第7話 no more
石田さんは涙を浮かべていたが、僕は引き下がるわけにはいかなかった。
放課後の屋上はフェンスの影を少しずつ長く描いていた。
(簡単におけとける話じゃないけど)人間を食べる食べないはちょっとおいて、僕にははっきりさせておかなきゃならない事がある。
「僕も宇宙人だって言ってるけど、それほんとにほんと?」
「それは、確定で間違いない。1つは私が地球人に植えつけたはずの記憶がない事、もう1つはタイムリープできるって事。成瀬くんは異常に寝たいって言ってたけど、それ多分地球と成瀬くんの体がマッチする為に起こってたんじゃないかなと私は思う。そして、これを拾ったでしょ」
石田さんは青い棒をもう一度見せた。
「これは私の星にある鉱石で作った物。広い宇宙中でもかなり優れた物で、これにはパワーが詰まってる。私が母星に帰る為に使う事もできる。そのパワーに成瀬くんが触れた事が引き金となって、眠っていたタイムリープの能力が目覚めたって事じゃないかな」
「じゃ、僕はタイムリープできる宇宙人って事?」
「そういう事になるかな。地球人以外だった時の記憶は?」
「ないよ。あったらこんな事にはなってないよ」
「ふーん、成瀬くんは何で地球に来てるんだろうね?」
「僕の方が知りたいよ」
風が通り過ぎる4月の風は心地よいはずなのに、何故が心が締めつけられる。
「もう一度その青いやつ、見せてもらえる?」
「いいけど」
石田さんは僕に手渡してくれた。こいつが僕の能力を解放しただって?信じられないや。だけどこうなったら、この話にとことん付き合うしかない。
3061
数字が見えてハッとする。
「この数字、地球の残り時間って言ってたよね。それって」
「地球の残り時間って言うのはちょっと言い過ぎた。あのね、私は地球には充分な食べ物があるって、母星に連絡した。その時に母星からこれが送られてきた。1時間経過する度に1減っていく。0が母船の地球到着時間」
「て事は、1日が24時間だから、およそ……127日って事は……残り約4ヶ月半じゃないかっ!」
「だね。私達はここを食場とする。成瀬くんは食べないと思うから安心して」
そういう問題じゃないよ
「人間を食べるなんて、ダメだよ」
「さっきも言ったけど私達は空腹なの。空腹のまま死んだ仲間がたくさんいる。成瀬くんは私達が飢えたまま死んでいけばいいって思ってるの?」
「そうじゃない。そうじゃないよ。ただ他の方法はないのかって事」
「もしかしたらあるのかもしれない。だけどもう私達はその他の方法なんて探してる時間も余裕もない。人間を食べて余裕ができたら他を考えるかもね」
2人ともため息をついた。
「ちなみに人間がどのくらい必要なの?」
「1日あたりの食事はおおよそ1億」
「1億・・・」
ぼくは震える手でカバンを開けてスマホを取り出して調べた。
今の地球の人口は、、、78億人。。。
「いやいや、1日1億人が一度に食べれれるって事件どころの話じゃないよ」
「毎日のように増えるんだから、いいじゃない」
「1日1億10日で10億。そんな状況でどうやって繁殖していくんだよ」
繁殖って言葉が生々しいが、僕は話を続けた。
「君達は、力を武器にして地球を制圧するんだろう。きっとそんな暴挙に地球人は黙っちゃいない。君達と戦うよ。戦争になるんだよ。それでどうやってこの星の人口が増えるんだよ。50日持たないかもしれないよ」
「繁殖させる場を作るか、その間にまた調査に出る。また地球みたいな星があるかもしれない」
高1の女子の口から出る言葉じゃない。
「それじゃ、君達の星から食物を奪っていった奴と変わらないじゃないか」
「そうだよ。でも宇宙はそんなもんなんだ。力のある奴が生き残っていく。私達はあいつらより弱かった。だけど私達は地球人より強い。だから生き残る。他にも食料があって弱い星を探す。困ったら次はそこを食場にする。これが宇宙での生き残り方だよ」
彼女の言葉は強くて説得力がある。だけどそれじゃダメな気がするんだ。どうやったらこの負のループを阻止する事ができるんだ。
僕はこんなに真剣に人と会話した事がないからか、睡魔が襲ってきた。疲れたのかと思ったが、この睡魔はあれだ。ブラックホールから手が伸びていて僕の体を容赦なく引き込むような眠り。僕はまたタイムリープしてしまうのだろう。石田さんが薄くなっていった。あれ?もしかしてタイムリープを続けていたら、世界の時間は進まないのだろうか?
つづく
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