理不尽
城崎
話
「シュークリーム食べたくなったから、買ってこい」
突然、隣で共にゲームをしている男はそう言った。言うより先に俺からコントローラを奪い取ると、目線で扉を指す。彼よりも良い成績を維持していた自分は、その横暴さに眉を寄せた。
「はァ? なんで今?」
「うるさい。食べたくなったんだから仕方ないだろう」
「仕方ないわけあるかい」
この態度はいつものことだと分かっているが、それでも苛立つものは苛立つ。頭を掻きながら、一応の反論を試みた。
「だいたい、なんでシュークリームなん? お前、甘いもの別に好きでも嫌いでもないやろ。それなのに食べたなるとか、どういう了見?」
「つべこべ言うな。早く行け、今すぐにだ」
男は一方的にまくし立てると、そのまま自分だけゲームの世界へと戻って行ってしまった。
深くて長いため息を彼の耳元で吐き出すも、反応はない。それが余計に、自分の不快指数を上げる。
「人使い荒ァ……そんなんやから、この屋敷の求人絶えてへんのやわ」
「それは関係ないだろうが」
鞄を手にしながら呟いた言葉に、後ろから怒号が飛んできた。どうやら聞こえていたらしい。そして図星だ。事実なので否定のしようがないのである。
「はーいはい。まぁそういうことでええよ。自分はヒイラギサマのために、シュークリームを買いに行かせていただきますわぁ」
そう言って、クーラーの効いている室内から出た。出た途端に空気が熱を帯び、体へとまとわりついてくる。暦の上ではもう秋だというのに、どうしてこんなにも暑いと思わなければならないのだろうか。彼のシュークリームだけではなく、自分のアイスクリームも買わなければ割りに合わない。思いながら、部屋から目と鼻の先にあるコンビニへ急ぐ。
○
「買うてきたで。はい」
柊にシュークリームの入った袋を差し出すと、彼は素直にそれを受け取った。
「遅かったな」
こちらを見る視線に、いくつかの嫌悪が滲んでいる。
「そりゃあ大変申し訳ないことをしたとは思うてます」
それに怯むことなく、申し訳なさを微塵も感じ取れない言葉で謝罪の言葉を述べた。自分は買ってきたアイスを口に頬張りながら、彼がシュークリームを口に入れるまでの工程を眺める。
「……そんなに見るな」
「見てへんって。気のせいやろ」
「いや、しかし視線が」
「おうてへんおうてへん。気のせい気のせいって」
「……そうか」
観念したらしい彼が、シュークリームを口に運んだ。一口目から表情から美味しさが滲むかのように食べているヒイラギ様が、自分の目には輝いて見えた。そしてそう見えてしまった自分は次回からも、彼の理不尽な頼み事を断れないのである。
理不尽 城崎 @kaito8
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