夏休みの日記

まっ茶。

第1話

 これは小説と呼んでいいのか、私には全く判断できないのだけれども、ちょっとした話をここに綴らせてもらおうと思う。


 今年の夏の出来事だ。

 私は高校2年生で、普段は慢性的に学校に通って好きな漫画を読んで自堕落な日々を過ごしてる。部活には入ってたんだけど、美術部で特に大会とかはなかったし、夏休みに学校に行くような用事もなかった。

 夏休みの用事といえば、いとこがうちに来るくらいだろうか。

 一方で両親は共働きで毎日仕事に行ってた。

 そんな状況だったから行くところもないし、勉強でもするかって思って毎日図書館に行く感じ。


 宿題をこなすために通い続けて2週間。8月に入ったし今日は、目そらし続けてた数学でもやるかなんて思って図書館に向かった。そしたら突然、同級生の彼女が図書館にやってきたんだ。彼女はすごくかわいくてなんていうか図書館っていう音がめっぽう似合わない子だった。渋谷とかそういう感じの派手な雰囲気をまとう子だった。実際その時もミニのスカートでよく香る香水をつけてたのが印象的だった。

 区のある小さな図書館だったからまさか同級生に会うなんて思わなかった。彼女も同じように考えたようで、無視もできないから気まずそうにお互い会釈をしたのを覚えてる。


「社会の資料どこにあるの?」

 背後から肩をたたかれ小さいノートを見せてきた。

 お昼ご飯を食べて、血糖値が上がり眠くなっていたから寝ぼけて変な幻覚でも見たのかと思ってしまう。予想よりも遙かにきれいな字で明朝体みたいだった。

「一階のB11のたなにありました。」

 下に並べて書くと私の字の汚さが目立っている気がして恥ずかしい。

「ありがと!!!!!!!!!!!!!」

 異常な数並べられたびっくりマークに笑いそうになる。彼女はノートを机の上に置くと、ぱたぱたと走っていった。

 こういうところがいろんな人から好かれる理由なんだろうなとか考えてしまう。

 手元に残されたノートに何を書いたらいいのかわからない。

 なにも書かずに返しても良いのだろうか。

 私も数学の問題を質問してみようか。

 さすがにそれはおこがましいだろうか。なんて思考を巡らせながら問題を解き進める。

 いつになってもノートを取りに来る様子はなく閉館のアナウンスが流れる。あたりを見渡しても彼女の姿はない。悩んでいる私の気も知らずに彼女はノートをおきざりにして帰ってしまったらしかった。

 彼女とは同級生とはいえ別のクラス。ノートを届けに行くのはしんどい。だいたい彼女も私と知り合いとは思われたくないだろう。なんせスクールカーストというものの差が大きすぎる。もしこのまま図書館のくることがなかったらと思うと悩んでいた自分が恨めしかった。


 それから1日。また彼女は図書館にやってきた。どーもーと目線で挨拶を交わす。昨日ちょっと好意的に接してもらえたからか昨日よりは気まずくなかった気がする。

 ノートは結局「社会の資料いいのみつかりましたか」というあたりさわりのないメッセージをかんがえつくことに成功し書き込んでおいた。

 驚くことに、こちらがいつ渡そうかと考える間もなく彼女がこちらに近づいてきた。

「ノート」

 そう書いた小さい付箋を机の片隅に貼り付け通り過ぎていく。

 とっさに顔を上げたけど、もうそこには居なくて、急いでカバンからノートを取り出した。彼女のピンクのリュックサックは自習室の中だとよく目立つから、その席にノートを置いていった。なんとなく恥ずかしくて小走りにノートを置きに行ったけど、今思えばその姿彼女に見られてたんじゃないかって思う。ノートを返すだけなのにえらく体温が上がって息がしにくかった。

