かけひきのあと、ひとつ欠片につまづいた

よし。

B5用紙に みっちり と印刷された枠を全て埋める事が出来たことに満足して、僕は心の中でそう呟いた。

みっちり と言っても別に問題数が多いワケではない。このテストを作る先生は何故か全ての解答枠を無理にくっつけようとするから みっちり しているのだ。記述問題も選択問題も御構い無しで詰めてゆくので、規格の微妙に違う四角が縦のB5用紙を見事に埋めている。お陰で一部の人間、学区内の塾の講師らには テトリス答案用紙 なんて呼ばれているらしい。テトリスにしては棒のパーツしか無いし、積み方が余りに杜撰で下から上まで埋まっているので最早 ゲームオーバー である。始まる前からゲームオーバーとは中々に不吉である。

それなりの答え らしきもの で埋められたテトリスのパーツ らしきもの を最後のひと枠まで眺めた後、カンニングを怪しまれないよう小さく伸びをしつつ辺りを見渡す。クラスメイトは机に顔を伏せたり、筆を休めて問題用紙を睨みつけたり、それぞれ思い思いに過ごしている。

僕は問題用紙の文字塗りに勤しむことにした。文字塗りとは文字通り、文字を塗る行為で、線によって閉じている部分を塗るだけの簡単なお仕事である。例えば、1から9の数字なら素数は塗る事ができず、それ以外は塗る事ができる。これは時間潰しになるし、なんとなくテストをしている風に見えるから前でぼんやりと監督している先生の心象にも悪くないと思われるし、いい事尽くめと迄は言わないが 悪くはない事尽くめ くらいは言ってもいいだろう。

くだらない事を考えながら順調に文字塗りを文章題の3分の1にも届きそうなところだった。


キーン コーン カーン コーン…


鐘の音に、僕は顔を上げた。先程より少し大きく身体を起こしてぼんやりと辺りを見渡すと、クラスメイト達が首を傾げたり、祈るように伸びをしている。今更祈ったところでどうにもならないし、祈っているわけではないのだろうが、長時間同じ姿勢でいた所為かその動きは重い。


時間が余り、早々に塗り絵の下敷きになった可哀想な解答用紙を前の奴に渡した。受け取られては即お役御免とばかりに前に渡されてゆくソレは、やる気のない一反木綿みたいにふわふわと前の席へ、前の席へと増えながらのんびり先生の元へ向かう。


その様を眺めながら、

そういえば、クラスが一緒になってから前後の席だからと何となく友人関係を築いてきた前の奴は、先々月辺りの中間テストの最終日、目を輝かせながらゲーセンに誘ってきた事を思い出した。

あのそこそこに賑やかで凡そ会話向きではない空間で、銃を模したコントローラを手にしながら、過ぎたテストについて語るというのはテストからの開放感で少しハイになっていた事もあり楽しかった。

テストについて語るといっても、

やれ、漢字問題の答えが文章題の中にあってラッキーだの、日本地図が先生の手書きで見にくいだの、一番下の点数枠が解答枠みたいで紛らわしいだの、筆者の考えていた事なんてわかんねーよだの、

どれをとってもしようもなく、学生が勉学に対して求められる姿勢としての会話では無かったが、大画面から溢れんばかりのゾンビ達を前に話すには丁度良いくらいだったなぁと、考えていると前の奴が鈍い動きで振り向いた。

中間テスト後のゲーセンを思い返していた僕は、てっきり 期末テストから解放された今後の予定についての相談だと思っていたが、なんだか様子がおかしい。テストの結果が振るわなそうで元気がないのだろうかと心配になり、余り気に病むなと声を掛けようとしたところで奴が口を開いた。


「いや、見るつもりはなかったんだけど…受け取るときに端っこだけちょっと見えちゃってさ…」















さて、僕に何が起こったのか。

おわかりいただけただろうか…


次章解説編










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