第62話 決して振り向いてはならぬ

 なんとか妃様が付いて来ることを防ぐことができた。皆に感謝だ。さて今日のところはこれくらいにして、明日遺跡に向かうと言うことでゆっくり休むことにした。


 翌日、良い天気である。地下に潜るのでそれほど天気は関係ないかな? 雨さえ降らなければ。それではいざ出発というところで背中に視線が感じる。


 「王妃様が仲間にしてほしい目でこちらを見てますよ~」


 決して振り向いてはならぬ。アルテナよ、事細かに解説しなくていい。俺は気付いてないし、聞こえていないんだ。


 そうして視線を振り払って出発した。


 遺跡は王都を出て北西のところにある。冒険者ギルドで依頼を受ける必要無い。ただ、遺跡前にはギルドの出張所が出ており、遺跡から出た掘り出し物などの買い取りを行っている。


 そして人が集まっていると言うことは、商人たちも集まってきている。なのでここは本当に遺跡前なのかと疑問に思うくらい、露店や人で溢れていた。


 そんな中ある人影を見つけてしまう。


 「げっ」


 思わずそんな声が出てしまった。向こうも少々嫌そうな顔をしていた。確か名前はマルハダカだっけ? 冗談ですよ? マルクルトですよ。ちゃんと覚えてます。


 しかし何か思いついたのか、仲間と共にこっちに向かってくる。昨日俺に突っかかってきた付き人も居たが、俺と目を合わせようとはしなかった。昨日の内に異母弟が説明したのかもな。


 「くっくっくっ、お前も冒険者だったよな。この前まで冒険者学校へ行っていた新米だろ? 金で悪魔殺しなんて名前を買いやがって」


 絡んでくるなぁ。それにコイツこんな喋り方するんだー。と思いつつそのまま過ぎ去ろうとする。


 「おいっ、待てよっ! 図星だからって逃げんなよっ! 俺はCランク冒険者の先輩だぜ。冒険者学校出たばかりじゃどうせDだろ?」


 「俺もCランクだ。じゃあな先輩」


 それだけ言って再び歩を進める。正直相手にする気になれない。アビスとフラウも同じらしく黙って後を付いて来る。アルテナだけは忍び笑いをしていた。なんかアルテナから邪気を感じるなっ!


 「だから待てよっ!」


 そう大声を出しながら、改めて俺の前に立ち塞がる。


 (立ち塞がる者は斬るべし、斬るべしっ)


 アルテナの声が脳内に響く。正直うざい。本当に斬ってやりたい。……いかんいかん、アルテナの誘導に引っかかるところだった。


 「なんだよ、マルハダカ」


 おっと、思わず頭の中の名称が出てしまったぜ。


 「マルクルトだっ! 態と言ってんのかっ!?」


 そうだよ。って言葉は飲み込んでおく。話が進まないからだ。目で言葉の先を促す。


 「お前もこの遺跡に挑むんだろう? ならば俺と勝負だっ! どちらが先に深部へ行けるかだっ」


 「その勝負を受けるメリットが見あたらない。ではな」


 そう言って去ろうとする。


 「お前が勝てば、俺はもうお前に絡まねぇ」


 ふむ、それはメリットだな。約束が守られればだが。


 「お前が勝つと?」


 「そこのエルフを寄越せ、それと――」


 「じゃあな」


 即答して立ち去る。相手がまだ何か言おうとしてたが知らん。フラウだけでも、何を言い出すと思えばと言った感じである。そしてフラウだけの取引でも色々問題があるし、そもそも釣り合わない。


 「まてまてまてまてっ。なんだ勝つ自信が無いのかっ!?」


 なんか引き留めようと必死過ぎて可哀想になるな。


 「お前の持ちかけた取引には色々問題がある。まず取引が釣り合わない。そして只の賭け事で人を弄ぶようなことは許されない。それから彼女は本来は奴隷から解放されている。故に俺の所有物とは言えない。分かったか? ならば回れ右して去れ」


 俺は懇切丁寧に説明してやった。なんて優しいのだろうか。自画自賛しておく。


 「ちっ、ならば他ので良いっ! 悪魔殺しの名とかなっ!」


 「それを名乗るのはお前の自由だ」


 内心ではお前既に名乗ってなかったっけ? と疑問を抱いていたりしたが。


 「ならそれで良いだろう? 俺に勝てたらこの魔剣も付けてやるぜ」


 そう言って魔剣をチラつかせた。その魔剣めっさ見たことあるんですけど……。その作りに特徴が……。更に魔力の流れから察するに、初期版の付与魔剣である。俺がディレンバの露店でハーケンと言う商人に売った奴である。彼に売ってもらったのかな? そう思うと遠くへ来たもんだなっと黄昏れてしまう。


 そしてその剣はいらん。だってもっと性能の良いの作れるしなっ。と言いたかったが、異母弟のプライドを鑑み言わないでおいた。誰も言ってくれないから自分で言おう。俺って優しい。


 「じゃあ、そう言うことでな。健闘を祈るよ」


 今度こそそう言って立ち去る。


 「はんっ」


 勝ち誇った笑みを返された。どこからその自信があるのだろうか? 彼のパーティメンバーを見てみる。レベル40~50くらいか。なかなか強者を揃えた様だ。それが自信なのかね。それとも既に奥の道に見当がついているかだな。どっちでも良いけどな。失うものも無いし。


 「フラウ、異母弟がすまないな」


 「いえ、了承しないとは分かっていましたから。それでこの賭け事どうなさるので?」


 フラウが方針を尋ねてくる。聞かれてもね~。


 「普通に無視。くだらん賭けに危険をおかしたくない」


 当然だろう。異母弟のことなど、どうでも良いんだから。


 「え~、ここは本気で潰しに掛かって、ボッコボコにしましょうよ~」


 アルテナが文句を言ってくる。だから、お前は、本当に、女神なのかっ!? アビスも肩を竦めていた。


 「さすがに時間の無駄だろう? できれば避けるべきだ。どうせ成人後は向こうが避けてくる」


 「ちぇ、仕方ないですね~。今日のところは諦めてあげましょう」


 コイツは一体何様なんだ? あっ、女神様でしたね。先ほどから悪魔みたいだけどなっ!


