オムライス

12時。ようやくこの時間がきた。

ぐっと背伸びをして肩をまわすと勢いよく立ち上がる。

軽い足取りでむかったのは会社の近くにある

洋食やサンサンだ。

さすがオフィス街の昼時と言うときもあり

混んでいる。

指定された席に座ると赤チェックのエプロンをかけ腰が曲がりかけているおばさんが


いらっしゃーい。あっいつものね


と言い注文もとらず去っていった。


奥ではおばさんとは対照的な仏頂面をした

おじさんが黙々と料理を作っている。



料理が届くのをわくわくしながら待っていると



はい。お待たせ。


という陽気な声とともに

料理が目の前に置かれた。


おっきたきた。


それは月のように黄色い卵にくるまり

真ん中にケチャップがかかった

昔ながらのオムライスだ。


これこれ!あーたまんないなぁ

この色、この匂い…


いただきます。と手を合わせその黄色い半月をパカッとわると中からケチャップライスがこんにちはと顔をのぞかせる。

ここのケチャップライスはシンプルに

鶏肉と玉ねぎだけだ。

そう余計なものはいらない。

シンプル・イズ・ベスト


口に運ぶとその卵とケチャップライスがなんとも言えないマリアージュで

思わず顔がにやけてしまう。

この少しこげた玉ねぎや鶏肉のじゅわっとした旨味がたまらない。

俺に言わせれば、最近多いトロッととろける半熟卵やバターライス、いろとりどりのソースがかかっているものは邪道なのだ。



一口、また一口とスプーンを運びその味を

噛み締める

あぁ。

この瞬間に働いているようなもんだよなぁ


ほんといつも美味しそうに食べるわよねぇ。




はい。好きなんです。オムライス

なかなかここまでシンプルなものってなくて


そうねぇ。

今はなんだかこじゃれたものが多いものねぇ。


確かに最近この辺りはイタリアンのお店やお洒落なカフェが増えた気がする。

ほんとに残念な話だ。


うちもねぇ。

最近なかなか経営が難しくて。

もう年だしそろそろ潮どきなのねぇって話してて急だけど今月で店を閉めることにしたのよ



え!?そんな…この店がなくなったら

俺はなにを楽しみに仕事を頑張れば…


今までありがとねぇ。


ぺこっとあまり曲がりきれていないお辞儀をしてまた仕事へと戻っていった。



店の中をキョロキョロと見渡してみると

確かに10年と比べるとかなり人が減った気がした。

客層も若い人というよりは俺くらいの

中年男性が多い。


この店がなくなるのはどうにか避けたい。

なにかいい方法はないのだろうか。



…あっ!そうだ!!!

あれがあるじゃないか



そうして次の日の昼

俺はオープンより少し前に洋食やサンサンの

前に来ていた。

よし思惑通りだ。


そこには溢れんばかりの人が押し掛けて

長い行列を作っていた


チリンチリンという音とともに扉が

開くと

そこには目を見開きあんぐりと口を開けた

おばさんの姿があった。



まぁまぁ…!!こんなのいつぶりかしら


おばさん!


あなたはいつもの…


俺もまさかこんなに反響があるとは思って

なかったんですけど


スマホを差し出すと

目を細めてその画面を見ていた。


洋食店サンサン

シンプルで昔懐かしい味のメニューが揃い

まるで実家に帰ってきたかのような安心感

価格もかなりリーズナブル。

いつも笑顔で優しいおばさんと

恥ずかしがりやでなかなか表には顔を出さないご主人が営む素敵なお店です

住所東京都○×区△□町…

拡散希望


オムライスの写真や店内の写真などものせ

Twitterにあげると

すぐに1万をこえるいいねがつき

『ここ知ってます!

昔母と一緒に来てました

懐かしい!』


『うわぁ美味しそう!行ってみてー!』


『近くにこんな素敵なお店あったなんて』


などとたくさんのコメントが寄せられた。



ありがとねぇ

ほんとにこんなにお客さんが来たのなんて

いつぶりかしら


少し涙ぐみながら嬉しそうに行列を見つめている。


するとまたチャリンチャリンと扉が開き

いつもは表にでないおじさんも

じっとその行列を見つめていた。


あなた!


…もう少し頑張ってみるか。


一言そう言い残すとまた店に入っていった。

その顔はどことなく嬉しそうに見えた。


おばさん!久しぶり!


ママー!早く食べたい


「皆さんお待たせしてごめんねぇ

さぁどうぞ!いらっしゃいませ」



いつもと変わらない陽気なおばさんの声が

店の外に響き扉が開く







今日も洋食やサンサンオープンです。






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短編集 食べる。 石田夏目 @beerbeer

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