第4話 誰も知らない
さっき並んでいた団体はトラックの中に進もうとしていた。その後ろに数人集まり始めた。
「次のリレーの人並んでー」
赤いハチマキをした女子が、バインダーを持って仕切っていた。
僕は辺りを見渡して、石田さんを探す。いない。どこにいるんだ。リレーに出るであろう生徒が結構集まってきた。石田さんはまだだ。早く来てよ。あまりに遅い気がして、僕はさっきの赤いハチマキの女子に話しかけた。
「あのー、石田さんを探してるんですけど」
彼女はめんどくさそうに僕を見返して
「そんな子知らない。何年生?」
石田さん以外の女子と話したことも無いのに、不機嫌な女子と話すのはさらにハードルが高い。
「1年生の女子です。
僕なりに一生懸命、愛想よく話したつもりだ。不機嫌なこの女子が怖かろうが、手段は選べない。石田さんを早く捕まえないと。
「1年の石田?」
彼女はバインダーを見た。どうやら出場選手が書いてあるようだ。良かった。石田さんを見つけられそうな気がした。
「ここには名前がないんだけど?変わったのかな?ねえ、センセー」
少し離れた所にいた女の先生を、彼女は呼んだ。
「センセー、ここに石田って名前が無いんだけど、変わったの?代表者」
「これで合ってるぞ。どうした?」
僕はなんだか不安になってきた。
「この子が、1年の石田ってのを探してるって」
女の先生が僕の方を見た。
「1年何組だ?」
そんな事知るわけない。焦ってタイムリープせずに、もっと下調べをしてから実行するべきだったと後悔するが後の祭りだ。
「あのその、組は忘れちゃって。石田芽類って言うんです」
「組を忘れるだなんて友達じゃないのか?まあいいが、石田芽類か、聞いたこと無いな」
女の先生は辺りをキョロキョロとして
「あの辺にいるのが1年だぞ。聞いてみるといい」
ありがとうございますと言うと、僕はさっさとその1年生らしい集団の所へ言った。
「あっ、成瀬だよな?!」
その中の1人の男子が僕の名前を言った。あんなに通ってなかったのに、僕の事を知ってくれている貴重な存在に出会った。これはラッキーだ。彼の名前は知らないが、向こうが僕を知っていてくれてるなら話しやすい。
「お前、何でここにいるの?てか、今日は学校にいたんだな」
彼は珍しそうに僕を見るが、僕には時間が無いんだ。
「あはは。あのさ、石田さん、リレーに出るんだろ?どこかな?」
「石田?」
「うん。石田芽類さん」
「そんな名前聞いた事無いぞ」
僕はどんどん不安になる。
「いしださとみならいるけど、なんかの間違えじゃね?」
彼は近くにいた同級生と思われれる生徒達に聞いた。そして誰もが石田芽流を知らないと言う。1年生の全クラス代表の生徒がいるようだったが、誰一人石田さんを知らないと言う。知らないどころじゃない。そんな子は居ないと、口を揃えて言うのだった。
そして、リレーのメンバーは並んで、グランドへと吸い込まれていった。入場門には僕だけが残った。
どういう事だ
石田さんがいない
リレーのメンバーじゃなかった
いやそれどころか石田芽類を誰一人として認識していない
僕は不安なまま家へ帰った。石田さんを救うつもりだったのに。もしかしたらあのメンツが知らないだけで、石田さんは存在しているのかもしれない。と言うより、居ないとおかしいんだ。明日も学校に行く事を決め、僕は眠りについた。
次の日、僕は学校に行き、なりふり構わず1年の全クラスを調べた。
けれど石田芽類がいない
おかしいぞ。タイムリープって違う世界に行っちまうのか?それにしては、ここは僕が知っている世界そのものだ。石田さんだけがいない。それだけなんだ。なんでだよ。
不意に強い睡魔が襲ってきた。ブラックホールに腹わたが引きずり込まれるような眠りだった。これはもしかして。
高1に戻して下さい。高1に戻してください。何度も言いながら、僕はまた落ちていくのだった。
目を覚ますと夕方だった。一体今はいつなんだ?スマホを見ると入学式の日だった。急いで制服の上着のポケットに手を入れた。こつんと当たる。あった。これはあった。青いガラス棒、3782の数字。あれ?こんな数字だったかな?僕は明日が、怖かった。
つづく
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