第629話 勘です
「それにしても本当に綺麗な魔法陣。『青の精霊島』、そうね普通にスカウトしたって言っていたものね。ジーンだものね、信仰に迷った聖者パウロルもまた魔法陣を描くわよね」
ハウロンが嘆息する。
パウロルおじいちゃんは迷ったんじゃなくって、真っ直ぐ進んでたら目的地が入れ替わった感じだぞ? 上野行きの電車乗ってたら、上野が新宿になってたみたいな。
名前一緒で中身別な精霊になってたら、そりゃあ信仰は向けられないだろう。信仰続けてたアノマの神殿の人たちの方がおかしい。
認識阻害の件を言っていいものか、言ったら巻き込んでしまうのか、巻き込んだらどうなるのか、何もわからないので言わないけど。
「俺が引きこもってる間のことだな。神官長が出奔したって話はアノマで聞いた」
こちらはちょっと前まで田舎で農業やってたディノッソ。
「そうよぅ。信仰する神の、精霊の何を感じ、理解したつもりになっていたのか分からなくなったとおっしゃって。精霊の力を借りる魔法陣も、ご自身が作られたモノはこの先も正しく作動するか不安が残るとおっしゃって、破棄するよう言い残されたそうよ」
そう言って、ランタンの魔法陣をそっと撫でるハウロン。
ごめん、そっちは俺が本読んで描いた方。空気を読んで言わないけど。
「『滅びの国』の亡霊に効くかどうかは、あちらが異質なので正直分からないけれど、普通の霊には効くことは保証する。なんの問題もないわ」
ハウロンからようやくランタンの検品結果をもらえた。
「パウロル様、研究もやめてしまわれたと聞いていたけれど……。そうね、ジーンの元でならきっと精霊と関わるのも楽しいわよね」
言いながら俺にランタンを戻すハウロン。
「うん、楽しそうにしてるよ。だからこのランタン持って、『滅びの国』にみんなで行こう」
「だからなんでそんなピクニック行くみたいに……っ!」
ディノッソの抵抗!
「私は行くよ!」
クリスのOK!
ん?
「俺がいうのもなんだけど、OKなの?」
予想外でした。
他のみんなもなんか体ごと引いてるんだけど?
「私は幼い頃から『滅びの国』を聞かされて、どうにも『怖い』と刷り込まれてしまっていてね。それに、一度だけ黒い
笑顔でウインクしてくるクリス。
でも少し表情が固い。本人の言う通り、やっぱり刷り込まれた恐怖は心のどこかに残ってるのかもしれない。
「うむ。実際に見れば克服し、解決することもあるだろう。恐怖は心のうちで育つ、それを打ち消すこと、私も手伝わせて欲しい」
アッシュが真面目な顔で参加表明。
よし! クリス、アッシュ、執事をゲット!
「ありがとう。実際に見れば、そう恐ろしくもなかったとなれば嬉しいよ」
クリスがアッシュに礼を言う。
「物好きだな、危ないもんには近づかないのが一番だ」
呆れ顔でワインを飲みながらレッツェ。
「怯えて過ごすよりゃいいだろ。クリスが行くなら俺も賑やかしに参加すっかな」
こっちはディーン。
ディーンもゲット! 大勢のほうが怖くないよね。
「それに『滅びの国』に行った方がいいって勘がいうのだよ! このクリス=イーズの!」
クリスがキラキラ倍増しで手を上に向かって差し出す。
無言、少々の間があく。
「……勘」
「……勘かぁ」
レッツェとディーンが、少し嫌そうなそれでいて諦観したような顔で言葉を漏らす。
――そういえば、クリスの勘って顎割れ好き精霊の恩恵だったっけね。久しぶりに聞いた気がする。精霊小さいし、勘の乱発にはならないのかな? 顎を1万回擦ったら勘が働くとかそういうシステムだったらどうしよう。
「どうしたの?」
ハウロンが不思議そうに聞き、ディノッソも様子の変わったレッツェとディーン、二人を見ている。
「クリス様は精霊の天啓を勘という形で受け取られるようで、その勘には従ったほうが良いようなのです」
執事がそれを知らないハウロンとディノッソに教える。
「うん。自分で言うのもなんなんだけれども、私の勘は特別さ!」
笑顔で決め顔のクリスの顎を、うっとりしながら精霊が指でなぞってる。割れ顎セクシー?
「これは、全員行く流れなんだろうな……」
「あそこに……また……? 行くしかないんでしょうね……」
呟くディノッソと、そのディノッソの顔を見ないまま遠い目で呟くハウロン。
お弁当は8人分でいい?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます