第五章
僕は一呼吸おき、歩き始める。
右足を前に出して、左足を前に出す。
また右足を前に出して、左足を前に出す。
息を吸う。息を吐く
また息を吸う。息を吐く。
これ以上なく「今」を意識する。
胸の鼓動が不規則に早まる。呼吸が乱れる。
大丈夫。僕はここにいる。
僕の中では自分の中にあった答えを確信した。
「僕はここを出ようと思います」
「そこに嘘はないな」
一息ついて彼は付け足した
「自分への」
「なおさら」
僕は答えた。
「それならそれが正解だ」
老人は初めてにこっと笑った。
「最後にひとつだけ。」
そう言い、老人は僕の目をじっと見つめた。その視線には愛情とと確信とが入れ混じっているように見えた。
「愛するものを選ぶことだけはやめなさい」
老人は慎重に言葉を紡いだ。
その言葉は何よりも強く美しかった。
「そこにあるものをそこにあるものとして愛しなさい」
「そうあるべきですね」
そういって僕は笑う。心から。
「私たちは愛に向かって生きるべきなのですから」
僕は飲み干されたコーヒーカップの中を眺め、そこにあるささやかな余韻に涙を一滴だけこぼした。
コーヒーを飲む。息を吸う。 @raimany
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。コーヒーを飲む。息を吸う。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます