第66話 私に名案がありますっ
俺は全身の痛みで目が覚めた。少し気絶していた様だ。すぐに起き上がり臨戦態勢を取る。黒い影……もしくは豹はどこにいるか探る。それと同時にパーティメンバーの安否も確認した。
幸いなことにパーティメンバーは皆俺の周囲に倒れていた。あの黒い影も見当たらない。俺は取りあえず他のメンバーを起こすことにした。
「おい、しっかりしろっ! 無事か?」
そう声を掛けながら周囲を観察することも忘れない。勿論メンバーたちの身体の状態もだ。周囲は先ほどの障気の充満した遺跡と違い、清潔で物静か……静謐と言うべきだろうか。そして祭壇があり、この部屋は神殿の様であった。
パーティメンバーの具合は打ち身程度だろうか? どれほどの距離を落ちてきたのかは分からない。壁に大きな穴があり、その近くに床の破片と思われる瓦礫があることから、そこから落ちてきたと推測できた。そう思うと打ち身程度で済んだのは奇跡だろうか。いや、落ちてくるときにあちこちぶつけた記憶がある。きっと曲がりくねっていたのだろう。真っ直ぐ落ちた分けで無いことは幸いだったかもしれない。
「ぐっ、ここは?」
魔法使いが目を覚ました。その後は続々と目を覚ます。
「ここがどこかは分からない」
そう言いつつ、壁の穴を観察する。とても登って戻れそうになかった。中は真っ暗である。どれほど落ちたのかも分からない。どうするか皆に尋ねる前に部屋の様子を観察する。すると――祭壇の中央に人が磔にされているのが見えた。
「人だ――」
俺はそう言って近づいて行く。他の者たちもポカンとした感じで見惚れていた。そう磔にされていたのは非常にに美しい少女であった。そしてその身には一糸も纏っていない。そんな少女だ。生きているのか死んでいるのか確認したくなったのだ。
そして近づいて分かる。少女の白い手足には太い杭が刺さっていることを、髪は白く長いそれが体に巻き付く様に大切な場所を隠していた。そしてここまで近づいてもまだ、少女が死んでいるのか生きているのか分からなかった。まるで少女は眠っている様にも見える。しかし常識的に考えてこんな場所で生きていくことなど不可能だろう。ならば――。
「死んでいるのかな?」
誰かが思わずそう呟く。そして俺は遂に触れられる距離まで近づいた。そこでもまだ生死は分からない。故に確認のため少女の白い首に触れた瞬間だった。
「ぐわあああああ」
俺の中の何かが少女の方に流れ込んでいく。俺は少女の顔を見た。そこにはとても少女とは思えぬ妖艶な顔をして笑っていた。更に少女の金色の瞳が光った様に見えた。それを最後に俺の意識は暗闇に落ちた。
周囲の仲間たちが突然悲鳴を上げて倒れたリーダーを見て、少女に警戒する。しかしそれは無駄であった。彼らの後ろには既に黒い影が迫っていたのだ。そのことに気付き振り返ろうとするが、身体が動かない。少女の金色の瞳から目が離せなかった。そして無防備なまま、彼らもリーダーと同じように意識を刈られたのであった。
冒険者たちが静かになった後、少女と黒い影が残る。
「ありがとう。コイツらを連れてきてくれたのね。これでようやくここから解放されるのかしら」
黒い影が気絶した冒険者を少女の下まで運ぶ。そして少女は彼らから魔力と生命力を奪うのであった。更に力を入れてみる。しかし杭は軋む音を鳴らすだけで外れることはなかった。
「ごめんね。まだ少し足りないみたい」
そう悲しそうに黒い影を見つめた。黒い影は分かったと言った感じで、再び闇に溶けていく。
「大丈夫、待つのは得意だから」
少女は誰も聞く者のいない祭壇でそう呟くのであった。
遺跡の奥まで行った翌日。今日から泊まり込みで探索しようと言うことになった。なので――。
「では行くぞっ! 新天地へっ! 夜逃げじゃ、夜逃げじゃー!」
俺はテンション高めに宣言する。
「ものっ凄く朝ですよ? 大丈夫ですか? 体調が悪いなら明日にしますか?」
フラウが俺をいじめるように口撃してくる。最近、フラウによる俺の扱いが酷い気がする。尚、自分の行いのことは考えない。考えてはいけない。
「ちょっと言ってみただけです。ゴメンナサイ」
それでも何故か低姿勢で謝ってしまうのであった。これはもしかすると、恐怖政治と言う奴か? いやいや、フラウに限ってそんなこんなこと……。
「なんだか失礼なことを考えてませんか?」
「いえ、頭の中は空っぽでありますっ!」
「それはそれで問題ですっ!」
「アルテナを見てみろっ! 頭の中空っぽでもなんとかなっているぞっ!!」
そう言うと、フラウは納得顔になってしまった。アルテナよ、これで良いのか? 少し心配になってしまう。特に周囲のアルテナに対する評価について。
「なんでそこで納得するんですかっ! 私を弁護して下さいよっ。悲しくて泣いちゃいますよっ!」
アルテナが話しに割り込んでくる。そしてフラウがアルテナに言い訳を始めた。よしここが引き際だ。戦略的撤退を行う。
「なに逃げようとしてるんですかっ! 元はと言えばライルがおかしなこと言うからじゃないですか~。責任取って下さいっ」
しかし回り込まれてしまった。
「今度何か奢ってやるから――」
「やったー!」
や、安い女神である。フラウにはなんか白い眼で見られた。あの眼はきっと私にも何かくださいだな。何か買ってやるとしよう。
「すまない、遅くなった」
アビスが遅れて準備が整う。何やら屋敷の警備などの指示を出していたらしい。アビス直属の部下はロイとなっている。彼は犯罪奴隷だが、エルフであることもあり経験豊かだ。それ故に指揮を任されることが多い。それに何故か人望もあった。俺には無いのにっ!
それは良いとして、本日から数日戻らない可能性があるので、色々と指示をしていたらしい。まあ緊急時は念話機を利用しても良いことにしてある。ただし妃様や王女、それに奴隷以外の使用人にはバレない様に注意が必要だ。バレると大変なことになるからな……。
「問題無い。では行くとするかっ!」
今度こそ出発である。本当にさっきのは言ってみただけだったのだ。夜逃げなんかしないヨ、タブン。
そして遺跡前に辿り付く。今日はなんだか周囲から注目されている。気のせいと思いたい。
「昨日の下の階層へ行ったの、もう噂になっているようですね~」
アルテナが呑気そうに言う。俺は厄介事にならないことを祈るしかなかった。取りあえず、情報収集を行っておく。これは基本だ危険な話しなどが聞けたりするからな。
すると、昨日から戻っていない冒険者のパーティが1つあるらしい。しかも装備的に日帰りの装備で潜ったそうだ。更にその冒険者パーティは遺跡の探索が得意らしい。魔法使いもいるし、地図を書ける人もいるので、単純に迷って遭難したとは考えづらいらしい。
何かトラブルがあった可能性がある。注意して進まなければならない。それともしそのパーティを見つけたら救助が必要だな。
「では中に出発でーす」
アルテナが上機嫌に歩く。その後ろで俺は厄介事が付いて来るのを感じる。なので足を止めてみる。すると、厄介事も止まる。そう、俺たちが下層への抜け道を知っていると思い、他の冒険者が付けて来ているのだ。
「さてどうするか……」
「遺跡の中だと撒くに撒けんな。だからと言って、実力行使することも気が引ける」
だろうなぁ。俺もアビスと同意見だ。向こうが攻撃してきたら、サクッと潰せるんだけどな。
「はいはーい。私に名案がありますっ!」
アルテナが自信満々に手を挙げる。きっと迷案だろうが一応聞いてみる。
「フラウちゃんが色仕掛けをして――」
「なんで私がそんなことしないとダメなんですかっ!?」
うん。正しく迷案であった。フラウがキレるのも仕方がない。アルテナとフラウがぎゃーぎゃー言っているが、尾行している冒険者たちはじっと待機している。その内痺れを切らして襲いかかってきたりしないかな。そうしてくれるとありがたいのだが。
取りあえず、コイツらを連れて下層へ行く気はない。なのでしばらくは様子見と言うことでその辺りをブラブラと移動することにした。
勿論、時々意味ありげな行動をしたりして、嫌がらせをする。こう言うのをアルテナは非常に楽しそうにやっていた。相手を焦らせていると思えば楽しいものだ。ちなみに付いて来ている冒険者は見たことも無い奴らだった。
そうしてテキトーに進んでいる内に、番人のいる門番の近くまでやってきた。すると、そこから戦闘の音が聞こえてくる。ふと近づいてこっそりと見てみると、異母弟とその仲間たちが番人と戦っていた。
すみませんすみません。色々と忙しくてっ!
12月もマイペース更新になると思います。
それでも良ければこれからもよろしくお願いします。
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