 同日の午後。肩をたたかれた。あまりの既視感に同じ1日を繰り返してるのではないかなんて邪推しそうになった。今回はノートを閉じたまま渡したらすぐに去ってしまう。開くと「鉄道のやつめっちゃいい感じだった!!使う?」と書かれていた。

「使う」

 さっさと渡してしまいたかった。

 この日はなんとそれから6回も行ったり来たりを繰り返した。

「明日も来る?」

{行く。そっちも来ますか」

「明日は英語やりに行く!英語終わった?」

「半分くらいは終わりました」

 こんな感じで、学校のことを話した。


 それからさらに翌日。さらに翌日。


「夏休みどっか行った?」

「図書館だけですね」

「え!夏祭りとか行かないの?」

「いとこと2年前くらいにいったかも」


 1週間は交換ノートみたいに話してた。小学生に戻ったみたいで、正直楽しかった。


「そっちのクラスどんな感じ?やっぱ先生優しい?」

「普通じゃないかな。まあたいへんそうではあるけど。そっちは?」

「うちのクラスは騒がしいから、いっつも、動物園とかいってくる!」

「そっちのクラスいってみたい」


 1日に2回か3回のペースだったと思う。だんだん会話もしやすくなっていった。

 初めは彼女ばっかり話題を振ってくれてなんでか申し訳なかったから嬉しかった。というか予想の100倍くらい話しやすかった。地位にさがあるからって話しにくいわけじゃないんだなあと反省するばかりだ。


 中身のないはなしがとても楽しかった。楽しいでしか表せない楽しさだった。

 家族の話もした。どちらの両親も共働きだった。いとこが医者なんだと話したら医者を目指してるって教えてくれた。だから私の将来の夢とかちょっと深い話もした。

 1週間過ぎると世間では甲子園が始まるようで、友達と応援にいくといっていてうらやましいなと思った。

 大阪に行ってしまっていた3日間に加えてお盆が迫っていた。そろそろいとこがうちにやってくるので、家の手伝いとかで図書館に行けなかった。

 運が悪いことに2週目は2回しか会えなかった。

 それでも、彼女との交換ノートがたのしくてすっかり浮かれていた。何でも打ち明けられる存在のような気がして。つぎにあえるのはいつだろうと考えるようになっていった。


 3週目頭。一度会ったきりついに全く会えなくなった。お盆は図書館が休みだったから。最後の日には図書館が閉まった後2人で近くの公園まで歩いた。夏だからまだ5時は夕焼けとは呼べなかったけど、オレンジ色の空を見て、なんだか恥ずかしくて、2人で照れ笑いをして、手をつないだ。

 でも、ちょっと変わった交流の仕方をしていたせいで、連絡先の交換もしていなかった。何してる?とか聞きたくても物理的に不可能だった。電話番号は学級名簿に記載されていたけど、私なは電話はつかえないから。


 8月4週目。いとこの病院に行くことになった。思ったより症状が悪化しているらしい。このままじゃ、耳だけじゃなくて顔面麻痺になるあそれがあると告げられた。手術をすることになるそうだ。2年前にみみが聞こえなくなり出してからからずっと覚悟していて、もう何が起ころうとも受け止められるつもりだった。でも実際にはあまりにもこたえた。もしかしたら、安静にしていたらいい方向に行くかもしれないと言われていたから、顔面麻痺と言う文字が重く見えた。死んでもいいやと思っていたのにこんな時に思ったなは最後に彼女の声が聞いてみたいということだった。



 手術は終わったけれど、わたしはまだ入院中だ。退院は10月の上旬になるそうだ。

 耳は相変わらず聞こえないけど、顔はどうにか大丈夫。

 前に手話を教えてほしいって書いてたから次に会ったらおしえるね。

 もし彼女がこの話を読んでいたら、もう少しだけ心配せずにまっていてほしいと言いたい。

 1番の親友でたぶん好きな人。




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夏休みの日記 まっ茶。 @hAppy__mAttyA

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