第3話

 僕は目を覚ます。昭和モダン漂う電灯、新品同様の箪笥、床に置かれた一四インチのテレビがある。それらから、ここは伏見の家だと分かった。

 それにしても電灯との距離が近すぎる。また、喉が渇いていた。

 冷蔵庫に飲み物を取りにいこうとする。だが、身動きが全く取れない。果たして、両手の上腕二等筋の辺りと太腿が紐で締め付けられいた。足首は地面に固定されているのだろうが、目視で確認出来ない。簡単に言うと、ブリッジのような姿勢になっていた。

 だから、下半身の様子は想像にお任せしないといけないが、膝に布を感じないし、腰が締め付けられる感じもない。僕は裸だ、そう悟った。

「あ、やっと目覚めた?」伏見の声だ。

「どういう訳か知らないけど、何がしたいの?まさか、拘束プレイでも?」

「いや、そんな野暮なことじゃないよ」

「そしたら、君のご用件は?」

「あなた、本当に愛してるの?私のこと、命に代えても守ってくれる?私の望み通りの男になってくれる?」

「ちょっと待って、じゃあどうしてこんな格好になんなきゃいけないのか?」

「もちろん、抵抗されない為にね」

「それで、何がしたいんだ?」

「笹塚、あなたは私の為なら死ねる?」

「どういうことだ」

「私はこないだ知り合った向原ってヤツに命を狙われているの。でも、彼曰く、死体を見れればいいんだって。そんな訳で、死んで」と言い放ったあと、台所に移動し、果物包丁を手に取った。そして、「死ねぇっっ!」と言い、包丁を振り下ろした。


 包丁を手に取ったところまでは完璧だった、そう伏見は思った。しかし、ここから、彼女の計画は土台が欠けたトランプタワーのように崩れていった。

 笹塚の右手が包丁の軌道の間に入った。もちろん、刃先がそれに当たる。血が流れる手で、伏見の手を誘導。包丁で、右手に付けられた紐を切る。上手い具合に手に残っていた紐で彼女の首を絞めた。

「…ん…」苦しくて、声が出ない。そこで、伏見は息絶えた。


 伏見から力が抜けたのを確認すると、血の出ていない左手で救急車とパトカーを呼んだ。そして同時に向原を呼びつけた。

「遂にやりましたか、お坊っちゃま。いや、俊次」

「ここには二人しかいないから、もういいよな、親父」

「俺の願いを叶えてくれてありがとう」僕の右手を止血しながら親父は言った。

「おいおい、僕らは家族だぜ。そんなに堅苦しくなんなよ、親父」

「とりあえず救急車が来た。俺は迎えに行ってくる」

「じゃあ続きは親父の家でな」

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