第65話 奇跡の安売りはしませんっ
今日も昨日の様に穴掘りに勤しんだ。俺は基本的に下を意識しながら空間のある場所に向かって斜めに掘っている。途中で何か硬い結界みたいなのがあったが、気にせずぶち破る。そのまま進んである部屋に出た。
「うわっ、こりゃ酷い障気だな」
「そうですね~、人体に害が及ぶレベルです」
こんな呑気に話して居られるのは、アルテナがすぐさま結界を張ったからだ。更に周囲を浄化していく。
「さすが自称女神。やりますなー」
「正真正銘の女神ですっ! 全くもうっ!」
アルテナ様がご機嫌斜めになった。
「ふむ、最近女神と言っているのも嘘とは思えない……と思うこともあるな」
アビスが遠回しな表現をしながら感心していた。やはり信じていないのである。アビスは何度かアルテナに騙されたしな。こればっかりは日頃の行いとしか言えない。
「だから正真正銘の女神なんですってばー。フラウ~、2人がいじめます~」
「アルテナさんはたまに凄いんですよ?」
フラウが微妙なフォローをする。ホントにフォローになっているのかは微妙なところであるが。
「ほらっ、私はたまに凄いんです。奇跡の安売りはしませんっ! ほらほらっ、神様っぽいところがあるでしょう?」
本人が元気を取り戻したので良しとしよう。さてアルテナはスルーして、周囲のチェックを行う。
客室みたいな部屋である。今までと違って綺麗に保存された感じである。家具に埃も積もっていない。もしかするとさっきアルテナと破った結界が、状態保存の魔法だったのかもしれない。まあいいか。必要だったらアルテナに張らせれば良いし。
「雰囲気がガラリと変わったな。注意して行こう」
皆頷く。そして客室から廊下に出る。この辺りは障気が充満しているので、浄化されるまで視界が悪い。廊下も客室と同じように清潔であった。廊下の左右には等間隔で扉があった。これは全部客室かな? とにかく調べて見る。罠を確認しながら、一部屋ずつ見るのは大変面倒だった。時間も取られた。しかしその甲斐あってか、日記の様な物を見つけることができた。日記と判断したのは、文字は読めないが数字は分かった。それが日付に見えたからだ。
「アルテナ、ちょいと来て。そしてこれを読むんだ」
「う~ん、これは……日記ですけど。口で言うのは憚れますね。悩める乙女の恋愛日記です」
がっくしである。期待したのに。アルテナはそれを自分の異空間庫にしまった。次を探したいところだが、扉の罠の確認などに時間を掛け過ぎた。そろそろ帰らねばならない。明日からは数日泊まれる準備を行ってから、来ようと言うことになった。
それと丁度品を回収しておくことを忘れない。この内のいくつかを査定に出してみよう。いくらになるかワクワクである。
そして地上に戻った。すっかり夕暮れである。臨時の受付場所で今回の出土品を鑑定してもらう。
「これ、ホントに出たんですか? 確かに今まで出土した品と同じ系譜の物ですが……。この状態の良さはどういうことでしょうか?」
「たぶんですけど、状態保存の魔法が掛かっていたのだと思います」
頷いた後、そう説明した。
「と言うことであれば……深層の方に入られたのですか?」
「そう言うことになるでしょうか?」
あそこが深層かどうかなんて分からない。なのでそう答えておいた。取りあえず、査定は数日お待ち下さいと言われてしまった。残念。そしてその話しを聞いていた周りが騒がしくなる。番人を倒したのか? 抜け道か? など俺が深層に行った方法についての話しが多い。
鬱陶しいのでその合間を仲間と一緒にすり抜けた。聞かれても答える気は無いからな。しかし強引に目の前を塞ぐ者が現れる。その顔を見て、またコイツか……とため息を吐いてしまうのであった。
「貴様っ、どうやって深層に行ったっ!」
「言う必要がない」
「なんだとっ! それにお前が行った場所が深層とは限らないっ! だからまだ勝負には負けていないっ! 分かったかっ!」
そう言うだけ言って去って行った。俺はその背中に向けて、小さく呟くのだった。
「なんなのかねぇ」
あのアルテナですらため息を吐いていた。正直、異母弟の自己満足に付き合う気は無い。異母弟は異母弟、俺は俺、それで良いと思うんだけどな。俺だってクリス兄に学問で勝つことは無理だしな。早くそのことに悟れることを祈るのみだ。
くそがあああああ! 雇った冒険者たちは一体何をしているんだ。初心者相手に負けやがってっ! そして奴の俺を哀れむような目が許せないっ! 絶対に後悔させてやるっ!
