第6話 カウントダウン
気がつくと自分のベッドに横たわっていた。スマホを探して、日付と時間を確認する。入学式の日の夕方だった。またここへ移動してしまった。フラフラと情けない足取りで、制服の上のポケットに手を入れる。青い棒があった。前より少しくすんでいるように見える。外からの光に透かして見ていた。すると数字が目に入った。
3083
また数字が変わってるっぽい。僕は石田さんとの会話を思い出した。たぶん石田さんはこの数字が変わっているのに気がつく。僕に何か聞きたがるはずだ。いつまでも石田さんを無視できるわけもない。このモヤモヤをこのままにはしておけない。明日は絶対に石田さんから納得できる話を最後まで聞き出すんだと決めたて僕は横になった。
次の日学校に着くと石田さんが来るまで、僕はやはり席に座って誰もいない石田さんの席を見ていた。ポケットから青い棒を取り出した。昨日見た時にはくすんでいるような気がしたけど、やっぱりキラキラと光っている。教室の朝のざわめきなんか
一直線に石田さんの席に向かう。石田さんは、僕が近づいてきたのがわかったのか、こちらを見て不思議そうな顔をしている。僕は手のひらを石田さんの目の前で見せた。石田さんはびっくりしていた。僕の方を見て彼女は言った。
「拾ってくれたの?」
「そうだけど、聞きたい事があるんだ。それまでこれは返せない。今日の放課後、屋上で会おう」
僕は
今日は(正確には4日目だが)3回目の入学式の次の日だ。僕にとっては目新しさはなく、淡々と時間をこなしていく。そして放課後になった。
屋上に着くと石田さんは僕より早く来ていた。いきなり突風がきて僕は、石田さんの髪の毛と制服が舞っているのを目に写しながら彼女の所まで歩いた。石田さんと二人。僕達は向き合った。
「これ、返すけど、教えてほしい事がある」
僕は石田さんに青い棒を差し出した。石田さんはそれを取って、太陽に透かしていた。
「石田さん、君は一体何者なんだい?」
「君、名前は成瀬くんで良かったかな?先生が教室でそう呼んでたから間違いないよね」
「そうだけど」
「成瀬くん、君の周りで人に言えないような事が起きてない?」
「僕、タイムリープできるようになった。で、中1の時に戻って石田さんが記憶喪失にならないように助けようとしたけど、石田さんは学校にはいなかった。それから元の時間に戻ったつもりだったけど、今日に何度も戻ってる。それから、石田さんは自分は宇宙人だって。なんでか僕も宇宙人かもだって。これ以上の事は話せていない。石田さんの青い棒だけど、数字があるよね。だけど毎回数字が違う気がする。少なくなってるっていうか……」
僕は言いたいだけ言って、でもまだ言い足りない気がしたけど、そこで言葉が詰まった。
石田さんはもう一度青い棒を太陽に透かしてじーっと見ていた。
「これ、見て」
彼女は青い棒を自分の左手のひらに乗せて、右の人差し指でとんとんと示した。
3062
「数字がまた変わってる」
「そうだね。この数字、残り時間なんだ」
「残り時間?何の?」
「地球の残り時間」
あまりに突拍子も無い言葉に、僕は口をぽかんと開けているしかなかった。
「私が宇宙人なのは事実だよ。3年前、地球に来た。地球人に紛れる為に、石田芽類の記憶をみんなに植えつけた。脳震とうの話もその1つ。地球に慣れるためには時間がかかる。だからわからない事は記憶喪失って事で片付けてたんだ。それでうまくいってたんだけどな」
そう言うと彼女は空を見た。
「僕はどうして君の事を知らないんだい?」
「それよ。私は地球人に記憶を植えつけたの。わかる?どう言う事か」
「つまり、僕は地球人じゃないって事か」
「そう言う事」
なんてこったい
「石田さんが地球に来た目的は?」
「私達の星を救う為だよ」
そう言った石田さんは顔を暗くしていた。
「石田さんの星で何かあったの?」
「ある日いきなり違う星の奴らが、私達に必要な食べ物を奪っていった。突然の事で私達は対応できなかった。だから、私は星を飛び出して探した。食べ物のある星を。その旅の中で偶然、地球を見つけた。だけど私達の食べられる物があるのか、それがわからなかった。だから調査の為に地球人に紛れた」
石田さんの目は虚ろだった。そんな表情の彼女であったとしても問い続けなきゃわかない。
「で、食べるものは見つかったの?」
「見つけた」
「何?」
「人間」
「にんげん?」
思わず僕は唾を飲み込んだ。
「そう、人間。私達に最適な栄養があって、地球にはいくらでもある」
「いやいやいや。人間を食べちゃだめだよっ」
石田さんの顔色は冴えない。
「いくらでもいるんだから心配ないでしょ」
「いきなり地球外生命体が現れて、人間を食べるなんてまるで空想の世界じゃないか」
「でも、私達は空腹でたまらない。生きる為だったら何でもする」
「人間だって馬鹿じゃないんだから、抵抗するよ」
「地球人には負けない自信がある」
「ゔっ、そうじゃなくさ。大切な人を失った時の人間の感情はものすごいんだ」
「私達だって失ってる。だから欲しいものがあるのか確証もないまま、途方も無い銀河を彷徨ったんだから」
石田さんは多分、涙を浮かべていた。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます