第4話 この契約は解約できますか?
兎にも角にも、俺とシスカは何とか森から脱出し、その足でクエスト失敗を冒険者ギルドへと報告しにきていた。
「ああ、あなたは今日成り立ての新人さん!無事だったのですね!クエストはどうでしたか?」
おっとりとした雰囲気の受付嬢。
今日俺が初めて冒険者ギルドに足を運んだ時、受付を担当してくれた人だ。
胸が苦しそうに制服に詰まっている。
危うくそちらの方に視線が行きそうになるが堪えて、俺は苦笑しながら答える。
「それが、クエスト失敗してしまいまして」
「あらあら、そうだったのですか。ですがまぁよくある事ですよ。新人冒険者さんの中では、初日にしてあの世へ逝ってしまう方々も多いので、初日を突破できただけでもスゴイですよ!」
ちょっと言い方が雑ではないですかね?
逝ってしまうって、まぁ確かにそんな話は有名だ。冒険者はいわば、命を削って金を稼ぐ仕事だ。名声を求めれば求めるほど、危険度は跳ね上がるし、実践の最中では、経験で培ってきた感などをもとにして戦う。
そんな、経験も無ければ技もない、俺の様な新人冒険者は得てして死にやすい。
魔物に襲われる事は勿論、逃げ回っていたら道が分からなくなって彷徨い飢えて死ぬとか、他の冒険者。俗に言う新人狩りに襲われるとか……。その死因は様々な訳だ。
ちなみにこの街では新人狩りのケースが殆どないぐらい治安が良い。その為この街には冒険者を志願する若者が多く往来するのだ。
その後そのお姉さんに、クエスト失敗の規則として、罰金を払わされた。
何とかお世辞を言ってみるが効果は無かった。
お姉さん曰く、そんな事は慣れっこらしい。
皆考える事は同じという訳か……。
「ねぇカナタカナタ」
「はいなんでしょう?」
俺の残り少ない財産を叩いてついに一文無しとなり項垂れている俺の腕をツンツンとシスカが尋ねてくる。
「これは提案なんだけど、私も冒険者になった方が良いと思うのよ!そしてカナタとパーティーを組んであげる!そうすればクエストの成功率も上がるし、危険も少なくなるわ!どう?」
「成る程な。一里ある。だが……」
ぶっちゃけ、こいつを仲間にして大丈夫なのだろうか?
先刻までのこいつの言動を鑑みるに、この自称神剣且つ女神、かなり駄目な奴だと思う。
少なくとも、自身に降りかかるリスクでさえこいつは測れなかい程には馬鹿だ。
そんな奴とパーティーを組んでしまったら、一体これから何をされるのか分からない。
きちんと手綱に入れておく必要があるが、それさえも正直怠い。
一言で済ませると……いらん。
「あっちなみに、あなたに拒否権はないわよ。私とあなたは既に契約してるから、あなたは私を捨てる事は出来ないから」
「……はっ?」
今こいつ何て言った!
「契約って何の話だ。俺そんな事した覚えが……」
「忘れたとは言わせないわ。あなたが私を握った時に、契約はなされたのよ」
「嘘つけ!そんな簡単に契約できるわけねぇだろ!もっとこう……なんというか!例えば契りだとか、血を垂らすとかなんとか……色々あるだろ!」
「そんなのあなた達人族の勝手な妄想よ。神剣や聖剣や魔剣とかは、その剣を握った時点で契約が交わされるわ。そしてその契約は何があっても切れないのよ。だから私あの時『こんな人が主人とかいや〜』みたいな事言ったのよ」
事も無げに驚くべき事実を話し続けるシスカ。
嘘だろ?よりにもよってこんな奴と契約だと!
はっ?死亡じゃん。
「おい、一応聞くが、お前を売る事は出来ないのか?」
「あなた以外の持ち主が使ったってただの剣よ私は。私の本来の力はあなたしか使えないし、私を売ろうとしても多分勝手にあなたの所に戻ってくわよ」
「お前ふざけんなよ!解約だ!契約は解約だ!お前なんだよ勝手に戻ってくるって!契約と言うより呪いじゃねえか!」
「なっ!あんたね、黙って聞いてれば何よその言い草は!あんたは私と契約しておきながら捨てるというの!なんて酷いのかしら!外道よ非道よ!」
「うるさい!詐欺だ!これは絶対に詐欺だ!こんな不正な契約は認めらてたまるか!」
マジで害悪だ。
剣を売る事も出来ないし、当然捨てる事もできない。
今漸く理解した。
こいつの利用価値はゼロだ!断言できる!
冒険者ギルド内で押し問答を繰り広げる俺達は、否応無しに注目の的になっている。
中でもシスカの、この外面だけは良いこいつの容姿も相まって視線が凄い。
そして、当然、俺とシスカが出会った経緯を知らない冒険者達が、この会話のみを聞いていると‥‥。
「ねぇ、あの人!なんだかあの女の子を捨てようとしてるんだけど!」
「しかも今【売る】とか聞こえたわよ!あんな可愛い子を売るとか!サイッテーね!」
「きっと奴隷にでもして、夜には散々慰め者にする気よ!」
「「「サイッテー!!!」」」
おい待て!
いらん波風が吹いているぞ!
