海苔水

第1話

 私は歩いている。

 生と死を両足に感じながら歩いている。

 死を感じるから生を感じている。

 私はなぜ歩いているのか?

 それは、私は歩かないと死ぬからである。

 なぜって?

 私は死刑囚で“歩行刑”で処刑されている最中なのである。歩行刑とは歩くのを止めた瞬間に足に付いている装置から3日間微量の毒ガスが出続けて3日後に死ぬという死刑方法である。  

 この歩行刑は2246年に政府によって採用され、今となっては主流な処刑方法になっている。昔は国という概念が存在し、その国ごと処刑方法は違っていたらしいが今や世界は一つである。

 第三次世界大戦後に世界は統一され人種の区別、言語の違い、さらには法というものが消失した。言語は昔英語と呼ばれていた言語から派生したものが使われ、法がなくなった代わりにAI世界が世界の善悪を決定している。AI世界は人工知能であり、世界中の意識の集合体でもある。私の死はAI世界によって決められたのだ。我々人間は各エリアによって分けられ、労働または学校教育を強いられる。1日の半分を働き半分は自由な時間になっている。人間は光合成と人口太陽を手に入れたことにより1日24時間活動できるようになったのだ。神が生まれて、神を殺してしまったのだ。


 私は人を殺した。相手は15歳くらいの少女だった。彼女は華奢で彼女の肉体は非力な女の私でも簡単に肉片に変えることができた。

 少女もまた人を殺した。相手は私の母親だった。私が家に帰った時、私の母親は死んでいた。二本のナイフが体に突き刺さっていた。私は私の身体から何か熱いものが流れ出たような気がした。それは悲しみだったのだろうか、それは怒りだったのだろうか。私はすぐに防犯カメラの映像を確認して右手にナイフ左手に写真を持ち家を出た。

 外は人口雨が降っていて薄暗かった。私たちは他のエリアに行くことができないので数時間で左手の写真の少女を見つけることができた。そして、気が付けば右手は赤くぬめっていた。人を殺したという実感はなかった。

 それから1日後に私は逮捕され、すぐにAI世界に死刑の判決を受けた。死刑は判決後1日後に実行された。

 そうして私は罪人になった。

 そしてその刑罰として歩いている。

 罪人を殺した私が罪人ならば、私を死刑にしたAI世界は罪人ではないのだろうか。

 こんな世界で生きる意味はあるのだろうか。

 今歩いている意味はあるのだろうか。

 私は死すべき存在なのだ。AI世界がそう判断したのだから。

 そんなことが頭をめぐる。

 足が痛い。

 足が痛い……

 もう歩くのをやめて三日後に死のう…………



……………………。


 その時私の視界に一人の少女が映り込んだ。ぼーっとする意識でその少女を認識する。

「まさか……!」

 そこにいたのは私が殺したはずの少女だった。







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