第63話 古代遺跡を舐めてたぜ
俺にはたった3ヶ月先に産まれた兄がいる。俺の人生そいつに奪われてばかりだ。初めて見かけた時から目障りな奴だった。いつも賢そうな態度で皆から好かれていた。父上からも期待されていた。
更には魔法も使えて才能に溢れていた。もし奴が居なければ、その才能は俺に引き継がれていたはずだった。そう母上が言っていた。
故に奴は俺から力を奪ったのだ。父上を奪ったのだ。そして貴族の席を奪ったのだ。奴も俺と同じ冒険者になるみたいだった。奴はちゃんとした冒険者学校で学ぶみたいだ。
しかし俺は違う。奴よりも先に進むため、より実戦を学ぶため、俺はすぐに冒険者になることにした。母上が支度金と魔剣を用意してくれた。この魔剣があれば奴など……。いや、まだ変な気は起こしてはならない。俺だけでなく母上にまで害が及んでしまう。
そして俺は冒険者になった。王都へ行き金の力で仲間を募った。それで順調に冒険を進めランクがCになった。そんなある日だ。悪魔殺しの噂を聞いたのは。奴のことだ。奴め他人の功績を金で買ったか? ふん、冒険者の名折れだな。俺はあのようにはならない。
更に時間が進み俺は焦っていた。後8ヶ月ほどで俺の貴族の席は剥奪される。それまでに功績を挙げて、なんとか貴族の席に残りたかった。そして奴と冒険者ギルドで出会った。
そこで奴は叙爵されたということを知った。知ってしまった。例の悪魔殺しの件だろう。くそっ、金で買った功績の癖にっ。しかも綺麗なエルフの女を奴隷に連れていた。いくらで買ったんだっ! これだから実家の支援がある奴は……。冒険者ならば自分の稼ぎでなんとかしろよな。
その日の内に色々と奴のことを調べた。どうやら叙爵されたのは悪魔殺しの功績で間違い無いようだ。ならば今度会ったときに……くっくっくっくっ。覚えていろ異母兄よ。
翌日に早速チャンスが来た。まさかこれほど早く来るとは、俺は天に愛されているに違いない。勝負を持ちかける……が、ここで大変難儀した。まともに取り合ってくれない。無視して先に進もうとする。奴に取って俺がどの程度の価値かよく分かったものだ。
しかしここで受けて貰わねば意味が無い。故に妥協した。エルフの女は諦めることになったが、悪魔殺しの名誉を賭けさせることに成功した。後は勝つだけだ。そうすれば俺も叙爵され貴族でいることができる。
この勝負はほぼ俺の勝ちだ。俺はこの遺跡には何度も通っている。奴はここに来たのを見たことが無い。故に初めてか2、3回目だろう。それに対して俺は準備を整えている。抜け道の探索を依頼した冒険者が、そろそろ報告してくるはずだ。それさえ待てば良いのさ。簡単だろ? もうすぐ俺の目的の1つが叶う。ふはははははは。
なんだか背筋に悪寒が流れた。気のせいだと思いたい。現在俺は全力で穴を掘っている。穴を掘り出して思ったことは、これ凄い楽じゃね?
地中の探査魔法を使って、部屋と思われる空間があればそこに一直線。これは反則技かもしれない。ちゃんと掘った穴は崩れないように押し固めてある。正直、遺跡の通路の方が危ないくらいだ。
「お、ここはなんか本があるぞっ!」
「ホントですかっ!?」
フラウが興奮した声をあげる。しかしボロボロなのが多いから、細心の注意が必要だけどな。近くの本のタイトルを読んでみる。
「悪魔の召喚儀式のやり方入門編。……アビスよ、これは燃やしてしまうか?」
近くにいくつかの本があったが、読めた本はそれだけだった。他の本に何が書いてあるのかは俺は分からない。アルテナが色々と見て回っているので、その報告を聞こう。フラウも1つの本と睨めっこをしている。
「そうだな。だが念のためフラウ殿やアルテナ殿の意見を聞いてからにするか」
他の本も確認してみる。俺は固有スキルの<転生者への加護>のお陰で、いくらかは読めるみたいだ。万能にはほど遠いし、擦れているのは読みようがない。
「う~ん、どれも与太話の類ですね~。まともなのはありません。残念ですん」
「え? これ全部、価値が無いのですかっ?」
フラウが愕然としている。期待も大きそうだったしな。
「そうですね。でも売ればコレクターなどには売れますよ? 古書好きな人は居ますし。なのでライルに全て持って行ってもらいましょう」
自分でもできるだろ。とは思ったが勝手に売られると嫌なので、俺が保管しておく。悪魔召喚の本も完全にネタ本とアルテナに鑑定された。紛らわしいタイトルにしやがって。
その後も、穴を掘って移動する。進行する方向はテキトーに下に向かってである。その途中に部屋と思われる空間があれば寄り道する。空振りも多かったが、中には古代の装飾品や調度品などの良い状態品を発見することができた。
