第67話 人が喋っているときに攻撃すんなよっ

 「無茶しますね~」


 アルテナがそう呟く。俺もそう思う。ここから観察するだけでも有効打を与えられている様には見えない。マルクのパーティは全部で7人だ。ハンマー使い、槍使い、タンクが前衛。中衛にいる細剣使いが指揮を執っている。後衛に弓使いが2人だ。そしてマルクが中衛で弓を構えていた。それと弓使いの片方はこの前に絡んできた奴だな。


 対する敵は大型のゴーレム。全長は6メートルくらいか? 3人分の高さは十分にある。しかしそれでもかなり俊敏に動き、上手い。


 「これ、本当にゴーレムなのか?」


 「古代技術で作られたゴーレムですね~。そこらにいる簡易的なのとは次元が違います。よっぽどのモノが奥にあるんでしょうね~」


 俺の口から出た疑問をアルテナが答えてくれる。まあ俺たちは穴を掘って別口から入ってしまった様だが。チラッと横を見ると、アビスとフラウもゴーレムの動きを観察していた。


 一応戦う気は無いからな? 分かっているよな? それにしてもハンマーで殴られても効いているようには見えない。更に弓矢は刺さりもしない。牽制にもなってなさそうだ。


 そう観察を続けていると、前衛の1人がこちらに吹き飛ばされてくる。そのお陰でマルクがこちらに気付いた。ちなみに中衛後衛の連中は既に気が付いていた。特に気配を消したりしていないからな。


 「テメェ、これは俺たちの獲物だっ! 手出しするんじゃねーぞっ!」


 それを聞いた彼の仲間がゲンナリした表情をした。本人以外の人は無理っぽいって思ってるいるんだろうな……。可哀想に。


 そして士気が下がったのを肌で感じ取ったのか、マルクが弓を捨て剣を抜き前に出る。同じく中衛にいた人がげっと言った顔をしていた。即座にフォローするための命令を出す。


 「邪魔しているようにしか見えないな」


 「本人にそのつもりは無いですから失礼ですよ?」


 アビスとフラウが酷いこと言っている。フラウよ、その発言自体が失礼だ。分かってて言ってるんだろうが。


 それはそうと、戦いの方は大変そうだ。お荷物が前線に参加したのが主な原因だけど。吹き飛ばされた前衛も戦線に復帰し、中衛後衛もお荷物を守るために前線に出ていた。まあ弓はほぼ効いていなかったし、これはこれでありだが……。


 そして観察している内に、前衛のハンマー使い、槍使い、中衛の細剣使い、後衛の弓使いが1つのパーティの様だ。その4人の連携は上手くとれている。タンクともう1人の弓使い(絡んできた奴)は補充要員の様だな。ただタンクとは比較的上手く連携していることから、たまに組んでいたのかもしれない。もう1人の弓使いはダメだな。マルクよりかは遙かにマシだが他のメンバーの中ではダントツに弱い。


 「これはなかなか連携の勉強になるな」


 「そうだな。私にはタンクと槍使いの動きが参考になる。今までほとんど1人で戦ってきたからな」


 ゴーレムは強大なハルバードを自由に振り回している。あれを普通は受け止めることはできない。それ故に上手く逸らさなければならない。そう考えていると、俺たちの近くまでまともな方の弓使いが吹き飛んできた。まともに受けるとこうなる分けか。俺ならば上手く回避しないとな。剣で受け流すことは無理だろう。下手すると魔力を纏っていても折れそうだ。


 「マルクが気絶してくれれば手伝えるのにな」


 そう吹き飛んできた弓使いに聞こえる様に呟く。これで何らかの行動を起こしてくれると良いんだが……依頼主を気絶させたりとかするかな? 弓使いは一瞬こっちを見た後、戦線に復帰する。横顔が少し笑っていたのは気の所為だと思いたい。


 「本当にやりますかね?」


 「私だったらやりますね~。だってこのままじゃ、数分で全滅ですからね~」


 そんなにか? 一応<分析>をゴーレムに使用する。



名前:不明

レベル:不明

種別:特殊防衛器兵

状態:正常


耐久:19882/20000

魔力:以下ステータス不明

スキル:不明


説明:製作された時期が古いため詳細不明。拠点防衛用のゴーレムと思われる。



 うん。耐久以外全く分からない。そしてその耐久は全く減ってない。これは無理だわ。


 「正直頑張ってると思いますよ~。このゴーレムさん自己修復機能ありますし、それを上回るダメージを与えているだけでも凄いです」


 アルテナは俺より詳細に分かるようだ。さすが女神。だが負けた気がするので聞く気にはなれない。それにしても自己修復とかズルいな。


 そして遂にタンクが吹き飛んだ。その彼だがすぐには立ち上がれないようだ。そしてそれがチャンスでもあった。あの弓使いがゴーレムから攻撃を受ける。その時に上手くマルクのいる方向に吹き飛ばされる。


