわからない場所なのに安全確認をしないんだ』とかそんな感じの話題だよ」
「そんなのいくらでもあるだろ。昔のアニメなんかでも何十年と動いていないロボットに乗り込んでピンチを抜け出したり、食べられるかもわからない果物や動物を食べているだろう」
だいたい、こういう話題はいつも出てくるし、そんなことを話してもキリがないだろう。
「昔は『なんかすごい力で乗り切っているんだ』というノリがあったけど、どんどんと新しいことが発見されていって、現代ではそういうのが目に付いちゃう人も増えているんだよ」
「昔は昔、今は今、時代は変わるからな。それで、その設定警察が現れたのはどのジャンルなんだ?」
「SF、宇宙とかそんな感じのやつ」
「うん。それは面倒臭いな」
SFを題材にした作品は昔から多く、科学や宇宙、未来、並行世界等、いろんな要素が含まれている。
科学的な理論から実現できるSF作品もあれば、そんなものを大して考えずに作られている作品もある。
俺としては宇宙船で宇宙に行けばSF、なんかの装置で過去や未来、並行世界に飛べばSF、ロボット兵器が出てくるのもSFだ。
これは簡単に思いついたものだけど、詳しく分類すればもっとあるのだろう。
科学は解明されていないことも多いが、昔よりは明らかになっているだろう。
そんな大量の知識を持った人ならば作品の粗が気になってしまうこともあるだろう。
ただ、それは説明が必要なものもあれば、いらないものもある。
「つまりさ、なんでそうなったのかという説明が必要なければいいんじゃないかな」
「どういうこと?」
「長い間整備されていなかった機械が動いたのはその箇所が故障していなかったり、それを動かす分の動力が残っていたんだろう。それに説明なんているのか」
「たしかに……。でも、安全確認は必要だよね」
「場所にもよるが宇宙船になんらかの装置が付いていて安全だとわかったんだろう。作中で説明されていないだけで、裏ではやっているんだよ」
「なるほど!つまり、設定どうこうよりも実際にそうなっているから説明なんていらねえよ!ってことだね!」
「そうだ。恐らく今後もこういう問題は定期的に出てくるだろう。けれども一々気にしてはいけない」
「うんわかったよ!ありがとう!」
女子は納得したようで、元気よく教室を出て行った。
教室のドアを閉めろと毎回思っているのだが、言う間もなく去ってしまう。
荒らすだけ荒らして帰ってしまうのがアイツなんだ。
俺達は一体何者なのか、この世界はどうして存在しているのか、それはわからない。
けれどもこれはわかる。
俺達はこうして動いていて、話している。
それには何らかの設定があるんだろうが、まだ明かされていないだけなのだ。
ネットの島 てつのかたまり @tetsuokaeru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ネットの島の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます