第68話 尊い犠牲となって下さいっ
アビスが魔壁を使ってゴーレムの攻撃を受け止める。それを行いつつゴーレムの死角に回り込み、石突きの方でゴーレムの膝を攻撃した。バランスを崩させる目的だろうが、残念ながらあまり効果は無かった。ゴーレムは直ぐさまアビスを捉え攻撃を行う。そしてアビスはそれを槍でいなしながら距離を開けた。
一騎打ちでもほぼ互角じゃね? 思わず心中で呟いた。睨み合っているとこ悪いが、俺はゴーレムの左側から斬りかかる。ゴーレムは一瞬左手に持つ柄で受けようとしたが、俺の姿を認識して一気に後ろに下がり距離を開けた。
俺も下がることは意識していなかったので盛大に空振る。それを見たアビスが一言。
「盛大に警戒されているな」
「嬉しくねぇ!」
そう返しつつ、再び接近を試みる。しかし俺が接近しようとすると俺に集中して迎撃行動を取るようになった。柄で地面の土を引っ掻いて飛ばしたり、やることが汚いっ! それよりもこのゴーレムの対応能力の高さや学習能力の高さに驚く。
「アルテナさーん、このゴーレムの学習能力やばくないですかー?」
「そうですね~。私も予想外です。ここは最後の手段に出ますか?」
「やっちゃいますか? アルテナさんっ!」
ノリで俺は答える。実は何をするのかは分かっていないっ!
「ふふふふ、そんなにお求めならやっちゃいましょうっ!」
「あっ、ごめん。今の嘘だからやらないで?」
嫌な予感がしたので、そう言うがアルテナは既にやる気のようだ。しまったな……。
「もはや止まれはしませぬ。私の心がそう言っているのです」
「黙らせましょうか?」
ナイス、フラウっ! そのままアルテナを黙らせるんだっ!
「ならフラウは、このままグダグダとゴーレムと踊りますか?」
「アルテナさん、やっちゃってくださいっ!」
フラウ、ダメじゃんっ! そう思って会話に割り込もうと口を開けた瞬間、ゴーレムの巻き上げた土が口に入る。今度は喋る前に妨害されたっ! 口の中がじゃりじゃりするので、唾と共にはき出す。うん。このゴーレムは死刑ね。アルテナよ、やれ。
「あははははは、ゴーレムは扉を守っているんですっ! だから扉ぶち抜けば解決なんですよっ!!」
そう言って、アルテナが魔力を集中する。それと同時に俺の身体から力が抜けた。これって、もしかすると俺の魔力も使って……。
ゴーレムもアルテナの行動に危機感を抱いたのか、アルテナの方へ行こうとするが、アビスがそれを許さない。俺も魔力をアルテナに吸われているが、隙あらば斬りつけようと思い牽制に参加する。積極的では無いが。
「あっ」
するとアルテナの間抜けな声が聞こえた。チラッとゴーレムを見ると、左手に持ってたはずの柄が消えている。ちゃ~んすと思い、俺は接近して<真技>でゴーレムの左腕を斬りつけた。それと同時に俺の背後で、重量物が地面を爆撃した様な轟音が聞こえた。……アルテナの居る方向から。
「まあ、死にはしないだろうけど……」
「そうだな。女神と聞いているからな」
俺の呟きにアビスが同意した。そしてゴーレムの左腕は、3分の1ほど斬り割くことができた。後1撃同じところに入れれば切り落とせるだろう。そんなことを考えていると、背後で柄(たぶん)を吹き飛ばす音が聞こえた。
「ふっふっふっふっ、遂に私を怒らせましたか……」
背後から危険信号が放たれている。冷や汗が流れる。アビスをチラッと見る。俺と同じで危険を感じ取っているようだった。
「戦略的撤退と言う言葉があるんだが……どう思う?」
「ここは賛成しよう」
そう言ったら早い。魔法を牽制で放ち距離を開ける。こっちが退こうとすると何故か追撃してくるゴーレム。まてっ、俺に寄るなっ!
そう思った瞬間、光の雨が俺とゴーレムを包み込む。俺は咄嗟に光の盾を築き防ぐ。
「アルテナああああああ、俺を巻き込むなああああああ!」
「尊い犠牲となって下さいっ! あはははははっ! 天より舞い降りし死の光よっ! 我が敵を滅殺しなさいっ!!」
俺の目の前でもの凄い熱量の光が産まれる。俺は全力で光の盾を築くが、アルテナに魔力を取られているため盾が薄い。そこにアビス魔壁とフラウの光の盾が築かれた。それによりなんとか凌ぐことができた。
光の止んだ後には、左上半身の大部分を失ったゴーレムが立っていた。よく耐えるよなぁ。
「フラウ、アビス助かった」
「まだ立っていますかっ! ならばっ!」
俺はフラウとアビスに礼を言う。だが2人が返事するよりも早く、アルテナが何やら叫んで自分の拳に光を集中させている。今度は直接殴るようだ。それなら助かった。そしてアルテナは高速で移動し、ゴーレムの前で飛び上がり拳を振りかぶる。
「この滅びの一撃受けてみな――」
そこでゴーレムが突然膝を付いた。その所為でゴーレムの頭部を狙っていたアルテナの拳ははずれ、勢いが消せなかったのかそのまま壁に向かって派手に突っ込んだ。
「おーい、アルテナ? 生きてるかー?」
一応聞いてみる。返事は無い。だが生きているだろう。何しろ女神だ。それよりも今は目の前のゴーレムだ。膝を付いて頭を垂れている。微動だにしない。何となく参りました。と言っている様な気がする。まあ気がするだけだが。
「これって負けを認めたって奴か?」
一応警戒を解かずに皆に尋ねてみる。
「どうなんでしょうか? まあ敵意みたいなのは消えましたね」
「それでも油断はしないことだ」
話している内に、壁に突っ込んだアルテナがよろよろと戻ってきた。
「どうやら自分より強いと判断した相手とは戦わないみたいですね……。私たちは認めてもらえたと、そういうことです」
アルテナはその後も「まさか私の奥義が躱されるとは」など色々と文句を言っていたが割愛する。
取りあえず、マルクのパーティと口裏を合わせるために話しをしておく。マルクに助けたことを言わないように釘を刺しておいた。後、怪我をほどほどに治療しておく。無傷だとマルクが疑いそうだからほどほどだ。他は薬を渡しておくので後は好きにしてくれ。
そして話している間もゴーレムは周囲の土を使って、壊れた左上半身を修復していた。武器のハルバードも修復されていく。
「これうちの門番に一体ほしいな」
「訪れる人から苦情がきそうですね」
「誰も訪れなくなったら尚良い」
そう言うと、フラウが俺を冷たい視線で見た。そしてマルクのパーティは帰っていったので俺たちはゴーレムの守っていた扉へ向かう。扉に近づくと、自動で人1人分の隙間が空いた。扉の先は真っ暗だったので、魔法の明かりを灯し中に入った。すると背後で扉が閉まる。そしてゴーレムの動く音と、冒険者たちの悲鳴が聞こえた。俺たちを尾行していた冒険者たちが、ゴーレムに襲われているようだ。
「どうやら私たち以外は通す気が無いようですね~」
アルテナが扉の向こうの状況をニヤニヤしながら喋っている。尾行してくる冒険者は鬱陶しいかったので丁度良いな。それに今のゴーレムは完全じゃない。頑張れば倒せるだろう。たぶん。
「この扉ちゃんと開くのでしょうか?」
「開かなかったら壊せば良くない?」
フラウが扉の心配をしたので俺がそう答えると、それもそうですねと同意した。フラウも染まってきたなぁ。アルテナ色に。
扉の向こう側は外と違って綺麗だ。それでも下層の様な魔法で保護されている感じとは違う。掃除されている様な感じだ。そんなことを思っていると、足元に30cmほどのゴーレム? が動いていた。どうやらこれが掃除を行っているようだ。
「これが部屋を掃除しているのか?」
アビスが疑問を口にする。俺もあまり自信が無いので解答しない。
「そうですね~。所謂お掃除ゴーレムです。ごく希に古代遺跡で稼働中のが残っていたりします。大抵は残骸しか目にしませんけどね~」
期待した通りアルテナが説明してくれた。それよりアルテナに言っておきたいことがあった。
「アルテナ、先ほど俺を巻き込んで魔法撃ったよな?」
「ギクッ」
アルテナがそんなことを言いながら視線を逸らした。
「その前に魔法使うとき、俺の魔力使ったよな? 断りもなく」
「ギクギクッ」
アルテナが顔を背ける。そんなことしても事実は変わらない。
「帰ったらお仕置きな」
「ひぃ、なんで私がそんな目に合わないと――」
アルテナの言葉は途中で止まった。俺が声に出さずにフォルテナさんと口を動かしたからだ。アルテナを脅すなら、彼女の名前を出すに限る。
「申し訳ありませんでした」
そしてアルテナがジャンピング土下座をするのであった。
フォルテナ「……」
アルテナ「……(前回のはフリだったんですかっ!? こんなサプライズはイリマセン)」
フォルテナ「アルテナ? 私の命じたこと覚えていますよね?」
アルテナ「ひぃ、すみませんっ! ちゃんと覚えてます~」
フォルテナ「なら良いですけど……。次は無いと思って下さいね?」
アルテナ「ひゃい(泣)」
……すみません。本当にすみませぬ。
1週間ほど風邪&目眩で寝込んでました。バタリ。
年末年始、忙しいでしょうけど体調には気を付けて下さいっ。
え? お前が言うなって? ソンナコト言ワナイデー。
勿論気を付けますっ!
異世界転生させられた魔術師、女神と世界を歩く アザラシ好き @pikachusuki
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