第64話 そんな大声で怠惰発言しないで下さいっ

 俺は焦っていた。冒険者初心者のはずの奴が初日に成果を出したことに。どこからか持ち込んだ物と疑ったが、ギルド職員の鑑定の結果、この遺跡の出土品とのことだった。


 ありえない。既にこの遺跡の浅瀬はほとんどが探索済みである。それならば――奴は奥へ行ったのだ。奴自身も魔法使いだ。それにエルフは魔法使いが多い。だからあの女もそうだろう。


 「くそっ、金と力でなんでもこなしやしやがって。どうせ実家の金と権力だっ」


 そうは苦々しい顔で毒づく。


 むしろライルは実家から独立しており、お金の仕送りなどはされていないし、貰ったお金も支度金だけである。それ故にお金に汚かったりするのだが、そのことを彼は知らない。


 逆にマルクルトは母親から仕送りがあるし、実家の名を全面に押し出していたりするのだが、彼はそう言った矛盾などは気にしていない。全ては異母兄が悪いのだ。それで完結していた。


 とにかくこのままでは拙い。故に探索を頼んでいる冒険者たちと話しをするが、上手くことが運ばない。結局、追加報酬を出すことで急ぎの仕事と納得させた。それでも仕事の開始は明日になるが。その報告を待ってからだと、自分が深層に行くのは明後日になってしまう。


 奴が明日、深層に辿り付かないか気が気でなかった。どうすれば……しかし妨害することはほぼ不可能だ。正面から戦ってはダメだ。だからと言って裏工作できるようなコネも人材も無い。ここは祈るしかないのだ。明日奴らが深層へ辿り付かないことを、そして依頼した冒険者が深層への抜け道を見つけることを。




 翌日ライルは目を覚まし、朝食を食べていると妃様に捕まった。


 「さて、昨日の冒険の話しを聞かせてくれるかの?」


 「今聞けば、昨日の分だけですよ? 明日聞けば今日の分も加わりますよっ」


 そう言って説得しようとする。無理かな? 無理だろうな~。


 「今日の分は明日聞けばええ。よって今すぐテラスへ行くぞえ」


 やっぱり無理だったー。そんな簡単な人なら誰も苦労しないか……。そして別宅のテラスへ連れて行かれる。そこには王女も待ち受けていた。そして何故かフラウとアルテナもいた。


 「フラウとアルテナ居るのでしたら、私は必要な――」


 「其方そなたも話すのじゃっ!」


 俺の発言は途中で被せられて消えた。近くにいたメイドさんなどが気の毒そうに見ていた。ねぇ、助けてよ。そう視線で訴えたが、視線を逸らされて終わった。俺は哀れな生贄の子羊と言うことか……しくしく。


 気を取り直して、昨日のことを脚色しながら話す。主に大変だったと言う方向に。ついて来る気が起きない様にしないとな。俺の心……いや皆の心の安寧のために。


 しかし俺の期待とは逆に、妃様の方は興味が沸いてしまった様だった。ナンテコッタイ。また戦友ともたちの世話になるかもしれない。そう思ったが、一応昨日の今日だったためか自重してくれた。


 「行きたいのは山々じゃが、今日のところは諦めようぞ」


 今日のところはと言っているのが……な? もう永遠に諦めてくれ。そう言いたいけど怖くて言えない。ここは空気を読まないアルテナ様に振ってみる。


 (女神アルテナ様、ここは永遠に諦めて下さいとか言って下さい)


 (あ~、この方フォルテナ様と同じオーラを纏っているから無理ですね~)


 (やっぱこの女神役に立たねーよっ!)


 思わず早口気味に言い放ってしまった。単なる八つ当たりですまないなアルテナよ。心の中で謝罪しておいた。


 (えへへへ、そんなに褒めなくても良いんですよ?)


 ……やっぱダメだわ。この女神。そう再認識することができた。謝罪の必要なかったな。


 さて出だしは挫かれたが、今日も遺跡に行こうと思っている。昨日ギルドに提出した品は高評価を得ることができ、なかなかの額で買い取ってもらえた。まだ俺の異空間庫の中には沢山あるが。ぐへへへへ。どんどん回収してお金持ちになるどー。


 それよりも俺にはこの遺跡に狙いがある。そうゴーレムが沢山いると言うことは、それに関する物もあるはずである。俺はゴーレム製作の知識がほしいのだ。それがあれば屋敷や商会の警備が楽になる。要するに楽がしたいっ!


 「俺は楽がしたいっ! なので今頑張るのだっ! そう言う分けで行くぞっ!」


 「あ~、その気持ち分かります~。私も楽がしたいです~」


 「そんな大声で怠惰発言しないで下さいっ! 評判に関わりますっ!」


 「私も最近は余暇の大切さが身に染みて分かった」


 理解を示した人が多くて良いことだ。アビスが賛成したのは意外であったが。聞けば書類仕事から解放されて、心地よい気分らしい。なるほどな……と、相づちをを打って、俺は視線を逸らした。


 そして安心しろ、アビスよ。また俺が書類に埋もれるようなことがあれば、その時はちゃんと巻き込んでやるからな。その方が解放された時、良い気分になれるだろ?


