第5話 それホント?
びっくりするくらいに、すっきりした目覚めだった。気味が悪くて、目が覚めなければ良いのにと思ったが、こう言う時に目覚めてくれるとは、やってくれるよ僕は。仕方なく学校に行く準備をして家を出る。学校が近づくにつれて足取りが重たくなる。ポケットに手を入れ、青い棒を指先で確認した。僕は石田さんに会えるのだろうか?
時間が早かったのか教室には人がまばらだった。僕は席についてその時を待つ。10分経っただろうか。石田さんが教室に入ってきた。あの石田さんだ。僕は石田さんの行動を観察した。だが普通だ。至って普通だ。何人かに声をかけられていた。楽しげに喋っている所から察するに中学の時の同級生だろうか?同じ中学のやつの顔なんて、僕は知るわけがないからそれは今確認しようもない。時間は過ぎて放課後になった。僕は石田さんに近づいた。
「あのさ、これ、探してたよね?」
ポケットから棒を取り出して彼女に見せた。
石田さんはやっぱり焦って立ち上がった。
「あったの?どこに?」
僕は前と同じように説明した。
「良かったぁ。ありがとう」
石田さんは棒を再度確認した。
「あれ?」
石田さんは、棒をジーっと食い入るように見てその後顔色を変えた。
「君、名前は?」
前回のようなほんわかした雰囲気はなかった。石田さんは眉間にしわを寄せ明らかに機嫌が悪くなっていた。僕は背中に冷や汗を感じていた。石田さんは僕をじーっと見た。
「僕は
「
石田さんは何か言いたげだったが、僕は、さよならと言って教室を出て行った。後ろの方からちょっと待ってと声がしたが無視した。僕は埋まらない何かを抱えて、家に帰った。
それからと言うもの、また前と同じように3週間を過ごした。2回目ともあって、やらかしは少なかった。前と同じようにというより、随分スムーズに佐々井と友達になれた。
昼飯を食べて、僕らは屋上に行った。すると佐々井が例の話をし始めた。
「晴翔さー、石田とよく話すな。気があんの?」
「違うよ。彼女の落し物を拾っただけだよ」
「そうなん?あいつ記憶喪失するからな」
「あー、知らないな」
「は?お前、石田と同じ中学卒業だろ?」
「そうだったかな」
2度目でも理解不能なこの会話。僕は考え込みながら佐々井の話を聞いていた。。
「石田さー、中1の運動会の日に、リレーで走ってたら、争ってた相手がコケて接触してさー。倒れて頭の打ち所が悪かったらしく、3日間昏睡したってさ。それからは元気になって学校戻ってきたんだけど、たまに記憶喪失が起こってわけが分からん状態になるらしいよ」
ふと僕は1つの可能性の話をした。
「あのさ、僕、石田さんと同じ中学じゃない気がするけど?」
そうさ、佐々井の勘違いかもしれない。学校が違うなら、あの時石田さんがいなかった事に説明がつく。だが佐々井は信じられないと言った面持ちで、僕を見ていた。
「お前さ、第一だろ?」
「そうだけど?」
「俺は第二だったけど、運動部入ってないのに足が速い女子が第一にいるって石田は有名人だったぞ」
それを聞いてまた疑問符が浮かぶ。やっぱり僕は石田さんと同じ中学なんだ。でも学校にはいなかった。佐々井は石田さんのその後の話を続けていたが、僕は大して聞いていなかった。僕は石田さんと話をしなきゃならないのか、もう放って置くのか、その答えが出ないまま屋上を後にした。
授業が始まっても僕は答えを出せなかった。斜め前の石田さんを見る。君は一体……。
次の日、佐々井は休みだった。今日はひとりで昼飯を食べた。それからどこに行く宛があるわけではなく教室を出た。すると石田さんが階段を上がってきた所に遭遇した。声をかけるしかない。覚悟を決めた。
「あの石田さん」
彼女は歩きを止めた。
「変な事言うかもだけど、僕、石田さんと同じ中学のはずなのに、石田さんの記憶がないんだ。これって失礼な事だよな。だけど、石田さん、中1の時、リレーの選手なんかじゃなかっただろ?」
早口に僕は石田さんへ疑問を投げた。
「うそ……」
石田さんは小さく呟くと目を丸くして僕を見た。
何が嘘なんだ?
石田さんは制服の上着のポケットから、あの青い棒を取り出して見た。そして僕の目の前に持ってきた。
「成瀬くん、これに何かした?」
「拾っただけだよ。落としたり乱暴な取り扱いはしていない」
本当にそうだ。
石田さんは腕組みをして何か考えている様子だった。やっぱり話しかけるんじゃなかったかな。気まずい雰囲気を僕は我慢できるはずもなくて、その場から離れたくなった。
「じゃ、僕用事があるから」
嘘をついて僕は階段を降りた。石田さんはまだ何か話をしたいようだったが、僕は逃げるの一択だった。僕の覚悟なんてこんなもんだ。
本日最後の授業を終えて、背伸びをしていると誰かが近づいてきたような気がした。
「成瀬くん、放課後、時間ある?」
その声の主は石田さんだ。僕は怖くてすぐには返事ができなかった。彼女はは徐々に顔を赤くして頰を膨らませた。
「時間、あるの?」
あまりに強く言われ、嘘をつくなんて芸当はできなかった。
「時間、ある」
「なら、屋上に行こう。来て」
石田さんは自分の席に戻って、カバンを持つと教室を出た。僕は追いかけるように、ついて行った。
屋上には数人の生徒がいた。楽器を持っている。部活のやつか?そいつらとは離れた所で、石田さんはカバンを置いた。何を言われるのか、僕は気が気でなかった。
「成瀬くん、君が他の人と違う所ってある?」
「えっ、普通だと思うけどあえて言うならもの凄く眠い体質で、しょっ中眠たくなる。健康(ではないであろう)食品的なものでコントロールしてるつもりだけど、うまくいかない事もある」
「それか」
石田さんは何か納得いったような表情だった。
「最近、人に言えないような事が起きてない?」
石田さんはもしかして何か知っているのかもしれない。もうどうにでもなれ、そんな気持ちで言う事に決めた。
「時間を飛んでる。タイムリープってやつかな。バカみたいだろ?でも本当なんだ」
「うんうん。いつから?」
「入学式の次の日から」
「うんうん。で、何回くらい?」
石田さんは興味津々だ。
「何回やったかな。数えてないけど20回以上はやった」
「なるほど、それで狂ったわけだ」
彼女は何かわかったようで、青い棒を見たその表情はもう怒ってはないようだった。
「で、石田さんの記憶喪失が無くなればいいと思って、中1の体育祭の日まで戻ったけど、肝心の石田さんがいなかった」
僕は下を向いた。背中から太陽を浴びて、自分の背とと同じくらいの影法師ができていた。
「そっか。だから成瀬くんは私が何者か、疑ってるわけだ」
ズバリと言われて、僕は唾を飲み込んだ。
そして次の言葉はさらに信じ難いものだった。
「成瀬くん、私、宇宙人なんだ」
信じられるはずもないが、石田さんは僕から目をそらさない。まじかよ。
「で、多分だけど、成瀬くんも宇宙人かもね」
笑いながらとんでもない事を言う彼女。なんだこれ。脳ミソがついていかない。考えようとしている僕を遮ったのは、またも睡魔だった。僕はわしづかみにされた臓物が、闇へと吸い込まれる感触を持ちながら、あの青い棒を思い出すのだった。
つづく
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