第3話 いきなり過ぎたタイムリープ

次の日、石田さんは学校を休んだ。なんでも病欠だとか。その日の昼休み、また佐々井と屋上へ行った。なんてことはない話をして、時間になったらまた教室に戻った。


すると石田さんがいた。僕はびっくりして、彼女に話しかける。

「あのさ、今日、病気だって聞いたんだけど」

「そうなの?!」

石田さんも驚いた様子だ。

「もう身体の調子はいいの?」

「今日は検査の日だったんだ」

「何の?」

「知らないの?」

石田さんの表情が険しくなる。

「知るわけないよ」

「前に脳を強く打った事があって。もうだいぶ良いんだけど、定期検査があるの」


しまった!あの話だ。石田さんに失礼な口をきいてしまって焦る。何て薄情な同級生なんだ。僕はとりあえず石田さんに、病気じゃなくて安心したと伝えて、自分の席に逃げるように滑り込むのだった。


その後の授業に身が入らなかったのは言うまでもない。何度も石田さんを見てしまう。まだ記憶喪失と戦っていたんだ。僕が気ままに生活していたあの頃。石田さんが一生懸命リレーで走って、その後転倒して、病院へ搬送された日も僕は家で寝てたんだ。教科書の隅にZZZと書く。ん?何かいい事思い付いたぞ。


タイムリープで体育祭の日に戻ればいいんだ


でも、今のタイムリープでは前日に戻るのが関の山だ。石田さんを救うには、約3年分戻らなければならない。どうやったらいいんだ?今のところ睡魔が起こって、戻るってのが絶対パターンだ。つまり今までの眠りより強い眠りが起こればいい。それならあの怪しい目覚ましドリンクを飲むのをやめよう。心の中で決心がつくと、急に誇らしくなった。石田さん、待ってて。


ドリンクをやめて4日目、定番化していたりさ姉の電話に出て、通学の準備をし家を出た。教室に入った瞬間、睡魔に襲われた。自分でもわかるくらいに、闇の中へぐっと引き込まれた。僕は願った。中1の体育祭の日に戻れ。中1の体育祭の日に戻ってくれ。何度も願いながら、僕の意識は落ちていった。


気がつくと自分の部屋にいた。今はいつだ?スマホの画面を見る。年月日を確認した。随分と過去へタイムリープ出来たみたいだけど、今日が体育祭当時とは限らない。あたりを見渡す。自分が着てるものは、中学当時の物だった。部屋に受験関係の資料や問題集はないし、高校の制服も無い。あるのは真新しい中学の制服。


間違いない。僕はタイムリープに成功したんだ。もう一度スマホを見る。時間は、12時過ぎていた。もし今日が体育祭だったとしてこれってまだ間に合うのか?しかも、今の時点でリレーがまだ終わっていない可能性が、どのくらいあるかもわからない。それでもとりあえず制服に着替えて、僕は急いで家を出る。


中学校も遠くはない。だが高校より遠い場所にある。走っていくが、そもそも外出をしない僕には体力がない。家を出た時と比べて2分の1の速度になった僕は、肩で息をしながらようやく中学校にたどり着いた。校門に、体育祭の看板があって、僕は安心した。すると運動場から大きな声が聞こえる。安心してる場合じゃない、急いで行かなければ。


運動場に移動して、トラックを確認する。遠目ではあるがリレーではない模様だ。リレーはいつだ。キョロキョロしていると、いきなり肩に手を置かれてびっくりした。


「君、何年生?何で制服なんだ?それに髪の毛長くないか?」

Tシャツにジャージの男の先生に話しかけられた。


しまったー。みんな運動着なのに制服なんか、目立つに決まってる。しかも寝てばかりで大して髪型にもこだわりなく生きていて、たまに自分で切っていただけだったからボサボサには違いない。


「すみません。通院で遅刻してしまてって。でも応援だけはしたいと思ってきました」

先生はじーっと僕を見た。嘘くさいよなぁ。


「見学の生徒の席は用具テントの隣だ。担任に来たことは伝えるが、担任は?」

担任の名前など知るわけがない。


「担任の先生には僕から伝えます。すみません。では」

そう言うと、僕は見学者用のテントに急いだ。制服姿の生徒が3人にた。ここなら目立たない。ほっとしつつも、石田さんを救うべく、いつもの自分なら絶対にしない思い切った行動をするしかなかった。

「あのー、もうリレーって終わりました?」

意を決して3人に話しかけた。心臓がバクバクしているのがわかる。

「この競技の2つ後かな」

女子がプログラムを開いて教えてくれた。


よし、まだ終わってない。それが確認できて胸を撫で下ろす。さて、どうやってこの人数の中から石田さんを探そうか。考え込んでいる時間はそう無い。石田さんが何組なんくみなのかもわからないし、何組なにぐみなのかもわからない。情けない話、学校に通ってないから、学年の違いもよくわからない。どうやって探そう。じーっと入場門と書いてある柱の所をにらんでいると、人が集まって何だか並んでいる様子だ。

「あの入場門のところって何の集まりなのかな?」

思わず口に出してしまった。


すると女子の隣にいた男子が答えてくれた。

「 次の種目の奴らが並んでんだよ。常識だろ」

小学校からろくに学校へ通わず、中学校では受験勉強優先の僕は、体育祭の常識なんか知らなかった。なるほど。じゃあ、あそこで石田さんを待ち伏せしよう。しかしそれからどうする?リレーに出ないように言う?そんな事できるのか?どう言えば石田さんは納得する?顔見知りでも無い僕が声をかけたって、相手にされないかもしれない。


だけど、リレーをやめさせないと、石田さんは記憶喪失になってしまう。石田さんをうまく誘導して、とりあえず運動場を出るしか無い。うまくって言っても具体的な言葉が見当たらない。そうこうしているうちに、トラックの競技が終わった。


しまった!次の次だ。僕は急いで入場門へ行った。僕は石田さんを救わなくてはいけない。


つづく

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