 こうしてライルたちは新たな財宝を求めて遺跡へ向かうのであった。この時ライルの頭の中には、異母弟のことなどきれいサッパリ忘れていた。




 昨日依頼主に急かされたため、今日は朝早くから遺跡に潜ることにした。これでも俺たちは真面目な冒険者だ。故に信用を大事にしている。それに追加報酬は約倍額らしいしな。これは頑張らねばならない。


 「さて、方針としては穴の先を重点的に探索することだな。今回は魔法も探索に使おう」


 「そうすると、もし穴を掘らないとダメな場合は魔力が足りなくなるが?」


 魔法使いがそう言ってくる。なので俺は懐からある瓶を出した。それを見た魔法使いは露骨に嫌そうな顔をした。


 「今回は報酬が倍額出る。ならばケチる必要は無いだろう?」


 「いや、それは良いんだが……魔法薬は単純にもの凄く不味いんだよなぁ」


 そう嘆く魔法使いであった。前に一回舐めてみたが、確かに不味かった。俺は二度と舐めたくないと感じるほどだった。そんな恐ろしい飲み物だ。しかしこれも依頼のため諦めてくれ。まあ穴掘る必要が無いこと祈ろうぜ。


 そして俺たちは穴の先まで来た。この辺りは生物型の魔物が多い。それで尚かつ罠も生きていると言う不思議な場所だ。一番始めに来た時から怪しい場所ではあったのだ。只、進みたい方向と逆だったため余り調べていなかった。勿論、魔物と罠の相手をするのが嫌だったのもある。


 「ここは入り口付近よりも障気が濃い気がしますね」


 小柄な水使いがそう言った。確かに空気が淀んでいる感じもする。正直に言うと気味が悪い。しかしこれも仕事、そう割り切り魔物を倒しながら探索する。


 そんな中、罠も解除しなければならないので、普段の倍以上疲れてしまった。


 「リーダー大丈夫か?」


 「さすがに疲れたなここで少し休憩させてくれ」


 俺がそう言うと皆了承した。無理して死ぬのは皆嫌だ。心配してくれた水使いがコップに水を入れて持ってきてくれた。


 他のメンバー、地図係と魔法使いは何やら相談事をしている。戦闘係は周囲の警戒を自然と行っていた。


 「ありがとう。助かるぜ」


 そう言って一息つく。俺は考えを巡らせた。この遺跡はどこかこれまでの遺跡と違う。魔物が住み着いたにしては多いのだ。次から次へと現れる。それにあのゴーレムの数だ。誰かが管理していなければ維持できないのではないか? まあ俺の推測だけどな。


 そんなことを考えていると、


 「あったぞ」


 魔法使いが声を上げた。俺は思わず聞き返す。


 「何がだ?」


 「ああ、まだ説明していなかったな。さっきからここ遺跡はおかしいと思ってな。色々と地下を魔法で調べていたんだ」


 お前もかと俺は思う。調べていたなら言えよ、とも同時に思った。


 「結果、向こうの方に細い縦穴がある。しかしこれは……何と言うか、魔法の探索を受けづらかった。注意して行くべきだ」


 魔法使いの示した方向は遺跡の中央とは逆側、つまり外側を示していた。縦穴の抜け道か……それもあるかもしれない。しか問題は人が通れるかどうかだな。単なる空気の通り道と言うのも考えられる。そしてもし降りるとなると少し危険かもしれない。そこは慎重に阪大しないとダメだ。俺はそう考えて、皆に宣言する。


 「そうだな。もう少し休憩したら言ってみよう」


 結局、行かなければ何も分からないのだ。行く以外の選択肢は無いのだ。


 俺は行く先の方向を見ると、不意に引き込まれるような感覚に陥った。すぐにそれは無くなったが、身体に何か冷たい感覚を残していった。俺は不安からの幻想だとその感覚を振り払い立ち上がる。


 「では行くとするかっ! 細心の注意を払えよっ!」





アルテナ「あはははは。お金儲けざっくざくです~」

ライル「俺はこれで食っちゃ寝して生きるんだ」

フラウ「……………………」

ライル「フラウの視線が怖いっす」

アルテナ「ご、ごめんなさい。はっ! 何故か謝罪の言葉が……」

ライル「アルテナああああ、俺を見捨てて寝返る気かっ!」

フラウ「アビスさん、やっちゃって下さい」

アビス「心得た」

ライル、アルテナ「もう既に裏切ってる奴(人)が……」


ほぼ追いつかれましたので、明日から不定期更新になります。

申し訳ありません。

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