第6話 この魔法少女は、魔法の使用法を履き違えている

「なんでっ、なんで私の方に来たのよあいつっ……!絶対に許さない!」

「何とかペリカンは倒せたなぁ……」


クエストに行った俺達は、ペリカンに喰われたシスカを救出して、一度ギルドへと戻ってきていた。


シスカは先程から、若干生臭い異臭を放ちながら、時に頭を抱えて嘆きながら愚痴を零している。

対して俺は、シスカの愚痴に適当に相槌を打ち、取り敢えず水を飲んでナイフを磨いている。


そもそも、今回のこの結果は、明らかにシスカに問題があった。

まず、野郎は神剣の筈なのに、頑なに剣の姿にならず、あまつさえこの俺がピンチなのに、その無駄に高いステータスを持て余し、一切のサポートをせずに俺を嘲笑い、果たしてこの結果だ。


美しいとかぬかしていた奴が、ペリカンのゲロと共に現れた時は、ほんと面白かった、いやマジで。


ザマァ!


「無理よ!こんなんじゃまた私は食べられる!そもそも、こんな弱っちぃ奴とパーティーを組んだ所で、最初から上手くいく筈なかったのよ!ここは、仲間を増やして対策するべきよ!」


バカな自称神剣が、最もらしい対応策を提案してきた。

確かにこのパーティー編成には、些か問題があるかも知れない。

俺は無職で、レベルも低いしステータスもそこまで高くない。現在のパーティーの攻撃を担える人材は、悲しきかな、このバカな神剣である。


本当、これにもう少しだけでも知性が身についてくれればなぁ〜。


そんな、現実問題厳しい希望を、そっと胸の奥に仕舞い込み、真剣に対応策を練っていた……その時だった。


「そこの御二方、仲間を探しているのですか?」


ギルドの机に突っ伏していた俺達に、鈴の様な声音がかかる。


如何にも、魔法使いといった、典型的な魔法少女。背は凡そ150センチ後半、夜色の髪の毛を肩辺りまで整えて、煌びやかに輝いて見える、アメジストの双眸が、その小さく整った顔で殊更際立って見える。


幼さが残る、可愛い系の魔法使いだ。


歳は容姿や背丈から考えて13〜14歳前後。

このご時世、家庭の事情や、やや複雑な境涯故に、幼い頃から働く者は珍しくない。

中でも冒険者と言うのは、実力さえ示せれば誰にでもなれ、一応は身分も証明できる為、そんな子供達には結構人気な職業だったりする。


「君は、魔法使いか?」

「如何にも、あなた方が何やら、パーティーメンバーを募集しようかという会話を耳にしまして、もし良ければ、私があなた方のパーティーに入りますよ?私も、今一緒に冒険する為のパーティーメンバーを探しておりまして」


魔法使いの要件はそうゆう事だった。


「ねぇねぇ、君、目が紫色よね?カナタカナタっ!これは中々いい子を見つけたんじゃないの!」

「おい少し黙ってろバカ女。今、ちょっと色々考えてるんだ」

「何よその言い草は!少しは私の話を聞きなさい!いいこと!?紫色の目、アメジストの色彩の人達は、皆総じて、基本的に魔力量が一般の人よりとびっきり優れているの!つまり、優秀な魔法使いになれる素質を秘めてるのよ!この子、きっとかなり凄い魔法使いよ!」


ダメ出しされたシスカが、聞いてもいない事を羅列するが……。


確かに、その話は前に親父から聞いた。


親父曰く、『いいかカナタ。アメジストの目を持つ奴には要注意だ。奴ら、基本的には全能力値が平均より優れているが、天は二物を与えない。奴らは少々、いやかなりアレだ……。関わるとろくな事にならない。気を付けろ、アメジスト達は、俺達の想像を遥かに超えてくるぞ……!』

と、耳にタコが出来るほど言い聞かせられたっけ。


親父はクズだが、以前は世界中を旅していたそうで、そういった世間での常識や、ノウハウ、処世術、そして豆知識に関しては博識と言わざるを得なかった。


アレ?という意味はよく分からないが、あの親父が言う事には確かな確証がある。

一応は元女神のこいつも、アメジストは凄いと太鼓判を押している。


この子が優秀な魔法使いたる、何よりの証左だろう。


少しそわそわしている気もするが‥‥。


「そうだな、偶にはお前の言う事を信じてみるか……。君、名前は?」

「よくぞ聞いてくれたました。私の名はルカ。一先ず、よろしくです」

「ああ、俺はカナタだ。このアホそうなのはシスカだ。取り敢えず、パーティーに入るかという話だが、ルカの実力を見てから決めさせて欲しい」

「分かりました。では、早速行きましょう」

「ああ」

「ねぇちょっと、私、今の自己紹介に異議があるんですけどぉ〜」


かくして俺達は、先程クエストが失敗した森へと向かった。


少し、そわそわと落ち着きのないルカが気になるが、今日も無事、事が終わる事を、祈るばかりだ。






再び、因縁のある森へと返り咲いた。


「因みに、私は、属性最強とも言われる、光魔法を使います。ですので、少々威力をカバー出来なくなる可能性があります」

「光魔法!あなた、光魔法を使えるの!」

「おいシスカ、その光魔法ってのはそんなに凄いのか?」

「バカねカナタ!これだから田舎もんは」


シスカが態とらしく両手を振りながら「ナンセンス」とでもいいだけな仕草をする。


こいつ、真面目に売り飛ばしてやろうかな?


「光魔法ってのはね、魔法スキルの中でも特にスキルポイントを消費して、さらにどの魔法を威力が高いわ。実用性も何かと優れた、実践においては最強と言われる魔法の一つなのよ」


ほうそれは知らなかった。

ならば、尚更このルカには期待が増す。

優秀な魔法使いがこのパーティーに所属してくれれば、俺の覇道の道もいよいよ確実になり、しかも可愛い系の美少女ときた。

ハーレムを目指すにしても、申し分ない人選だ。


「おっ、早速お出ましだな」


森の大食漢、ペリカンが姿を現した。


「それでは、行きます!」


ルカが杖を両手で、前に突き出した。


途端、ルカの周囲に、濃密な魔力の奔流が現れる。

大地が呼応するかの様に唸りを上げる。

何か、凄い魔法を使おうとしている事が、如実に感じる。


「荒ぶる、荒ぶるわ奔流。閃く閃光、霹靂の如き我が暴虐の前に、何者も立ちはだかる事叶わず。絶対不変の摂理の前に残滅せよ!刮目せよ有象無象!これぞ、我が誇る、最強の魔法!【ライトニングブラスト】!」


杖の先から、見る見るうちに凄まじい魔力が凝縮されていく。


きっと、この杖の先から、何か凄まじいものが……!


……ん?


杖の先端へと収束されていったエネルギーは、想像に反して、ルカの体を包み込んでいき、刹那!


ルカの姿が消えた。


後に爆音が轟く。


一体何が起きたのか、俺とシスカはしばらく呆然としていたが、ハッとなりすぐにルカを探す。


その光景こそ、理解し難かった。


巨大な体躯のペリカンの腹には、大きく風穴が開き、その延長線上には、暴風でも吹き荒れたかのように森の木々がなぎ倒されていて、その先にルカが倒れていた。


「おっおい、ルカ、大丈夫か!」


危ないと、そう思った。


周囲の惨状からして、どれ程のスピードとエネルギーでルカが移動したのかは察するに難くない。

もしかしたら重傷かもしれない。

まだ数時間の間柄だが、つい先程まで笑って喋っていたか弱い少女が死ぬなんて、笑えない冗談だ。


俺は焦って、すぐにルカの元へ向かったのだが……。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ!今日も素晴らしい我が光魔法!あのスピード、この火力!ああ、堪らなく気持ち良かったです」


地面に横たわり、頬を紅潮し、その小さくもハリのある両太腿を擦らせながら何やら悦ぶこの魔法少女。


一体何があった。


というか、さっきまでと随分様子が違う。


若干そわそわしてはいたが、印象は静かで大人びた魔法少女、それが今はどうだろう?

少し艶かしく頬を赤くさせ、太腿を擦り合わせながら、何やら不穏な事を喋る輩である。


「おい、ルカ。説明しろよ」

「ああカナタではないですか。どうですか?これが我が力です!私は幼少の時に、光魔法のこの速さと力に魅了されてしまい、その速さと力を活かす光魔法の使い方を追求した結果『なら光を自分に纏わせて自分が音速になって突っ込めば良くね?』という結論に至りまして」

「Why!一体何故その結論になったぁぁぁ!!!」


この魔法少女、ヤベェ奴だ。

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バカな神剣を携えて〜彼はクズである 白季 耀 @chuuniyuki98

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