第649話 取り合い

猫船長がびっくりしてる。


もしかしてハニワを装飾品だと思ってた? 

それはちょっとセンスを疑わない? いや、もしかして疑われた後か?


「『精霊の枝』は2本あるけど、まあ、効果があるのは真ん中のヤツだけだし、その縛りも効果も薄いから」

 猫船長の言うあれってハニワのことだよね?


 精霊が集まってくるのは俺がちょくちょくきて、エクス棒があちこちコンコンしてるからが一番大きな理由。


 ハニワには、そこまで強力な精霊寄せの効果はない。ただ騒がしく自由に過ごす姿が、精霊たちを楽しませ、この地に止めている部分はあるかな? 


 環境的には『精霊の枝』の敷地内どころか、島ごと『精霊の枝』みたいな環境で、この場所を気に入ってそのまま滞在する精霊や、この島で生まれる精霊は多い。


 エクス棒の『なんか快適』効果はハニワと巡らせた水路でもって精霊たちに影響を与え、精霊たちは住民に影響を与えているけど、それも物質界の設備の方でも整えて、精霊頼りにはなってないんで精霊の負担は少ないはず。


「『精霊の枝』には『清潔!』と刻んであったが……」

「それが『精霊の枝』の影響を受ける住人が守るべきことだね」

守るべきルールは『清潔』。


 これは島の清掃や水路の清掃を賦役として定期的にやってもらってるし、水路――しかも軟水――があるおかげで洗濯もマメ。


 ごくたまに、月単位で着替えずにいた者とか、トイレ以外で済ませたアホウが摘発されて、罰則の清掃活動をさせられている。


 2度目は島外追放なんで、滅多にいないけど。


 ハニワは4センチボディをキープしてればいいし、シャヒラの対の枝はカーンが王様であれば問題ないんだけど。


 そもそもシャヒラの方は島に影響がほとんどないんで、もし反転したとしても島には大した影響がない気がする。


 カーンの国の方はどうなるかわからないけど。


 カーンが王様として色々した施策って、どういう扱いになるんだろう? 『王の枝』の恩恵になるのか、王の命で臣民が励んだ結果扱いになるのか。


「2本……」

まだ納得いかないっぽい猫船長。


 さまよう瞳がソレイユを捉える。


「白と黒の枝は、美しいオブジェだと思えば……」

目をそらすソレイユ。


「あれこそカーン王の治めるシャヒラの『王の枝』より賜ったものだろう」

猫船長。


「二足歩行の……」

ソレイユは何かダメージを受けている様子!


「二足?」

猫船長は気づいていない!


 まあ、うん。


 お祭りの時はシャヒラも人型で姿を見せたし、カーンが枝と一体化してるって思い至るほうがすくないよね。猫船長は感激してたし。


 ソレイユって、商売やってるせいか、色々鋭いんだよね。気づかなくていいことに気づくというか。


 それにしても『精霊の枝』。


 ごめんね、たくさんあればいいもんじゃないよな。俺も今はそれが分かるんで、心の中で謝っておく。


 3本目の『王の枝』、『滅びの国』から持ち出してないけど、今までの流れでいくと、あそこ俺の領地になったのか?


 困るんですけど。


「猫船長はしばらく滞在するの?」

「ああ。商談がてらな」


 猫船長のいる宿。従業員猫による添い寝付き――いや違う。客が猫船長だった。


 カヌムに行って、だいふくこねさせてもらおうかな。


「あ、皮が終了する」

「おかわりを!」

「私も!」

「俺も!」


 小さな広場のあちこちから手が上がる。慌てて手に持っていた分を口に詰め込むやつも。


 いや、全員は無理だから。


「とりあえず、ファラミアと猫船長、船員さん優先ね。あとは並んで」

並んでと言い切る前に出来た列。


 速い。チェンジリング速い。


「く……っ! アウロ貴様半分よこせ!」


 ソレイユのそばにいたキールは、ソレイユが障害物になって真っ直ぐ来られなくってアウト。俺のそばにいたアウロは余裕。


「ほほほほ! 速さの勝利〜♪」

「側にいてよかったわ」

マールゥとパメラ。


 チェンジリングでも味のする食材は、普段でも食えるようにそこそこ入れてるはずなんだけど。


 そんなこんなで関係者しかこないタコス屋の営業を、材料が無くなったところで終る。狭い広場で取り合いが起きてるけど、シャッターならぬ鎧戸ばったん。

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