 さて話はこの辺にして、遺跡へ向かう。そこは地上部分はボロボロの建物だ。それでも歴史的な価値はあるので保護されている部分もあったらしい。……崩落したが。しかしその結果地下への扉が発見されたそうだ。そして地下は思ったより整っていた。崩落してるので場所によってはと注意が必要だが。


 昨日の内に、現在判明している範囲の地図を買っておいた。これを見て、人が探索していないところに、当たりを付けて進むことにする。入り口は複数あるので、一番人気のないところから入ることにした。逆に最も人気のあるところは先ほどの場所で、新たに発見された扉の埋まっていたところだ。その他複数は後になって開けられたのだ。主に退避用ではあるが。


 そして遺跡の地下に入った。外の喧噪も中に入ってすぐに聞こえなくなった。少しひんやりとしている。暗いので魔法で明かりを灯した。


 「さて行こうか。久しぶりの冒険で浮かれてミスしないように注意だな」


 「そうですね。油断大敵です。気を引き締めて参りましょう」


 フラウは真面目だねぇ。アルテナなんかふわふわしてるのに。見習えとは口が裂けても言えないが。


 「ライルよ、ここからは私が前を歩こう」


 アビスがそう言ってくるが、


 「アビスって罠とか解除するの得意だっけ?」


 と尋ねると、沈黙が返って来た。なので、


 「殿をよろしく。後ろからの奇襲はヤバイしね」


 「心得た」


 俺が一番前でフラウが前から2番目、アルテナはその後ろと言う隊列になった。中が狭くて基本一列での進行になりそうだ。俺は風と土の魔法を使って周囲を警戒しながら進む。


 なかなか歩きづらいな。これは妃様を連れて来なくて正解だ。帰ったらこの大変さをよく語ろう。そうすることで、今後ああいうことを言い出さなくなれば良いが……。無理かな?


 そのまま進み小一時間ほどが経過した。これまでに生物型の魔物と時々出くわした。どれも大して強くない小物であった。魔法を使って避けられるのは避けて、無理そうなら倒した。一応向かっている先は空白地帯。門の番人と戦うの後に取っておいた。楽しみは後にの精神だ。


 「それにしても同業者に出会わないねぇ。皆が抜け道を探しているなら、出会ってもよさそうだが」


 「そうですね~。もう地図に書かれていない場所なんですか~?」


 「先ほどからな」


 つい先ほど地図の範囲から出たところだ。これを書いた者はこの辺りで引き返したのだろう。今は俺が新たに書き足しながら進んでいる。フラウもチャレンジしたが……地図を書いてると足元がフラフラなのでやめさせた。転ける方に賭けても良いくらいだったしな。


 「なら何が出てもおかしくないですねっ! わくわく」


 アルテナは呑気で良いよな。


 それからしばらく進む。うん。どこも袋小路ばかりでなかなか前に進まない。


 「そろそろ飽きてきました~。日の光が恋しいです~」


 「よし、ならば神界に帰して――」


 「なんでもありません。薄暗いところってのも良いですねっ!」


 昔はあれほどこっちに降りるのを嫌がってたのにな……。変わりすぎだろっ! それにしてもアルテナが外に出たいと愚痴る気持ちも分かる。さっきから魔物もゴーレム型に変わったが、魔弾の一撃で仕留められるし面白くない。ゴーレムが魔法に弱いって言うのもあるのだが。


 そして狭い、暗い、埃っぽい、陰湿な罠があるっと嫌なことだらけだ。そこで俺は閃いてしまった……。


 「別に道なりに進む必要って無くない?」


 「と言いますと?」


 フラウが尋ねてくる。良いこと思いついたんだって顔でフラウを見ると、凄い嫌そうな顔をされた。少し傷ついた。


 「崩れない程度に、壁に穴を開けて進めば良いのだっ! そもそも崩落しているところを迂回する必要さえなかったっ!」


 崩落しているところに穴を開けるって余計に危ないのでは? そんな言葉聞こえねぇ! 危なそうなら固めれば良いのだ。防壁の時の様に。


 「名案です~。私も思いつきませんでしたっ。さすが悪知恵だけは働きますねっ! 道が無ければ作ろう作戦と名付けますっ!」


 アルテナが賛成したので、早速掘ることにした。その様子を見てフラウとアビスは肩を竦めて諦めることにした。






ライル「アルテナ出番だぞっ! お前の得意な穴掘りだっ!」

アルテナ「人をモグラみたいに言わないで下さいっ!」

ライル「人じゃないから問題無い」

アルテナ「女神ですから! 尚のこと悪いですっ!」

フラウ「どうでも良いのですから、早く掘って下さい」

アルテナ「フラウまで……酷い(涙)」

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