しかしそれにはまず成果を見せねば……明日早く雇った冒険者に会い、すぐに深層へ向かわなければならない。なんとしても奴に勝たねばならない。まだっ、まだ負けが決まったわけではない。奴が本当に深層に行ったとは限らないのだから。
いや、こんなすぐに深層に行けるわけがない。奴は何らかのズルをしたのだ。もしかすると俺の雇った冒険者が裏切る? いやそんなことは無いはずだ。とにかく明日だ。明日巻き返すんだ。
そして俺は翌日絶望した。俺の雇った冒険者が昨日帰っていないのだ。遭難と思われてギルドでは騒がれているが、俺には分かった。あの冒険者たちは俺を裏切って奴に通じていたに違いない。奴に深層への抜け道を教えたのだ。
それで俺にバレると思って行方を眩ませたに違いないっ。くそっ、どこまでも俺を馬鹿にしやがってっ! あの冒険者たちもさぞ影で俺を笑っていたのだろう。許せねぇ。
しかしそれよりも賭けだ。どうにかして勝たねば俺に未来は無い。そしてもう俺に残された手段は少ない。正攻法で攻めるくらいか?
俺に決断が迫っていた。
時間は前日に戻る。抜け道の探索を依頼されていた冒険者たちである。勿論彼らはライルと繋がったりなどはしていない。むしろ顔も知らないのである。そのことをマルクは知らない。
そんな彼らは今休憩が終わり、探索を再開するところであった。
「とにかくまずは怪しい縦穴を調べるぞ! 気を抜くなよっ!」
そしてその縦穴に向かって進んで行く。すると――、
「うっ、これは?」
「障気だな。かなり濃い」
俺が思わず顔を顰めて尋ねる。それに魔法使いが解答してくれた。そして続けて言い放つ。
「俺が浄化するっ。これは魔法薬のお世話になりそうだなっ!」
そう気合いを入れて、光の魔法で浄化を行ってくれる。本当にコイツが居てくれて助かった。他のメンバーでは障気相手にはどうしようもない。悪いが頑張ってもらうことにした。
そして例の縦穴のある部屋までなんとか辿り付くことができた。そこで見たものは……直径50cmほどの縦穴から吹き出る障気である。さすがにこれを浄化するのは無理なので、障気の進入を防ぐ結界に切り替えた。
この状態だと魔法使いから離れることができない。魔物に襲われると大ピンチである。しかし浄化するのは現実的ではない以上こうするしかないのだ。魔物と遭遇しないことを祈るのみだ。
「なぁ、この縦穴の先は何があると思う?」
「ま、魔界だろうか?」
パーティメンバーからそんな冗談が出るほど、障気は濃かった。さてこれからどうするべきかを考えなければならない。そのためにはまず安全な場所へ戻ることを決める。
「よし一旦さっき休憩した場所に戻るぞ。そこで今後のことを考えよう」
そう告げて、戻ろうとするが、そこで声が掛かった。
「待てっ、何か居るぞっ!」
戦闘係がそう警告を発した。障気の所為で視界が悪いのだ。こんな中で戦闘とか勘弁してほしい。
「来たっ!」
水使いがそう言い放ち、魔法を展開する。障気の中から黒い影が飛び出してきた。これまでにも遺跡内で黒い影を見たと言う噂があった。俺たちは見たことなかったが、これがその正体かもしれない。俺も剣を抜き放つ。しかし黒い影を捉えることはできなかった。
水使いも足止めのための魔法を放った。しかしこれもスルリと躱された。地図係は弓で牽制攻撃を行う。それも事も無げに回避された。魔法使いは結界の維持に集中していた。
「コイツは素早いぞっ! 皆注意しろっ!」
俺はそう声を掛ける。その後も攻防が続く。障気の所為で自由に動けない俺たちを、黒い影は追い詰める様に攻撃を行ってくる。
気付けば部屋の隅に追い込まれていた。戦闘係は最前線で攻撃を受け、何カ所も爪で切り裂かれていた。このままでは、そう思ったとき、黒い影が上に大きく飛び上がる。水使いがそれをチャンスと見て攻撃魔法を放った。
しかし攻撃を受ける直前、黒い影が巨大化した。水使いの氷槍も飲み込まれた。身体の中に取り込まれる感じだった。そして大きくなった黒い影……これは豹だろうか? それは俺たちに向かって突進してくる。
目の前に迫った瞬間、体当たりの先が自分たちではなく、床であることに気付いたが既に手遅れであった。床は砕かれて、俺たちは奈落へと落ちていった。
ライル「風邪引いた。最近寒くなってきたkら注意するんだぞ」
アルテナ「治癒魔法で治したらどうですか?」
ライル「風邪の原因が分からないっ!」
アルテナ「以外と不便ですね~」
そう言う分けで風邪引いてましたっ!
皆様も気を付けて下さい。
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