第624話 監修希望
「やあやあ。とりあえずこれを納めていただいて」
暑いを越して熱いので、差し入れです。
「ありがとう。以前、砂漠で使ってたやつね?」
そう言って、俺が渡したものをしげしげと眺める。
持ち運び用の冷え冷えプレートです。ハウロンなら、精霊を使って服の中で微風を吹かせるくらいはやってそうだけど。
ハウロンの私室は大きな絨毯が敷いてあり、クッションがたくさん。いくつか部屋があるので、執務用は机と椅子なんだろうけど、案内されたここは基本寝そべって過ごすみたいな部屋だ。
正直俺は落ち着かない、自分の部屋なら別だけど。水煙草を引き寄せてるハウロンには似合ってるけどね。
で、絨毯の上には銀のお盆があって、そこに甘い菓子がある。出された飲み物は、チャイみたいな香辛料が効いたミルク入りのお茶。
「手に入る食材がエス経由なこともあって、エスの食文化が色濃いのよ。お茶は悪くないわよ?」
とのこと。
早く米や果物の収穫が軌道に乗るといいんだけど。そう思いながら大きな一つを小さく切り分けた菓子に手を伸ばす。
蜜がたらんと伸びた。あれです、綺麗だけど蜜味の何かです。
お茶の方はハウロンの言う通り、なかなか美味しかった。美味しいというか、ちょっとクセになる味? うんと暑いところか、逆にうんと寒いところで飲みたい感じ。
「で? 相談って何かしら? 一応覚悟は決めたのだけれど」
「何の覚悟だ? 普通に精霊と魔法陣を使った道具の監修を頼む」
「確かにそれをアタシに頼むのは間違ってないわ、ジーン以外からならそう思うわよ? でも、こ・れ・の! 製作者がアタシに何の用よ!?」
そう言って、さっき渡したひえひえプレートを見せて来るハウロン。
「他も精霊が見える様になる魔法陣とか、分解しようとすると爆発するとか!」
……そういえばそんなものも作りましたね。だって、自動的に消滅するのはロマンじゃないか? こっちにはそういうロマンないの?
「今回はこれです」
ランタンを出す俺。
「さらりと出さないで!!! 覚悟が決まらないでしょう!?」
「さっき覚悟決めたみたいなこと言ってなかったか?」
「気のせいよ!」
理不尽。
「……で、ランタン?」
色々抵抗するようなことを言うけれど、ランタンを出したら手に取るハウロン。
精霊の見える魔法陣も興味津々だったし、好奇心とか知識欲に負けるタイプだよね。手に取ったとたん、爆発したらどうするんだろう?
「ここのつまみを下げると、ドームが持ち上がって隙間から精霊が入れるようになるんだ」
「『精霊灯』みたいに側面に穴を設けて出入り自由ではいけないのかしら? 中に閉じ込められることになるわよね? ――って、ちょっと!! ガラスじゃないじゃない!!」
「アクロアイトとかいうトルマリンの透明なのだな。風の精霊と、火の精霊の影響のおまけ付き」
「おまけじゃないわよ、それがメインよ!!!!」
メインでした。
「鉱物に土や火の精霊の影響がでるのはそう珍しくないけれど、風だなんて……!」
俺的にはでっかいトルマリンに驚くのかと思ってたんだけど、違った。ちなみに精霊金や精霊銀とかは、いろんな属性の『細かいの』がたくさん集まってなる。どれか一つの属性に傾いたらそれは、火金や水金とか、もしくは個別の精霊の分類で呼ばれる。サラマンダー金とかね。
うちの精霊金や精霊銀、精霊鉄は精霊が触りたい放題してるので、属性が偏ることはあまりない。どの精霊でも出入り自由だからね! 普通は精霊自体が偏るらしいんだけど。水の精霊がいるところに火の精霊はよりつかないとかね。
「精霊金や精霊銀は大丈夫、影狼じゃないけど範囲内だわ。ポロポロあっていいものじゃないけれど、だいぶ慣れた……」
まずは素材の確認かららしく、精霊銀のフレームとアクロアイトを指先でなぞって確認している。
素材はほら、その二つとあとは魔法陣を刻んで色をつけたインクだけだし。本来はオイルタンクになる部分に魔石詰まってるけど、普通の魔石だし。
「継ぎ目のないフレーム、造形はいったいどうやって……。ああ、魔力を流して形状を変えてたことがあったわね。ちょっとならともかく、何であんなに流体みたいに動くのか謎だけれど」
うちの塔の窓の格子、夜は蕾で昼間は咲きます。活動的な金属なんですよ。
「もう素材は気にしないことに……、いえ! やっぱり気になるのよ!? この宝石、どこから持ってきたの!?」
「ドラゴンの巣穴から巣材になってたのもらってきた」
「聞かなきゃよかった!」
答えたら、ガバッと頭を抱えてクッションに埋もれたハウロン。
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