女性冒険者が容赦なく俺に陰口を叩いてくる。
「違っ!これには色々訳が……」
弁明しようとするが、その時。
シスカが掴んでいた俺の腕に更に力を込める。
なんだ、こいつ?
「カナタ!私が悪かったわ!!だから私を奴隷にするのは辞めてぇぇぇ!」
このクソ野郎まさか!
「私ちゃんと役に立つから!ねぇお願い!どんな事でもするから!あんな事でもこんな事でもなんでも!」
言うが早いか、捲し立てる自称神剣。
こいつ、こんな時だけ無駄に頭使いやがって!
「ねぇ!あんな事やこんな事って、一体どんな事なのかしら!」
「決まってるでしょ!人様には言えない破廉恥で陰湿な事に決まってるわ!」
「「「キャアァァァァァ!」」」
「よし、少しお前黙ろうか?」
ーーー数十分後ーーー
ありとあらゆる誤解が尾鰭を付けて拡散されました。
男性冒険者の方々は流石歴戦の猛者だけあって理解してくれましたが、女性冒険者の方は……もう手に負えません。
この街の女性冒険者は皆妄想癖なのだろうか。
冷めた、ゴミを見るような冷徹な眼差しを受け続け、俺はシスカを正式に冒険者にする為、受付は向かった。
受付のお姉さんは、さっきまでの朗らかな対応とは打って変わって雑になっていた。
受付嬢の説明は今朝方聞いたばかりなので、大まかなに説明すると、まずステータスについて。
ステータスはその人個人の能力を数値化したもので、自分にだけしか見えないが、任意で他人にも見せる事ができる。
偽装は不可能。
それとレベルや経験値。
これは、魔物や人などを倒した時に手に入る経験値が、一定数値まで貯まるとレベルアップする。
あと職業だ。
職業については基本職と上級職があり、大抵の人は基本職なのだが、中には最初から上級職のものがいる。……死ねば良いと思う。
ちなみに俺はまだ職についてはいない。
所謂無職だ。
単純に俺の能力値が突出していなくて、なりたい職業がなかった事と、無職は無職でメリットがあったから。無職は何者にもなれる。つまり変化ができる。全スキルが習得可能なのだ。
だから無職。
そして無職だからと言っても、世間の風当たりが強い訳でもない。
俺みたいに、全スキル習得可能だからという理由で無職のままで行く人も結構いるそうだ。
まぁ無職で成り上がった者はいないが。
こんな感じだ。
「それではシスカさん、こちらの書類に必要事項を記入して、このプレートに血を一滴垂らして下さい」
そう言い受付のお姉さんがシスカにステータスプレートと紙を渡す。
「おい、ちゃんと文字は書けるよな?無理なら代筆してやるぞ」
「幾らなんでもそれくらい出来るわよ。あまり舐めないで頂戴!」
そう不貞腐れながら、シスカはしっかりと必要事項を記入し、ステータスプレートに血を一滴垂らす。
するとステータスプレートが淡い光を放ち始め、それは自然とシスカの体の中へと、融合するかのように一体化した。
「はい、これで終了です。確認の為、ステータスプレートと唱えて下さい。それでステータスが見えますよ」
「分かったわ。ステータスっ!」
するとステータスがシスカの目の前に現れる。
最初のステータス開示の時は、まだコントロールがままならない為、必ず他人にも見えてしまう。
その事を知っている冒険者達は、邪魔にならない程度に後ろから覗き見し、そのステータスに応じて野次を飛ばすのだ。
ここで優秀な能力値を発揮した奴は、こぞって冒険者達からチヤホヤされ、冒険者人生がバラ色確定になる訳だ。
ちなみに俺の時は、身体能力が少し高いのと、知力が他よりも明らかに高い事以外何の特徴もなかった為、後ろから鼻で笑われた。
ついでに補足すると、そいつが俺の冒険者試験を担当した奴だ。無論急所を撃ち抜きノックダウンさせた。今も姿が見えないので、きっと奥の部屋で寝ているのだろう。
鼻で笑い返してやった。
今回のシスカのステータスは如何なものかと、俺はシスカの隣を陣取り盗み見る。
「何だこりゃ!!!このステータスはおかしいだろ!」
「バケモンだ!ここにバケモンがイヤがるぞ!」
冒険者の反応の通りの、チートステータスだった。
一眼見ただけで大体の能力値が高い事を認識した俺は、直ぐにこいつの全ステータスの中でも一番低いステータスを探す。
無論盛大に揶揄う為だ。
どれどれ、一番低いのは……知力。
あっ、なんか救われた気分だ。
「ふん、流石私ね!このぐらいでなくては!」
このバカは見事に調子づいてるが、こいつの知力が低い事が理論的に証明された為、俺は温かい目で見守ってあげた。
「このステータスは……確かに化け物ですね。こんなの見たことないですよ。このステータスなら、冒険者試験は必要ありませんね!コホンっ、それではシスカさん。晴れて冒険者になれた事、おめでとうございます!これからのご活躍に期待しておりますね!」
冒険者ギルドはたちまち野次の嵐となった。
あっ、やっぱりちょっとムカつくな。
今度こいつの服にゴブリンの服を紛れ込ませとこう。
何はともあれ、俺の冒険者生活初日は、こうして幕を閉じた。
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