第632話 目的地設定
「ランタン準備OK」
ランタンのドームの中、光の精霊が手を振ってくれる。
大小二つのランタン、一つはアッシュへ。
「む。私で良いのか?」
「うん。そのままあげるよ」
剣は役に立たない場所だし、このランタンの方が身を守れる。
「大きい方は誰が持つ? 持ちたい人〜!」
「じゃあ俺が。戦闘じゃ、役に立たないからな」
レッツェが立候補。
「剣が役にたたねぇんじゃ、俺もなあ……」
ディーンがぼやく。
「ジーン様にいただいた精霊剣……まさか大々的に能力を使いそうな場所に行くことになるとは……」
執事が遠い目をしている。
そういえば執事の剣はシヴァの剣と同じく、エナジードレインみたいな魂にダメージいくような効果をつけたような? ただナイフとかなんで短いけど。執事の剣はすでにぬか漬けの精霊が精霊剣にしてたからね。
他は視力を奪う効果のと毒の効果のやつだったっけ? そういえばあの時、精霊やら効果については色々言ってたけど、俺が用意したのが暗器だったことについて何も言わなかったな。当の執事もディノッソたちも。
「ちなみにツタちゃんのエナジードレインは、触れないとだめなんで幽霊系に効果ないから気をつけて」
伸ばしたツタで物を触れるようになってる代わり、精神体とか思念的存在にはほぼ効果がない。
「ああ。分かった」
答えながら、ランタンを確認するレッツェ。
「クリスの光の剣が活躍するんじゃないかな?」
眩しいけど。
「闇と共に過去の恐怖も払拭できるよう頑張るよ!」
眩しい笑顔のクリス。
「んで、これがランタンと同じような効果が出ます」
のはず。
「魔法陣? 発動が――ああ、前に見せてくれた魔石潰すやつか」
ディノッソが魔法陣が描かれた符を受け取りながら言う。
「そそ。発動させたい時は、端っこの円があるとこ押して」
中に脆いタイプの魔石が入っていて、割ると魔力が流れて魔法陣が発動する仕組み。
「ううう。気軽に世界を変える技術」
ハウロンはなんだか涙を流しそう。
ちなみに、ミシュトとハラルファが力を流し込んだとこ、魔法陣消えてるんだよね……。たぶん、魔力を流すと浮かび上がるかんじじゃないかな? 前回と違って、張り合わせた内側に魔法陣が隠されてる! とかじゃないんです。
あの二人、けっこう愉快犯みたいなところがあるんでちょっと心配。
「とりあえず戦闘じゃなくって、島を見て回りに行くだけなんで。ランタンの光の範囲から出なければ平気だから」
旅人の石探しだから。魔法陣使うような場面ないから。
「……ピクニック」
ディノッソがボソリと呟いて、その隣でハウロンが沈み込みそうになった。
「準備はいいかな?」
配る物配って、みんなの顔を見回す。
「大丈夫だ」
頷くアッシュ。
「できてる!」
いつもと同じ男らしい笑顔のディーン。
「バッチリだよ!」
はつらつとしたクリス。
「準備でできることはした」
色々準備したらしいレッツェ。
「まあ、これ以上はすることないしな」
ディノッソ。
「覚悟は無理」
ハウロン。
「覚悟ができないのは、人間の範囲外の地でございますので、致し方なきことかと」
執事がゆるく頭を振る。
この二人の覚悟には時間がかかりそうなので、荷物の準備ができてればよしとする。
「【転移】!」
そういうわけで、みんなで『滅びの国』です。大勢ならば怖くない!
「怖っ!!!!」
目の前に迫る黒い影に飛びのくディーン。
「ディーン、飛びのく気持ちはわかるが、ランタンの光の中から出ないようにな」
冷静なレッツェ。
「こりゃまた……。聞いてた通りの場所だな。本当に黒い幽霊がそこかしこにいやがる」
ディノッソが周囲を見回して言う。
「青白い霧、崩れた石の廃墟、呪われ彷徨う影たち。生きとし生ける者を自分たちの側に引きずり込もうとする招く手――『滅びの国』」
クリスがいつもとは少し違う声音でつぶやく。
「本当に光の範囲には近づいてこない。それにアタシたちの影になるはずの場所まで明るいのね」
ハウロンはランタンの効果の方が気になる様子。
大賢者、切り替え早い!
ランタンの効果範囲の俺たちの影は、まるで真上から照らされてるみたいに最小限、真下に落ちているし、ランタンの光は地形のおうとつにも影響を受けず、丸く光を落としている。
レッツェの持つランタンとアッシュの持つランタンと、二つ分の丸い光。雪だるまみたいだ。いや、色は別に雪っぽくないしだるま?
「さてじゃあ、旅人の石が落ちてそうな港町に移動しよう。どこか行きたいとこあるならそっちが先でいいけど」
「あるわけないでしょ!!!」
ハウロンが叫ぶ。
「あ、俺、大賢者の風見鶏、実物みたい!」
ディーンが手を上げる。
「私も」
クリスも並ぶ。
「うむ。せっかく来たのだし、見てみたいものだ」
アッシュ。
「順応性高くない!? 若さなの!?」
ディノッソが叫ぶ。
まあうん、光の外はうぞうぞ蠢く黒い影でいっぱいだしね。でも、船から風見鶏狙ったとか言ってたし、港町っぽい。目的地そこでいいよね?
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