第2話 Lucky Days
翌朝、絶対に学校へ遅刻せず行くつもりだった。入学しょっぱなから変な注目を集めたくないし、昨日の落し物をあの子に渡さないといけない。そんな事を考えていたのに目を覚ますと時計は10時を指していた。窓の外は晴天。
あっちゃーーー
信じられん
今日は絶対に起きるはずだったのに
起きるつもりだったのに
アラームもかけたし
……なんでだよ
なんでだよ
なんでだよ
なんでだよ
頭を抱えていたらまた睡魔が襲ってきた。どうしようもない自分が情けない。けれど、自分の思いとは裏腹に、僕はみるみると眠りに落ちていった。
ようやく起きて、窓の外を見ると夕方だった。ため息を一つつく。眠過ぎるにもほどがある。部屋を出てキッチンへ向かった。冷蔵庫から適当な食い物を出して、腹を満たす。ん?待て。この菓子パン昨日食わなかったか?気のせいか。動画でも観ようと、テレビをつけた。ニュースを無視して、ネットに繋げた。今日、配信したての動画を見つける。よっしゃ。意気揚々と観始めた。だが、なぜか内容を知っていた。あれ?デジャヴってやつか?もういいや。自分の部屋に戻って、明日こそは学校へ間に合うように起きられるよう、アラームを3段階にセット。いや、それでもダメだ。とことん自分を信用できない僕は、りさ姉に電話をした。
「りさ姉、明日学校に遅刻したくないからさ、明日の朝、電話してよ」
「いい心がけじゃない。何時にする」
「7時半で。そこから着替えてソッコーで出れば余裕で間に合う」
「昨日、学校の先生から連絡あったわよ」
「なんでりさ姉の所に?」
「緊急の連絡先はあたしの電話番号にしたでしょ」
「そうでした」
「入学式に遅刻なんてあんたらしいけどね……」
「ごめん。もう遅刻しない為にさ、頼むよ」
りさ姉のため息が聞こえた。
「はぁ。今日の遅刻はもうどうしようもできないからね、明日からは遅刻するんじゃないわよ」
「え?今日は学校行ってない……」
「あんた今日の入学式に遅刻したんでしょ」
「今日は入学式の次の日だろ?」
「あんた、寝とぼけてんの?今日が入学式だったじゃない。じゃ、明日7時半ね」
そう言うとりさ姉は電話を切った。
あれ?僕は切れたスマホの画面を見て愕然とする。そこにあった日付。その日付は入学式の日だった。僕は急いで制服の上着を取り、ポケットを確認した。青いガラスの棒があった。なんだか脳ミソがぐるぐるしてきたぞ。
今日は入学式の日だったんだ
もう一度青い棒を見る。えもいわれぬ美しさだった。光がとても細かい。細かいが輝きは強い。それでいて青色がその輝きはに負けていない。これってガラスっていうより、石みたいだ。人工物なのかな?手のひらで軽く転がすと数字が見えた。
4650
こんな数字だったっけ。なんの数字かな?誕生日じゃなさそうだ。まあいいや。棒をポケットに戻して、僕は横になった。色々気になる事があったはずなのに、僕はさっさと寝入ったのだった。
スマホの音で目覚める。
りさ姉からの電話だった。ありがとうと言い電話を切って、学校に行く支度をした。学校に着くまでは半信半疑だったが、ホームルームで確信した。昨日が入学式で今日が2日目。そして教室に彼女を見つけた。なかなか話しかけらず、放課後を迎える。あれは大事な物で、彼女が心配しているかもしれない。席に座っている彼女に、思い切って声をかけた。
「あのさ、昨日これ探してたろ?」
ポケットから棒を取り出して彼女に見せた。
「あったの?どこに?」
彼女は焦って立ち上がった。僕は彼女に見つけた経緯を伝えた。
「良かったぁ。ありがとう。えーと名前は?」
「僕は
「
その後彼女と下駄箱まで一緒に歩いた。
入学式にはやらかしたが、今日は大成功だ。不思議な現象に救われた。
それからと言うもの、何かやらかすたびに、睡魔で前日に戻った。もしこの現象が起こらなかったら、僕は変人扱いされ、友達もできなかっただろう。入学式から3週間経った。石田さんともよく話をする。昼休み、できたばかりの友人、佐々井と食事を終え僕達は屋上に出る。他にも数人いたが、気にもならない。すると佐々井が僕に向かって話し始めた。
「晴翔さー、石田とよく話すな。気があんの?」
「んーなんじゃないよ。彼女の落し物を拾っただけだよ」
「そうなん?あいつ記憶喪失するからな」
初めてそんな事を聞いた。
「え?知らなかった」
「は?お前、石田と同じ中学卒業だろ?」
「え?そうだったかな」
寝ていて学校にはろくに通っていなかった事、通い始めてからは勉強に必死過ぎて友達も知り合いもいなかった事。そんな黒歴史を、人生初の友人を知られるわけにはいかなかった。
「石田さー、中1の運動会の日に、リレーで走ってたら、争ってた相手がコケて接触してさー。倒れて頭の打ち所が悪かったらしく、3日間昏睡したってさ。それからは元気になって学校戻ってきたんだけど、たまに記憶喪失が起こってわけが分からん状態になるらしいよ」
「そうだったかな。もう3年も前の話だからなぁあはは」
佐々井はフェンスに手をかけて続けた。
「あいつ記憶喪失が起きてもいいように、色んなことメモしてたらしいぞ。量が多過ぎてノート数冊分になってたってさ。学校違う俺がこんなに詳しいくらいの事なのに、お前はもう忘れただなんて、けっこー冷たいのな」
「キッツイなー、あはは」
愛想笑いをしながら、彼女の事を考えた。可哀想にな。何も知らずに話しかけていた自分が恥ずかしくなった。午後からの授業がもうすぐ始まりそうな時間になった。急いで佐々井と教室に戻った。席について石田さんを見る。彼女は僕の右斜め前方の席に座っている。教科書と筆記用具を持って準備万端だ。記憶喪失で生きていくだなんて、僕には考えられない。小柄な見た目とは違って、根性座っているんだろう。チャイムが鳴った。午後の授業が始まった。
つづく
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