最終日/一日目「元敵国同士の切り札は『かんぱい』したようです」



「────結局その後、式の行程がうやむやになって。でもパレード見に来た人はそんなこと知らないからってパレードだけはしっかり強行したんだよな」


「そうね」


「んだよ、すげー不満そうじゃんシェリー。飲めよー、俺の奢りだぞ」


「あの、リッド? 一応私たちって結婚したのよね」


「ん、まあ。あの日の観客全員が証人。間違いなんてねぇよ、……まさかもう忘れたのか?」


「まさか。あんな恥ずかしいこと忘れるもんですか。その場のノリで腕組んだり抱き着いたりキスまでしたり……パフォーマンスとはいえ、顔から火が出るかと思ったわよ」


「今ならお前顔から火を出せるぜ、こんな風に」


「火を吹くな。さてはユーリッド、酔ってるわね??」


「そりゃあ酔いもするだろが。結婚だぞ結婚。今後お前、一緒に暮らすんだぞ? マジで現実味がねぇよ……」


「……そんなの、何も変わらないでしょ。随分一緒に色んなところ行ったしさ」


「つっても一緒に居たのは一ヶ月だけだろ? 俺ぁこう、ろくな人間じゃねぇからなぁ、愛想つかされないか結構心配してるわけですよ、ええ」


「そういうの、本人に言うかしら普通……。まあ未来のことはわかんないから断言はしないでおくわね、旦那様?? あ。あなた、とか……の方が、よ、よかったり??」


「……(両頬バチーン)ってぇ!!?」


「リッド!!?」


「いや悪い、あれだけ最初人を殺しそうな目で俺を見てきたやつが……ねぇ」


「なに!? わるい!!? 私も酔ってんのよ!!」


「わるくない。さいこう!! 一生そう呼んでっ!!」


「っ、キモッ……」


「おおう容赦ない手のひら返しと言葉のナイフで大ダメージですよ、殺す気か??? あ、ちょっとテーブルに手を出すなって今酔ってるから直すに直せねぇよ!!?」


「あああああやだもうなんでこんなやつに惚れちゃったかなぁ私ぃ……」


「惚れ? え?」


「へ?」


「いま、すごく聞き捨てならない台詞が聞こえたんですけど」


「……えーと」


「いま、すごく聞き捨てならない台詞が聞こえたんですけど」


「……言ってなかったっけ?」


「てっきり俺のことは、こう、嫌いでも好きでもなく、ペットかなにかだと思ってるくらいだと」


「私のことどう思ってるわけ???」


「いや好きだが(泥酔故の即答)」


「ぴっ……にゃ、みゃ、しょんな、そんなところよ!! 私もね!! あーーあっつい!! ごくごく(イッキ飲み)ぷはーっ!! 大将!! もう一杯!! ビール追加!! いける!!?」


「おー、様になってるじゃねぇかー。まさか初めて一緒に来た酒場を結婚して初めて来るところに指定したから『当て付けか???』と思ってたけど」


「……当て付けよ。昔の私にね。ほら、あのときちょっっっとだけ、怒って帰ったじゃない?」


「ちょっとか?」


「ちょっとよ。でもあのあと、壊した机とか弁償しようとしても一回来たことあるんだけど、なにもないって言われちゃって。私も反省したの、だからその記憶の上書きにきたの」


「そうか、どうだここは?」


「いい店よ。まあ!!? お嬢様を初めてのデートで連れてくるような場所じゃないですけどねぇ!!? アホでしょリッド!!」


「……ぐうの音も出ねぇぇー……」



「────ま、ユーリッドのそういうところも好きなんだけどね」



「んにゃ、なんか言ったか?」


「なんも言ってないよー??」



 ◆◆◆



 ────あの日、私はお母様に連れられて、王城に来ていた。


「これから会って貰うのは、シェリーア。結婚相手だ」


 。貴族の集まりで聞くことはあっても、私とはどこか縁遠いと思っていた行事だ。だってお母様は一度として縁談を持ってくることはなかったし、私は人造人間だし、この国の貴族とは反りが会わないと思っているし。


 近しい異性に挙げられる友人は、居ないこともないけれど。


「どうしたそう驚くことか? もう十七、結婚適齢期も過ぎかけている生き遅れなんて言われたくなかろう?」


 それは、まあ。でも、こう、私は人とは違うし。貴族の人達ともあんまり考えは合わないし。あと男の人を好きになれるとも思わないし……いや女の人もそうだよ?


 魚の小骨が喉に刺さったかのようなもやもやを感じながらボソボソと反論すると、お母様はこう言った。


「因みに相手は帝国の人間だな。式は一月後の式典で行うぞい」


 帝国の? ついこの間まで敵対してたのに、こんなすぐに縁談なんて持ち上がるものなの?


 そう聞くと、お母様はくつくつと笑って。


「不安なのは分かる。だが、妾は〈時詠〉の魔女ぞ? 運命の相手を用意することは容易……いまのは用意と容易を掛けた面白爆笑ギャグじゃぞ?」


 運命の相手。そんなのが帝国に居るって? 馬鹿なことを言わないでほしい。お母様だと冗談に聞こえないから。


「無視かー。いや、シェリーア。その信頼は嬉しい。だから信じとくれ、な? 悪いようにはならん」


 なにか含みのある笑顔だ。じゃあ具体的に何があるの?


「そりゃあ許嫁同士で何が起こるかなんて、一択じゃろうて」


 は。


「は、鼻で笑われた……娘に……娘に……」


 だってお母様がそんなおかしな冗談言うから。


「えぇ、恋愛がそんなにあり得ないものと映っておるのかえ……??」


 そりゃそうだ。結局は帝国の貴族とうまく出来るかなんて無理難題もいいところ。運命? それでどうして三十日で恋愛が成立するの? 一ヶ月って。急すぎ。むり。むりむり。ばーか。


「!?」


 だいたいそんな。政略結婚てやつじゃん。愛のない恋愛の代名詞じゃん。結婚式で乱入してきた男にかっさらわれるやつじゃん。


「────くふっ」


 な、何がおかしいのよ。お母様でもちょっと怒るわよ?


「もう十分にキレてるじゃろうて。じゃなくての、その台詞、一月後のお主に伝えてやりたいのう?」



「おうおう言っとれ! まあ、どのみち結婚はしてもらうがのぅ!!」


「お母様には悪いけど賭け事しましょう!! 好きにならなかったら私の勝ちよ!」


「そうか、じゃあお主が負けたらあとで存分に妾に惚気にでも来てほしいのぅ?」


「上等よ!!」


 ────王城に二人の女性の叫び声が響き渡った。


 そんな初日の話。

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元敵国同士の切り札が和平の象徴として結婚を前提に嫌々お見合いさせられた話~なんかやたら嫁が変な奴にモテてたので気苦労が絶えません~ リョウゴ @Tiarith

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