045話 かんてら

「その点については、対策できることがありますわ。

例えば、レベルの上限を解放するとか、レベル200に相当するボーナスを取得すれば良いのですわ。」


言っていることはその通りだが、荒唐無稽過ぎる。

あまりにバカらしすぎて、一瞬全員が沈黙した。


「いやいや、レベルキャップを外すって俺達の権限で出来るものじゃないだろう?

ステータスポイントにしても、相当な量が必要だぞ?

この間貰えたのだってたったの3だぞ!?」


だが、すぐに騒がしくなった。

俺がそう言ったからだ。

それに対して、キシダは


「無ければそれを作れば良いのですわ。」


と、暢気に笑っている。


「そんな、無茶苦茶な!

1320ポイントだぞ?」


俺は食い下がった。

が、キシダは微笑むだけでそれ以上何も答えようとしなかった。

反応があったのは想像していないところからだった。


「1320ポイント?

それ、なんのポイントッスか?」


エリカの問いに、俺は答える。

普段から何度も計算していたので、ほとんど即答だった。


「え?レベル120から、レベル200の間に獲得するステータスポイントの合計だけど?」


それにウララが驚きを露にした。


「そんなに!文字通り桁違いですね。」


魔王との戦力差に絶望を覚えたのかもしれない。

少し顔が青ざめていた。


「と言うかアイザワ君、君はレベル120もあるのか?」


ケンザキが違う意味の驚きを隠しきれずにそう訊ねてきた。

それに反応したのはグロウだった。


「そうよ、なんならアナウンスさせても良いわよ?」


「グロウ、なんでお前が偉そうにしゃしゃってんだよ。」


本当に何なんだ。

しっちゃかめっちゃかだ。


「良いじゃない、本当の事なんだし。

ちなみにあたしは61よ!」


聞いてもいないのに、グロウは自分のレベルを言い始めた。


「お前、前回寝てただけの癖に微妙に上がってないか?」


俺が突っ込むと


「前回じゃなくてその前までに上がってたのよ!」


と、グロウが反論する。

エリカもそれに乗っかって


「私も前回ので33まで上がったッスよ!」


と、発言した。

が、それに対してアリスが嫌悪感を示すと


「はっ?弱っ!?

もともといくつだったんだよ。」


と、キレたアリスが言った。


「……27ッス。」


エリカは完全に萎縮して小声でそう答えた。

俺は色々な意味で頭を抱えると、


「おい、いい加減にしろよ。

アリスも突っかかんな。」


と、いつの間にか立ち上がってそう言った。

机を思いっきり叩いたせいで、少し手が痛かった。

だが、まだ納得出来てないらしいアリスが


「だって、納得いかねーだろうよ。

リズだってレベル60オーバーだぞ?

どうして27とか33とかのヤツにやられんだよ!」


と、言った。

確かにアリスの言い分も分からなくはない。

言われてみればそうだったからだ。

いくらエリカの攻撃が速いとは言っても、普通に考えるとダメージ量は微々たるもののはずだった。

本来なら回復量で相殺できてしまうはずなのだ。


だが、その疑問に答えたのはウララだった。

ウララが小さく手をあげて。


「あ、それは私が聖属性の魔法ホーリーライトをエンチャントしたからです。」


と、答えた。

まぁ、指示したのは俺だしな。


「聖属性のエンチャントとか無茶苦茶だな。

でも、そういうことなら納得出来なくも無いか。

で、あんたのレベルはいくつな訳?」


まだ、半分くらい納得できていない風のアリスが高圧的に訊ねる。


「私は……34です。」


と、ウララも小さく答えた。

その発言に驚いたのか、エリカが小声で呟く。


「え?ウララちゃん、この間まで私より低かったはずなのに…。」


よほどショックだったのだろう。

最後の方の言葉は掠れて声になっていなかった。

それに気づいたらしいウララが慌ててフォローする。


「あの…それが、私が詰めた魔法をアツシが使うと、それも経験値になるみたいなの。」


へぇ、そうだったのか、全然知らなかった。

俺は素直に感心していた。

と言うことは、あの魔法屋も相当レベル上がってるんだろうな…。

またそのうちに話を聞きに行ってみよう。


「それってもしかして、あたしを倒したときのも含まれるってこと?

ほんとコイツ無茶苦茶だったんだぜ?

見たことねーような魔法使って来るし、あたしの残機も減らすし…。」


アリスが俺にジト目をしながら言った。

残機の件はまだ根に持っていたらしい。

その発言に声をあげたのはケンザキだった。


「何?魔法だと?