 「やりますねっ!」


 アルテナは笑顔でそう言う。アルテナさんなんか怖いっすよ。それはそうとマルクはどうなった? 吹き飛んだ先を見ると、弓使いが笑顔で親指を上に立てていた。気絶したのね。一歩間違えれば死んでる様な……。まああのままだと結局死んでたか。


 「よし、では行くぞっ!」


 俺が号令を掛ける。取りあえず俺はタンクの元に走り寄る。さっきから立ち上がらないんだよね。その間の前線は他3人に丸投げだ。


 「援護する。退け」


 「助かる」


 アビスがそう言うと、細剣使いがそう答えた。ゴーレムは扉から一定距離までしか追ってこない。しかし素早いため、一度接近してしまうと、吹き飛ばされるまでそうそう離脱を許してくれないのだ。俺やアビスくらいの速度があれば別であるが。


 そして俺はタンクの人近づいて状態を確かめる。鎧が陥没しており、それで内蔵や骨にダメージがいっているかな。意識はあるが立つ体力が無いようだ。更に大盾を持っていた方の手が折れていた。取りあえず治療を開始する。


 まずは陥没している鎧を元に戻す。土魔法で無理矢理干渉するだけだから、不格好だし元の防御力は期待できないけどな。そして内臓と骨、腕の骨折を治療する。


 「おい、それで立てるな? 痛みは無いな? ならば仲間の後退の援護をしろ」


 そう言うと、タンクの彼はキョトンとした顔から一転、引き締まった顔で直ぐさま立ち上がり、仲間の元へ向かっていく。そして俺も前線へ向かった。


 前線ではアビスが完全に攻撃を受け止めていた。あれを受け止められるのか……。アビスへの俺の認識が甘かったようだ。アルテナが弓で攻撃する。アルテナの光の矢は普通にゴーレムに突き刺さり爆裂する。それでも表面が削れる程度だが、弓矢でダメージが入ることに驚きだ。


 俺も剣を抜き魔力を纏わせて斬りつける。甲高い音が鳴り、火花が散る。結果は少し表面に傷が入ったかな? 程度だった。ゴーレムみたいな硬い敵に切りや突きは不利だな。


 「コイツ硬いぞっ!」


 「見りゃ分かりますっての~」


 律儀にアルテナが返事をしてくれた。フラウは土には風をと言うことで風魔法で攻撃しているが、効果はあまりない。俺も試しに風の魔法を放つが期待した結果は得られなかった。


 「ゴーレムって魔法に弱いんじゃないのかっ?」


 今度は<体技>で強化した剣で斬撃を放ちながら、アルテナに尋ねる。


 「なんかコーティングか何かがしてありますね~。私の光の矢もあまり効きません」


 <分析>を使用すると、耐久が400ほど減っていた。未だに2万弱で通る数字である。やってらんね。温存することを諦める。


 「一気に行くっ! アビス、フラウ援護しろっ! アルテナは邪魔しないようにっ!」


 「「了解」」


 「私が邪魔するわけ無いじゃないですかっ!」


 軽い冗談だよ。たぶん。アルテナの抗議には心の中で答えつつ、<真技>を発動させる。これで腕の一本でも斬り落としてやるよっ!


 「どおおおおりゃあああああ」


 雄叫びを上げつつ、飛び上がりゴーレムを真っ二つにしようとする。さすがに反応されて間にハルバードが差し込まれる。しかしそのハルバードを、甲高い音を立て火花を散らしながらも切断することができた。


 「よし、これなら本体に当たれば斬れそ――」


 俺の身体に衝撃が走り台詞が中断され、後方に吹き飛ばされた。それでも吹き飛びながらも体勢を立て直し着地する。どうやら半分になったハルバードの柄だけの方で殴られたらしい。アビスは刃のある方を受け止めている。


 「おい、コラっ! 人が喋っているときに攻撃すんなよっ!」


 「敵の目の前で喋っている方が悪いと思いまーす」


 仰る通りです。この頃にはマルクのパーティは完全に離脱しており、遠くで俺たちの様子を見学していた。ついでに俺たちを尾行していた冒険者たちも姿を現し見学している。


 あまり格好悪いところは見せられないようだ。


 「大丈夫ですか?」


 フラウが心配して聞いてくる。フラウのところまで飛んできた様だ。さっきのパーティで言う中衛の位置だな。アルテナもここにいる。取りあえず頷いて返しておく。そして終わらせるために前線へ走り出す。




ライル「そう言えば前回このショートコント忘れてたな」

アルテナ「別に良いじゃないですか? 正直話しの中身ないですし」

ライル「ぶっちゃけ過ぎだろっ!」

アルテナ「たまには違う人でも呼んだら如何ですか?」

ライル「ではフォルテナさんを……」

アルテナ「それだけはやめて下さいっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る