第2話

「どうして君がいるんだ!?」

 声になりきっていないような声で私は叫んだ。歩きながら叫んだ。

 私の薄れていた意識が確かなものになっていく。

 少女は何も答えようとしない。

 そして、少女はおもむろに口を開いた。

「私も受刑者です。一緒に歩きながら喋りませんか?」

 少女はこちらに向かって歩いてきながら透き通った声で言った。少女は幼く見えるがとても落ち着いた感じであった。

 私はしばらくして――いや、実際はすぐにだったかもしれないが頷いた。私には聞きたいことがたくさんあった。どれから聞いたらよいかがわからなかった。そして考えているうちに少女に先手を打たれた。

「私はチーナ。人を一人殺した罪で今こうして歩き続けています」

 少女はあっさりと言い放つ。あまりにもあっさりと言うので私は呆気にとられてしまった。

「私はルティア。君に母親を殺され、君を殺して死刑に処された!教えてくれ。なぜ君が生きているのだ!?」

 震えた声で私は言った。その瞬間少女の表情が一変した。なにかとてつもなく恐ろしいものを見たような表情。少女の視線が私の眼球を突き抜ける。

「あなたが……」

「ルティアさん。あなたはさっき私を殺したと言いましたね?」

「ああ、言ったとも」

「それは間違っています」

「どういうことだ?」

「ルティアさん。あなたが殺したのは私ではなくイリアです。私の双子の妹のイリアです」

 チーナはとても冷たく言い放った。とても悲しげな顔で言い放った。その言葉は私に重くのしかかる。

「嘘だ!そんなことあるはずない…」

「残念ながら、本当のことです。」

「ならばチーナ、なぜ君は私に怒りを露わにしないのだ?」

 私はムキになっていた。正体の分からない敵に対して。

「今ここでルティアさんを殺そうとしようがしまいがルティアさんと私はどの道死にます。だからです」

「……。」

 私は何も言えなかった。

 私は心のどこかで罪人を殺して自分が罪人になるならば仕方のないことだと思っていたのだ。それが実際はどうだ?私が殺したのは何の罪もない少女。私が握ったナイフは善人を肉片にしたのだ。善人を赤く染めたのだ。

 私は…………。

 私はその時初めて罪の重みを知った気がした。

 それからしばらく私たちは歩いた。お互いに状況の整理をしながらまるで敵を視察しあうかのように歩いた。

 私の足は罪を感じながら歩いていた……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

海苔水 @norimizu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