第5話 クエストに行こう!
この世界の冒険者には、大きく分けて2種類に分かれる。
簡潔に述べると‥‥。
稼げる奴か、稼げない奴か。
新人冒険者の9割方が後者に分類される。
何せ、顔のアポも無ければ実績もない。
実力不足で日銭しか稼げないし、おまけに身元は不明で怪しい。
そんな新人冒険者達は皆揃って、常にお金に困窮する日々を送っている。
街の宿なんて高すぎて、そこで寝泊まりできる奴は冒険者歴の長いベテランぐらいだ。
基本的には道路で寝たりとか、後何処かの馬小屋を借りるとか。
中には、雨風を凌ぐ為に下水道で寝る勇者もいるくらいである。
しかしベテラン冒険者達の話によれば、下水道で寝ると妙な病気にかかったり、世の男達にとっての、夜の一仕事をすると、病原菌が入って、アレをちょん切らなくてはならなくなった奴がいるそうで、今ではそんな猛者はいない。
この話を聞いた男の新人達は、総じて顔面蒼白にするとのこと。
それを面白がって、新人が来る都度におっさん達が言いふらすので、新人達はお金がなくても体の清潔さには気を使うのが、この街の新人冒険者達の特徴である。
まぁ余談でしたね。
結論としては、その日暮しの、特に男性冒険者にとって、寝床はとても重要なのだ。2重の意味で。
そして、冒険者になって、初めての朝を、俺とシスカは路地裏で迎えた。
「ねぇカナタ。なんで私達こんな所で寝てるのよ。宿くらい取りないさいよ」
昨日のままの服装で、眠そうに目を擦りながら、シスカがまた舐めた事を言い始めた。
「お前昨日の俺の話聞いてなかったのか?クエスト失敗の時に払った罰金のお陰で、俺は全財産を使い果たしたんだ。それに金があったとしても、宿で寝泊りしてたら、また直ぐに金がなくなる。収入が安定するまで、辛抱するしかないんだよ」
「冒険者って、存外生きにくいのね」
シスカが何となしに発した言葉には、俺も深く同意した。
俺の中でも、冒険者は凄く自由で、毎晩毎晩仲間達と酒を飲み交わして、雑談したり、わいわいやったりとか、そういうイメージが強かったが、いざ現実となるとそうはいかない。
やはり理想は理想なのだろう。
嘆かわしい。
「なら、早く宿を取れるくらいにリッチになる為に、今日は良いクエストを受けましょう!こんな生活が日常になるのはイヤよ!」
シスカが拳をつくり高々と宣言した。
こいつのこのポジティブな所は、数少ない長所だな。
そうして身支度を整えた俺達は、早速冒険者ギルドへと向かった。
晴天の今日、街から少し外れた森の中、俺達はあるクエストを受けたのだが……。
「シスカぁぁぁ!!!いい加減てめぇ剣の姿になれよぉぉぉ!!!」
「いや」
「ちっくしょうがぁぁぁ!」
あいつマジで使えねぇ。
俺は今、巨大なペリカンに襲われている。
名をフォレストペリカン。
本来ペリカンは水辺で生活する生き物なのだが、モンスターとなれば話は違い、このペリカンは主に森を生息地としている。
別名、【森の大食漢】とも呼ばれ、基本的にどんなものでも捕食する習性がある。
このペリカン達の好物は、何と人間の子供達だ。彼らが活動を再開し始める夏の季節では、このペリカン達が里や小さな村を襲い、子供達を丸呑みにする。
だからこの季節では、ペリカン討伐の依頼がギルドに押し寄せてくる訳だ。
強さはそれ程でもなく、例え捕食されても、重装備ならば奴らは飛んで逃げる事が出来ず、簡単に仕留められるそうだ。
少し経験を積んだ冒険者達には割と人気。
そして、俺には、自称とはいえ神剣を携えている。だからこの依頼なら難なくこなせると踏んだのだが……。
俺は今、ナイフしか装備していない。
何故、シスカを装備しないのかというと……。
(私は剣の姿より、人の姿の方が好きなのよ。こっちの方が私の美しさが際立つし、いざと言う時は逃げられるもの)
そうこの神剣、剣の癖に剣の姿になりだからないのだ!
これ聞いた時マジでこいつぶっ殺そうかと思った。
しかもそれを言われたタイミングが、ペリカンを目前にした時だったのだ。
お陰で出会い頭に捕食されそうになったよ。
なのにあいつは悪びれる気概すら見せずに、被害が及ばない程度の位置で高みの見物を決め込んでいる。
あの野郎、そんなに人の姿がいいと言うのなら、今度あいつの服全部燃やして、否が応でも神剣の姿にさせてやると心に強く誓った。
つかマジでそんな場合じゃねぇ!
「シスカぁぁぁ!マジで助けてくれぇぇ!」
俺は重装備ではないから、捕食されれば空へ逃げられる。
つまり死だ。
シスカに哀願するのは癪だったが、状況が状況な為、俺は与太なプライドを捨てる事にした。
「仕方ないわね、このクソ男!いいわ、助けてあげる!その代わり、これからはこの私をもっと大切に扱う事ね!寝床はちゃんと宿を使用し、この私に毎日お小遣いを渡す事!」
そんな悠長な事を口走るシスカを一度睨んでやろうと後ろへと視線をやると、後ろを追いかけてきていたペリカンが別の方向を向いていた。
その先には……。
「私は神剣、そして女神。そう、女神様なのよ!本来なら、あなたみたいな矮小な人間如きは、関係を持つことさえできない高貴な存在!それを深く、全身全霊で感謝して、この私に諂いなさい……ピュグ!!!」
結論を言おう。
奴は喰われた。
弱肉強食という法則は、幾星霜の間でも、決して絶たれる事のなく、連綿と続いてきた摂理。
そして、女神を自称するシスカさえも、その摂理には逆らえなかった……。
「ておい!お前、何喰われてやがんだよぉぉぉ!!!」
俺は粗末なナイフを振り回した。
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