第4話
警察にはありのままを話した。計画通り、僕は正当防衛ということになり、書類送検すらされなかった。
「それで、なんで伏見を殺すことにしたんだ?」退院した僕は、父にこう尋ねた。
「俊次は、あの子が伏見財閥の令嬢だってことはわかっているだろ」
「そうだな」
「あの子、伏見幸代はルックスも良いが、何よりとても優秀だ。最近行ったライラックの吸収合併の言い出しっぺは伏見幸代なんだ」
「あの、大成功と謳われたヤツな」
「だから、あの子を殺してしまえばあっちの業績は伸び悩む。そうしたら、笹塚グループは天下を取れる、そういう訳だ」
「流石親父だな。俺もその頭脳を貰いたかったよ」
「いや、この仕事をきちんとこなせたなら、優秀だって誇れるぞ」
「でも、基本その頭脳は義俊が持っていったじゃん」
「お前には運動神経がある」
「まったく、親父は褒め上手だな」
「その血は俊次が継いでいると思うよ」何ヶ月ぶりだろうか。こんなに親父と話したのは。夕日で街全体が赤く染まっていた。
息子にはそんなことを言ったが、実際はそんなことではない。
単刀直入に言おう。俺は、俊次に嫉妬していたのだ。分かりやすく言うと、幸代に惚れていたのだ。
前に情熱大陸で伏見グループ特集が組まれていたとき、俺は彼女を見つけ、一目で恋に落ちてしまった。しかし、やはり親子なので、女性の好みも似ているのだろう、俊次が幸代をゲットしたのだ。
勿論妻帯者である俺に狙える筈もなく、辛酸を舐めていた。胃痛が酷くなったのもこの頃だろう。
このまま二人が結婚でもしたら、胃が全て溶けてしまう。なので、どちらかを殺す案を思いついた。そうしてしまえば、俺の体の調子は良くなるだろう。そんなことを考えていた矢先、俊次から、「今の彼女と別れたいけど、どうすればいい?」と相談を受けた。勿論まともに答えたあとで、嘘八百な理由とともに、幸代殺害計画を打ち明けた。彼がイエスと言ってくれたのが少し以外だった。
それからは計画通りに拉致されたふりをし、正当防衛に見せかけるようにしたが、向こうから誘拐するらしいので、それに乗り、刃物で襲われそうになったときに殺したらしい。しっかり私の任務をこなしてくれたので、俊次も優秀だと言える。
これでやっと胃痛からも解放された。
下弦の月 深谷田 壮 @NOT_FUKAYADA
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