君は確か道化職だったはずだが?」


何に驚いているのか分からないが、ケンザキがそう言ったので、俺は


「あぁ、そうだよ。

だからただの巻物スクロールだけどな。」


と、答えた。

が、それに対してアリスが再びキレる。


「はぁ?巻物スクロールがあんな使い方出来るわけねーだろうが。

てめー、魔法を合成させてただろうが!」


コイツ、さっきからずっとキレてんな。

て言うか、合体魔法くらい別に珍しくも無いだろ?

あれ?もしかして違うのか?


「え?巻物スクロールの合体魔法って普通だよな?

え?普通は出来ないのか?」


アリスが変なことを言い出したので、俺もつられて変な声が出てしまった。

俺は周りを見渡す。

誰が魔法職か分からないが、とりあえず目についた全員が首を横に振っている。


「あらあら、そのご様子だとご存知無かったようですわね。

それは【愚者フール】の【紋章】の力ですのよ。

無から有を作り出す力、あり得ないことを起こす力、閃きで全てをひっくり返す力、それこそが【愚者フール】の持つ【トリックスター】の力ですのよ。」


ニコニコしながら解説するキシダ…と言うかソフィア。

ま、マジか。

俺って優遇されてたのか…。

今までそんなに楽には勝ててなかった気がするのに、これで優遇…!?

本当に?


「え?いや、確かに色んな事が都合よく起きるなぁ…とは思ってたんだよ。

でも、だからって今までも楽には勝てなかったし、寧ろ俺だけハードモードな気がしてたんだけど…。

っていうか、そもそもなんでそんな事知ってるんだよ。」


俺は情報量でパンクしそうな頭で、言葉を捻り出した。

どう言うわけか分からんが、俺だけ違う意味で世界から「歓迎」されている気がするんだよな。

ボスしか出てこないチュートリアルとか、世界の闇とかブラック化とか。

ステータスだって低くはない筈なのに、全然身体能力は上がってないし…。

相対的に他のヤツが高いだけなのかもしれないけど、何か納得が出来ないんだよな…。


「あら、言ってませんでしたかしら?

わたくしもその特殊な【紋章】を持つ者だからですわ。」


あぁ、聞いてないな。

でも、何故だろう。

全く驚けないんだが…。


キシダは、一息ついたあとさらに続ける。


「と、言うよりも、ここにいる全員がそうなのかもしれませんけどね?」


そして意味ありげにそう言ったあと、アリスの方をチラッと見る。

え?アリスもそうなの?

コイツ、モンスターだぞ?

でも、確かに人間以外もとか言ってたな。

と言うことは、他にも怪しいヤツがいっぱいいるな。


「なんだよ、なんでそこであたしを見るんだよ。」


アリスは突然全員からの視線を集めたことでたじろいだ。


「貴女もその力がおありのようだからですわ。

解放前の様なので詳しくは見えませんが…。」


俺とアリスの声が重なる。


「どういうことだ?」

「どういうこと?」


キシダが答える。


わたくしに分かるのは物事の本質だけですの。

過程や結果は分かりませんし、解放されていないものは分かりません。

それがわたくしの持つ【隠者ハミット】の【角燈カンテラ】の力ですわ。」


それにグロウが前のめりで反応する。


「じゃあ、エリカやウララやあたしの力は見えるの?」


「ええ、わかりますわよ。

せっかくですからお伝えしましょうか?」


そう言ってキシダはそれぞれの紋章の力の事を説明しだした。

纏めるとこんな感じだった。


エリカ【魔術師マジシャン

あらゆる限界を一時的に引き上げたり、引き伸ばしたりする事が出来る。

能力名:【ウロボロス】


ウララ【女教皇ハイプリースティス

世界の歪みを発見することができる。

またその歪みを修復する事が出来る。

能力名:【律法書トーラ


グロウ【スター

世界の力を一時的に活用することができる。

具体的に言うと、オブジェクト化と活性化を操る事が出来る。

能力名:【瞬きトゥインクル


「魔法も使えないのに、私が魔術師って何でだろうって思ってたッスけど、少しだけスッキリ出来たッス。」


説明を聞き終えたあと、エリカはそう言った。

正直、タロットとかよく分からないが、俺も少し疑問だったので何となく納得出来た気がした。

…多分、気のせいだけどな。


「私がディアさんの道を見つけたのも、もしかしたらこの力のお陰だったのかもしれないですね。」


ウララも続いてそう言った。

ディアの道は歪みだったのか、世界が産み出したものなのか分からないが、初めに発見したのがウララだったと言うのは何か意味があるのかもしれない。


「あぁ、それからケンザキさんとセトさんについてもお話しておかなければいけませんわね。」


そう言ってキシダはケンザキとセトの【紋章】についても説明し始めた。


ケンザキ【戦車チャリオット

セーフティエリアを産み出したり、拡大・拡張したりすることが出来る。

なお、この力で産み出されたセーフティエリアは世界の歪みの一種として取り扱われる。

能力名:【開拓者パイオニア


セト【吊られた男ハングマン

短い時間だけ特殊な【紋章】ではない者を使役することが出来る。

能力名:【バトラー】


つまり、ヨコハマ駅のやたらと広いセーフティエリアはケンザキが徐々に広げていったものだったと言うことがこれではっきりした。

もしかすると、ケンザキが中央通路に常にいるのもそれを管理していたのかもしれない。

そう言えば、ケンザキが初めにやたらと驚いていたのも、この事と繋がりがあったのかもしれないな。


「非戦闘員のセトさんの方が戦闘向きな能力なんスね。」


エリカがそう言うと、セトが答えた。


「確かにそうかも知れませんね。

ただ、この能力がないとヨコハマ駅に住む全員に指示を出したりすることも出来ないので、どちらかと言うと業務連絡用ですかね。」


なるほど。

行政的な役割も担うギルドの連絡係と言うことか。

色々考えられていると言うことなんだな。

俺は組織の運営と言うものを考えさせられた。


だが、何か大事なことを忘れている気がする。

それが何なのか思い出せないが。


「…これで、わたくし達の手の内はだいたい明かしたと思っているのですが、貴方達から聞いておきたいことはございますかしら?」


キシダが訪ねた。

俺は一つだけどうしてもやりたいことがあった。

そこで


「聞いておきたいことは今のところ特に無いんだが、一個頼みがあるんだけど良いかな?」


と、聞いてみた。

キシダが確認してくる。


「何でしょうか。」


「ポータルを設置させてくれ。」


俺はそう言ってキシダを見つめた。

正直、ここまで来るのに何度も階段を上りたくない。


「流石だ、アイザワ君!

素晴らしいアイデアだ!

私もそれを思っていたのだ。

マスター、私からも頼む。」


恐らく一番何度も往復していたであろうケンザキが凄い勢いで同意してきた。

まぁ、気持ちはわかる。


「おっしゃりたいことはわかりますわ。

ですが、誰でも通れると言うのであればお断りせざるを得ませんね。

特定のメンバーのみを許可すると言うことが出来たりするのでしょうか?」


と、キシダは言ってきた。

まぁ、安全面を考えるとその気持ちも分からなくはない。

だが、そんな事出来るのだろうか…。


「出来るわよ。

例えば、今ここにいる人と、その同行者のみに権限を与えるとかでも良い?」


俺の心配はグロウの言葉で一瞬にして消し飛んだ。

そんな事も出来るのか。

知らなかった…。

その言葉にアリスが疑問を投げ掛ける。


「おい、それにはあたしも含まれてんだが、問題ねーのか?」


まぁ、アリスはまだモンスターだからな。

言いたいことは分からんでもない。


「アリスさんなら大歓迎ですわ。」


だが、予想に反しキシダはあっさりと許可を出した。

アリスよりも警戒しないといけないヤツがキシダにはいると言うことなのだろうか?

基準がわからん。


「えっ!?そ、それなら良いけどよ。」


逆にアリスがたじろいでいる。

そのせいか少しアリスがかわいらしく見える。

いや、元々喋らなければ美少女の部類だったけどな。


「じゃあ、専用のポータルに設定するわね。」


グロウに言われた通りに、俺はポータルを設置した。

場所はティールームだ。

設置したあと、冷静になった俺はグロウに突っ込んだ。


「なぁ、グロウ。

だったら俺の部屋も専用にしてくれよ。」


その言葉は、一瞬にして一蹴された。


「は?あんた、何言ってんの?

あんたの部屋は空の回廊の入り口でしょう?

そんな事出来るわけ無いじゃない。」


完全に忘れていたが、言われてみれば確かにそうだった。


「あ、そうだった。」


俺がそう言うと、全員の視線が一斉に突き刺さった。


「え、忘れてたんスか?」


エリカのこの発言を皮切りに、俺は全員から突っ込みを受けることになるのだった。

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エターナル・グロウ~正しいオンラインゲームの遊び方~ 持瑠 @mochirun

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