「なかなか、美味しいな。古代遺跡を舐めてたぜ」
「いえ、普通は罠とかにもっと苦労しますからね。魔物にも」
フラウがそう指摘する。その後ろでアビスもうんうんと頷いていた。とにかくそろそろ時間がヤバイと言うことで戻ることにする。
そして冒険者ギルドの出張所で売り払う物を適当に選ぶ。後は穴の入り口はちゃんと塞いでおいた。ふはははははは、俺たち以外に使用させるようなことはさせぬよ。
さていくらで売れるかな? と期待しつつ、買い取りの受付に向かうのであった。
俺たちは遺跡などの探索を専門としている冒険者だ。遺跡の調査や地図を製作したり、他にも調査員の護衛をしたりと依頼は多岐に渡る。現在ある貴族の子弟に雇われて、王都近くの遺跡に潜っている。今回の依頼主は、深層前に立ち塞がる番人を避けて奥へ行きたいらしい。
そんな分けで潜ってはいるのだが、なかなか上手く進まない。抜け道っぽいところにはゴーレムがわんさか居たりと、防衛に隙間がない。こんなことは初めてであった。
なので最終手段に出ることにした。壁を崩して穴を掘るのだ。さすがに手で掘らないからな。うちのパーティには魔法使いが2人もいる。1人は水属性のみだが、もう1人は土と光が使えるのだ。
この2人のおかげで遺跡での探索がスムーズに行える。俺がリーダーで主に罠の発見や解除を担当としている。他に2人おり、それぞれ地図と戦闘が得意だ。
そして今、俺たちは必死で壁を崩している。この向こうに空間があるらしいのだ。土魔法で調べたので間違いない。更にこの場所は遺跡内では安定しており、壁の一角を崩しても崩落しないと思われた。
「いつも思うけど、壁の方も魔法でなんとかならないのか?」
「いつも答えているけど、人工物を壊そうとするとより多くの魔力が必要なんだ」
いつもの俺の愚痴に飽きずに返してくれる魔法使い。なんだかんだ言って、遺跡に潜ると穴を掘ることが多いのだ。発掘の手伝いもしたこともある。冒険者とは別名何でも屋だからだ。
壁を崩し終えると土魔法の出番である。そして人1人分の空間の穴を掘っていく。魔力節約のため通るのは結構ギリギリの幅だったりする。なんとか魔力が尽きる前に壁の先の空間まで繋ぐことができた。
更に探索を続けると、門のある場所に着いた。そして門の前には見たことある番人が……。
「これってもしかして……」
「だよなぁ」
そう別の入り口を見つけたが、そこにも門番が居たと言うオチである。その後も日を跨ぎ探索を続けた。結果、ある部屋もしくは空間の四方に入り口があり、それぞれに門番が居ることが分かった。そしてその門番の先に更なる下への階層の階段でもあるのだろう。
門番の先の空間は結構な広さがある。もしかしたら何かの研究施設があったり、宝物庫があるかもしれないが……。あまり期待はしないでおこう。
とにかくこの日は出直して作戦の立て直しである。そう思って帰ることにした。そして遺跡の外に出ると妙に騒がしい。冒険者ギルドの買い取りの場所からだ。周囲の人に尋ねてみると、どうやら珍しい物が持ち帰られたらしい。現在ある地図に無い場所まで行ったそうな。そんなことを考えていると、慌てた様子の依頼主が近づいて来た。
「お前たちっ! 深層に向かう道は発見できたのかっ!?」
そう聞いてきたので、今日の探索結果を話すと依頼主は愕然とした様子になった。そして――
「す、すぐに引き返して抜け道を探してくるんだっ! いくら払っていると思っているんだっ!」
そう言うがあまり金払いはよくない。今日はもう疲れたし、魔法使いの魔力も残っていない。そう説明するがなかなか引き下がらない。何か焦っているようだ。とにかく何度も説明をしたら、早い内に結果を出すように言われた。そして追加の報酬を出すとも言ってきた。
それならば、明日以降また頑張らないとな。門番を倒すのは正直無理だ。戦っている様子を遠くから見たことがあるが、俺たちには無理だと判断した。ならばやはり抜け道しかない。幸い穴を掘った先にはゴーレムの少ない地区もあった。その辺りから中央に向かって抜け道が無いか探って行くとしよう。
ライル「正直、俺も父様にはあまり期待されていなかったんだけどなっ!」
アルテナ「更に実家から金銭的な支援は無いですしね~」
ライル「色々と勘違いされている分けだ」
アルテナ「訓練と称して焼かれてましたしね~。楽はしてませんね」
ライル「思い出させないでくれ……」
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