第631話 防御
思い立ったが吉日で翌日には行くつもりでいたけれど、ハウロンとレッツェを中心に4、5日時間をくれって言われた。
『滅びの国』についての資料をみんなで共有して勉強。資料はハウロンが以前集めたやつ。今は資料をカヌムの貸家に置いといて、読みたい人が読めるようになってる。
レッツェは資料を全部読み切るつもりなのか、ずっと一階の居間にいる。アッシュも朝から夜遅くまで、怖い顔をして読み耽っている。集中すると眉間に皺も集中するようだ。
ディーンはずっと籠っているのは性に合わないらしく、魔の森で魔物相手に軽い運動をしてくる、と言って時々いない。
クリスは依頼のギルドへの報告とアフターケアで、合間を縫ってって感じ。ディノッソも手が空いたら読みにくる。子供たちの火の時代の言語やらなにやらの学習を始めたようで、一家で別なお勉強会が発生している模様。
あ。
【収納】の精霊ってリスか! いや、あのリスって倉庫とかそっち系じゃなくって、『溜め込む精霊』みたいな系統だったような……。【収納】できればなんでもいいけど。ハムスターの精霊とか探すべき?
ハウロンは夜にやってきて、色々質問に答えたり討論する感じ。俺は読書に集中するみんなにコーヒー出したり、軽食を出したりしてるけど、メインはハウロンの送迎のためにカヌムに通っている。ハウロンの転移はちょっと不便だしね。
「賢者って体力勝負だったんだな」
ハウロンがムキムキな理由がわかった気がする。
賢者ってもっとこう、本に埋もれて動かないのをイメージしてたんだけど、大賢者となると働きっぱなしだし、ずっと討論してるしですごいじゃん。びっくり。
「誰のせいだと……っ」
言葉に詰まるハウロン。
「そういや、昔は割と余裕というか、ヒントは与えるから自分でたどり着けみたいなムーブだったな」
「資料も多くの中から正しいものを選びとれというスタンスでございました」
ディノッソと執事。
「アタシが把握している資料の書き換えがあるからでしょうが! どこから持ってくるのその知識……っ! 資料よりジーンの言うことの方が正しいとして、裏付けは必要なのよ!」
ハウロンが持ち込んだ資料、俺が『精霊図書館』で読んだやつの断片というか、見事に書き変わってる部分があってですね……?
どうしよう、言うべきなのかってもにょもにょしてたら、レッツェに「今のうちに正直に言っておけ」ってなんか俺が叱られるコース設定されたので正直に言いました。
ごめんね、ハウロン。『精霊図書館』紹介したかったけど、ルゥーディルが叫んでいてうるさいって却下してきたんだ。ハウロンが俺と一緒にいる時、何度か様子を見にきてたんですよ。本人じゃなくって眷属使って覗き見だけど。
「調べることが多いし、検討することも多いのよ!!!」
どこか嬉しそうに発狂しているハウロン。
落ち着いてきたらまたルゥーディルに判定してもらうつもりでいるけど、いつ落ち着くんだろう大賢者。
「む……。美味しい」
アッシュがそばに置いておいたチョコレートを口に運び、幸せそうな声をもらす。
気に入ってもらえて何よりだが、ハウロンの叫びも聞こえないほど集中している様子。眉間の皺を解放してください。
そんなこんなで出発日。
「リシュ、行ってくる」
早朝の散歩を終え、リシュをわしわしして行ってきますの挨拶。
お弁当も持ったし、ランタン持ったし、魔法陣や護符の類も持ったし、忘れ物してもすぐ戻れるし。
カヌムに【転移】。
「色々読んじまったが、いっそ知らねぇままのほうが気が楽だったかな。対策、ほとんどねぇみたいだし」
ディーンがぼやく。
ハウロンの持ってる資料は、だいたい「『滅びの国』に足を踏み入れたら最後、囚われる」みたいなオチばっかりだったんで、気持ちはわかる。
「緊張するよ! でも僕の精霊剣が活躍するかもしれないね!」
クリスが腰の剣を軽く叩く。
そういえば確かに。目眩しにしかなりそうにないって思ってたけど、『滅びの国』でなら大活躍しそう。
「そういえば、みんなちょっとこれ踏んで」
魔法陣、転写バージョンを人数分。
「何だ?」
聞きつつも説明する前に踏んでくれるディーン。
つられてみんなも次々に踏み、靴の裏に魔法陣が転写される。
「これ、幽霊避けの一種よね?」
魔法陣を読み解きながら踏むハウロン。
「うをっ! 足踏みすると光る!」
ディーンがその場で足踏み。
「早く踏めば踏むほど光るよ。幽霊避けのランタンあるから光の届く範囲は影も
大丈夫だけど、念のため。なんか足元にも注意とか言われたし」
踏んで相手をどかすタイプの足元防御です。
なんか全員足が光ってる絵面は変な感じ。日本にいたとき、子供が歩くと踵が光る靴があったような……?
「誰に? って聞いちゃダメかしら……」
ボソリと悩ましげなハウロン。
◇ ◇ ◇
4/10、本日「異世界に転移したら山の中だった」13巻発売です!
よろしくお願いいたします。
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