第626話 予定のすり合わせ

「行く予定は『滅びの国』の港町」


「……」


 行く先を正直に告げたらハウロンがスンとした顔で沈黙した。


「今一緒に行く?」


「……」


 微動だにしないハウロン。


「……」

困って俺も少し首を傾げたまま黙る。


「……カヌムで」

「うん?」

「続きは、カヌムでみんながいる時に!!!!」


 ああ、休憩時間終わっちゃったか。


「ハウロン忙しいのに大丈夫なのか? 俺だけなら、また休憩時間に出直すけど」

「時間はなんとしても作るわよ! 私に癒しが必要なのよ! 酒の勢いも欲しいのよ!」


 癒しが必要なほど忙しいのか、それとも『滅びの国』がダメだったのか。――幽霊話苦手だったりして。


 ハウロンは大賢者でも、結構周りに相談する。見習おう。


 昼間よりは夜の方がいいということで、みんなの都合を確認して連絡することに。とりあえず俺だけカヌムへ。


 カヌムの家の勝手口から出て、隣のディノッソ家の扉を叩く。


「おう」

中からディノッソの声がして、すぐに扉が開く。


「ハウロンが近々飲み会がてら集まりたいんだって。これからアッシュに声かけて、貸家に行って、誰か帰ってくるの待ちながらお茶するつもりなんだけど、ディノッソどう?」

まだ明るいし、外で遊んでいるのか子供たちはいない様子。


「シヴァ?」

振り向いて、台所の方を見ながら呼びかける。


「ジーンと一緒なら、夕飯はいらないわね? 片付けたら行っていいわよ」

「はい、はい」

ディノッソのところからはシヴァが見えているのか、それとも声だけ交わしてるのか、そんな会話。


「ちっと待って」

そう言って、奥に引っ込む。


 何か作業中で道具とか広げてたのかな? シヴァを手伝ってたっぽい。


 すぐに戻って来たディノッソと一緒に俺の家を通り抜けて、今度はアッシュの家の勝手口の扉を叩く。


「こんにちは〜」

「ジーン様、いらっしゃいませ」

執事に出迎えられる。


「ハウロンが近々飲み会がてら集まりたいんだって。これから貸家に行って、誰か帰ってくるの待ちながらお茶するつもりなんだけど、どうかな?」

聞いているのはアッシュの予定、執事はアッシュが来れば来ることは分かっている。


 で、こちらもオッケーをもらい、連れ立って貸家へ。


「こんにちは〜」

「おう!」

夕方というには少し早い時間で、誰かいるか微妙だったけど、ディーンがいた。暖炉の前で所在なげにしていたけど、俺たちを見て笑顔。


「どうかした?」

「帰ったらみんな留守だし、飯には早いしどうしようか悩んでた! ディノッソの旦那、アッシュとノートもよく来たな」

わははと明るく笑うディーン。


 事件じゃなくて何より。バルモアや王狼って呼びかけは控えてくれと言われ、旦那に落ち着いてるディーン。ディノッソに会えてあからさまに嬉しそう。


 みんなでテーブルを囲んで椅子に座る。執事はすかさずお茶用の湯を沸かしにかかる。


「そっちこそどうした? 飲みか?」

にこにこしながらディーン。


「ハウロンがお疲れなんで、近々みんなで集まりたいんだけど、予定どう? って聞きがてら、お茶しに来た」


 まだ聞いてないけど、ディノッソ一家は迷宮から帰ったばかりなんで、しばらく長く家を空けることはなさそう。


 アッシュは期間が長い依頼はあまり受けない――たぶん風呂事情とかあるんだと思う。執事はアッシュ次第だ。


 ディーンは依頼人の性格とか、ついてくる要素が面倒か面倒でないかで仕事を決めることが多くて、すぐ終わるのか長引くのか予想がつけにくい。


 最近娼館通いの頻度が減って、お金があるからか前ほどガッツリ仕事を入れることもないみたい。金ランクに上がったからかもしれないけど。


 クリスはギルドに頼まれて残ってしまうような面倒な依頼や、貴族絡みの依頼をこなしてることも多くて、こっちもお出かけ予想がつけづらい。


 レッツェは、ギルドに頼み込まれるとかイレギュラーがなければ、だいたい長めの仕事に出る周期が決まっている。ここしばらくは、魔の森の浅いところの日帰り仕事のはず。


 そう思いながら、おやつを出す。


 甘物が好きというわけではないのが大半なので、まずはボンボンショコラ。ウイスキー、ガナッシュ、プラリネ、マジパン、キャラメル。甘酸っぱさを全面に出したフランボワーズ。


 アッシュ用にケーキはどうしようかな?


「俺は明日、ちっと報酬もらいにアノマに顔出してこなくちゃならないが、その後なら他に合わせて予定空けとくぜ。レッツェも夜なら空けられるだろ。――クリスは明日か明後日帰ってこられればいいな」

笑顔で話だし、クリスのところで少し真顔になるディーン。


「面倒な依頼なんだ?」

「内容じゃなくって、依頼主がなあ」

腕を組んで微妙な顔をするディーン。


「本題に入るまで長いんだよ、言葉尻とって何故か他の話題にもってくし。わざとじゃなくって、その時気になったことに全部意識が持ってかれてるというか、依頼ほかを忘れるというか。依頼が聞けるのが翌日改めて、ってことまである。俺だったら途中でキレて帰ってくるんだけど」


「なんか大変そうだな」

俺の場合はそもそも近づかない、だな。


 ちゃんと向き合うクリス凄い。


「クリスは難しい依頼主も如才なく軽々とあしらっている。相手が不愉快になることも、自分が不利益を被ることも少ない――見習いたいが、私には難しいようだ」

そう言ってアッシュが難しい顔。


 後ろにおどろ線出そうだから悩まないでください。せっかく表情が柔らかくなって来たのに。


「予定は聞いとくよ。またなんか大賢者ハウロン叫ばせてるのか?」

「作った物の改良点とかあるか聞きにいったら、色々ダメだった」

意見が聞けないままです。


「そりゃ、叫んでるだろうな」

「……飲み会の意味を正しく理解いたしました」

ディノッソと執事。

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