第8話 3038
僕は目が覚めた。横になったままスマホを探す。右の中指にスマホが当たった。画面を見ると入学式の夕方だった。僕はゆっくりと起き上がり、制服の上のジャケットのポケットに手を入れた。
ある
青い棒を取り出して数字を確認した。
3061
どうしたらいいんだよ。僕は頭を抱えたまま眠った。
僕を起こしたのはりさ姉からの電話だった。
「おはよ。ありがとう」
「あんたどうしたのよ?暗いわよ。さては眠いんでしょ。ダメよ。今日は遅刻せずに学校に行くのよ」
「あのさ、りさ姉」
一体僕は何を言うつもりなんだ?
「何?」
「いや、何でもない。電話ありがと」
電話を下ろして切ろうとしたその向こうで、絶対に2度寝するんじゃないわよっとりさ姉の声がするのだった。
制服に着替えながら思った。今日どんな顔で石田さんと会えばいいんだろうか。石田さんは数字の減りようを見て異変に気がつくだろう。そしてまた僕を呼び出しをして、屋上で地球食場化計画を話すのだろう。頑なな彼女をどう説得すればいいんだ。僕は制服のジャケットのポケットから青い棒を取り出して見た。
3047
そっか。昨日から14時間過ぎたんだ。これを使って石田さんは母星に帰るって言ってたな。こんな小さな物にそんなパワーがあるだなんて、宇宙は広いっていうか、何て言うか。
その時僕は閃いた。
そうだそうだそうだ
僕は家を飛び出して学校に行った。早く放課後になれ。時計の秒針ばかりが気になって、先生に呼ばれても返事をせず怒られてしまったが、そんな事はどうでもよかった。最後の授業を終えて、僕は石田さんに近づいた。
「石田さん、僕は成瀬って言うんだ。これを返すから今から屋上に来てくれない?」
初対面でこんな事言う男子ってどうなんだと思ったが、地球の危機に比べたらなんて事はないだろう。
石田さんは、僕の手のひらに乗った青い棒を見ると、わかりましたと言ってカバンを手に取った。僕は自分の席に戻ってカバンを掴み、振り返って教室を後にした。
屋上には風が吹いていた。目の前を1枚の葉っぱが通り過ぎた。
僕は石田さんに青い棒を渡した。石田さんは異変を察し、僕に迫ってきた。
「これに何かした?」
彼女が人間を食べると思ったらゾッとしたが、僕は今まで起きた事と石田さんから聞いた情報を話した。
「ふーん」
石田さんは何に反論する事もなく、全てを聞いてくれていた。
「で、やっぱり僕は地球を石田さんの星の生贄にしたくない。でも石田さんの星も助かって欲しい」
「何を言うかと思ったら、そんな綺麗事で宇宙を生きてはいけないのよ」
石田さんの言葉にはどれだけ時間を費やしたかわからないほどの疲れがにじみ出ていた。
わかってるよだから
「だからだよ。僕のタイムリープで君達の星が襲われる前に戻るってのはどうかな?」
彼女はぽかんとしていたが、僕は真剣そのものだ。
「まず1つ。僕がタイムリープしたって君の星には戻れない。行ったこともない(と思う)し。で、君達の星には銀河を旅したり、地球人の記憶を操作するっていう高度な文明がある。その文明の力で僕のタイムリープを君のものにするんだ。実験すればいい。それから、その青い棒にはパワーがあるって君は言ってた。そのパワーをタイムリープに使えば、何光年前だって飛んでいけるはずさ」
「もう1つ、こっちの方が自信があるんだけど、僕の記憶を詳しく解析してみてよ。僕は宇宙人だった時の記憶がない。そう僕は記憶喪失なんだ。それこそ君達の得意技だろ。もしかしたら僕は、君の星に行った事があるかもしれない。それを思い出せれば僕は君達の星へタイムリープできる。僕らが出会ったってそういう事かもしれないよ」
喋りたおした僕を石田さんは一瞥して目を伏せた。
「地球人より私達にできる事が多いのは確かだけど、そんな楽観的に考えられない。仮に、そんな事が成功したとしてアイツらの侵略を止められるの?」
そうだとも。課題は山積み。解決の見込みもない。
「だけど、僕は何もしないでただ君の星と地球が戦争するのを見ていられない。だってどちらも大切だ。僕は両親には見捨てられると思ってたけど、りさ姉のおかげでこうしてここにいるんだ。君の星は見た事もない、行った事もない、そんな星だけど、石田さんが大切にしてるのはわかったんだ。だから僕は見捨てたりしない。君の星も地球も助かる可能性にかけたい。宇宙中の弱い星を探しては食場にして、また次にいくって、僕には割り切れないし、虚しすぎるよ」
二人の間をまた風が通り過ぎた。
「私達、助かるの?」
石田さんはキリッとした表情で僕を見た。僕はこの表情に応えなきゃならない。
「確約はできない。だけどこうやって君と僕が出会えた事、この出会いは偶然なんかじゃない。君がとてつもない時間をかけて漂った宇宙の中で、僕達が出会えた事には意味があるんだ。僕はそう思いたい」
僕は続ける。
「それにさ、タイムリープできる僕を君とを繋いでくれたのは、僕か僕の母星のやつらの仕業かもよ。根拠はないけどそいつらは君の星も地球も大切にしたくなったんだよ。出来過ぎた話だけどね」
「はぁーーー。君の思いつきに、私達を託すなんて大博打もういいところだよ。そんなふざけた話、誰も信用しない」
彼女はやれやれといった様子だ。
「少ない時間だけどやれる事はやろう。ていうか絶対成功させよう!」
僕は今まで生きてきた中で一番前向きだ。
彼女はくるんと方向を変えてフェンスの向こう側に向かって言った。
「あーあ、変なのと出会っちゃったなー」
「それはお互い様」
この後、僕達は大きな声で笑った。
石田さんは僕に青い棒を渡してくれた。僕は青い棒の端を持って空に掲げる。
3038
煌めいた青
僕の母星もこんな色をしているだろうか
僕は今までのどんな眠りより強い力を感じていた。体がギュウッと後ろへ引きずり込まれ体がお腹の所で真っ二つになったと思ったら、次の瞬間には僕の体の細胞がバラバラになった。そのひとつひとつが暗闇の中を流星のように走った。流星になった細胞の僕は徐々にくっついてまた一つになった。僕は宇宙の中でカラダを丸くした。
僕の名前は
完
幾光年のアルマジロ @hasegawatomo
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