第639話 お手伝い
ハウロンの塔はハウロンしか入れないので、資料の選び出しは手伝えない。ちょっと時間が空きました。
空き時間があると、つい食料の備蓄を始めちゃうんだよね。無人島生活は俺の記憶に染み付いてる。
そう言うわけで粉挽きだ! パン焼きだ! 干物作りだ! 【収納】や『
味噌醤油も一応作ったけど、『食糧庫』の大豆しかない。こっちの世界、大豆の栽培は広がってない。
土中や空中から窒素を集めて大豆に肥料として送る根粒菌が地中にいないとか、ちょうど大豆が必要とする時期に日照時間が少ないとか、いまいち土地に合わないようだ。
ちょっとだけ作ってるけど、一株からの収穫量が少ないので効率が悪い。そりゃ、広がらない。食料が全体的に足りてないんだし、味より腹を満たすことのできる量を求めるよね。
エンドウ豆系と共生する根粒菌くんは元気なんだけど。こいつはあちこちの土にいるみたいで、同じ顔の精霊をよく見かける。
大豆はアミジンの土地でいけそうか、実験中。他も作ってもらいたいものいっぱいなんだけど、日本人として大豆は外せない。
そういえば大豆がないか見て回った時に、ゾルフィーニ豆というのを見つけた。これも一部でしか取れない豆。痩せた土地で、水捌けがいい場所で育つんだけど、それだけではないようで、やっぱり広げるのが難しそうな豆。
皮がとても薄い豆で、3時間以上ものすごく弱火でゆっくり炊き上げると、豆の形はそのままに中がクリーム状になってとてもおいしい。
水車小屋の粉挽きは、毎回精霊たちに手伝ってもらっているので、とても楽。粉にしたいものの入った袋を置いておくと、石臼の上の大きな木製漏斗みたいなのにあけてくれる。
で、紐を引っ張って、少しずつ石臼の上に落とすこともやってくれる。その紐を引っ張る作業と、粉になったのをザバーっと袋に入れる作業が好きみたい。
粉挽きは精霊に任せて、水車小屋にくっついてるパン焼き窯で作業。カヌムの家に作ったような、小さなのじゃなくって、ひと抱えありそうな大きさのを何十個って焼ける大きな窯。
この『
普段は家にある窯で焼いてるんで、こんな大量じゃないです。
窯の中で薪を燃やし、赤々とした炭を作るところから。普通はパン生地の用意の方が先なんだけどね。
パン生地をこねて、丸い枠に置いてゆく。その置いた丸いパン生地を精霊がちょんちょんとつつく。途端にぷっくりと枠いっぱいに膨らむパン生地。
普通は気温で発酵時間変わって難しいし、当然時間もかかるんだけど、酵母の精霊のおかげで一瞬!
最初は発酵しすぎで生地をベタベタにされたりで、悪戯かと思ってたんだけどお手伝いでした。これくらい、というのを伝えたら、だんだん上手くなって、今では一瞬でちょうどいい発酵加減。
本当は興味半分のちょっかいだったのかもしれないけど、今では優秀なパン焼きの助手です。
で、炭の位置を火掻き棒で調整して、パン生地を中に。もう一回炭の調整をしてあとは焼けるのを待つ。
「見張りお願いします」
『……!』
ラジャ! みたいな敬礼を返される。発酵させてくれた精霊とはまた別の、小さな炭の精霊たち。火加減は任せた!
干し野菜や、果物、瓶詰め野菜やシロップ漬けの果物。どんどん作って、【収納】。カヌムの地下に貯蔵してる分は入れ替え予定。
バルサミコ酢の樽を変えたり、台所で使う分のオリーブオイルを貯蔵庫の瓶から瓶に移したり。
畑や果樹園の仕事以外をまとめてやってる感じ。あ、乾麺作っておかなきゃ。
精霊の助けがなかったら、日々の生活のための作業で時間をたくさん取られていたところ。
食うのは一瞬なのに、食べられるように準備するのはとても時間がかかる。栽培から考えたら、本当に大変。
俺は精霊に助けられてるけど、普通はお金を払って従業員さんを雇わないとダメだよね。
精霊たちにはお礼に魔力を渡す。魔力を渡すだけじゃなく、精霊の性質を正しく認識して向き合うと、ちょっと強くなるみたい?
居心地がいいように水車小屋の周りに木や花をちょっと増やそうかな? 落ち葉や枯れ枝が水路に入ると、手入れが面倒になるけど。
最初、窓に張り付いてた大量の精霊を見た時は、こんなに穏やかに共存できる存在だとは思わなかった。
意思の疎通がしやすくなったのは、エクス棒のおかげかな? 今では精霊がいない世界って、ちょっと考えられない。
異形の姿なものも沢山いるし、意思がない精霊だっているし、意思があっても根本的に人間と合わないものもいる。
でも自分の性質に素直だし、いいと思う。
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