第620話 風の吹き荒れる地

 パウロルおじいちゃんの講義を受け、本を借りて『家』に帰る。


 色々聞いたけど、今回必要なことだけ拾いだすと、滅びの国の幽霊は消せない。まず絡み付いてる『王の枝』の黒いのをなんとかしないと、浄化とか昇華とか個別では無理だということ。


 『王の枝』があるのって、一般的には城か神殿の中心とか奥とかだよね。俺は石を拾えればいいんで、そんな中心部までいくつもりないから。


 で、光属性や火属性系、風属性や水属性の中でも清々しい系だと一時的に引かせることはできる。


 この辺りを使った、魔法陣の作り方の載った本も貸してもらった。というか、この本、著者がパウロルおじいちゃんのようです。


 精霊が見えないので、過去の膨大な資料を読み漁って構築したそうで、一応望んだ効果は得られた――ただし、本当に意図したように精霊が動いてくれた結果なのかは自信がないそうです。


 あちこちの神殿で神官が使っている術式もあるそうで、「信頼できるものです!」とオルランドくんが力説。


 得られる結果は心配ないようだ。パウロルおじいちゃん、精霊が見えないからね、自信がないのは、想定よりも精霊に無理させていたらとか、精霊受けの方だと思う。


 それにしても、過不足なく俺が今必要としてることを教えてくれるってすごいよね。選び出してくれた本だけでも10冊もあるのに。なんで消せないかとか、突っ込んでいくとどんどん複雑で難しくなってくんだろうけど。


 数日は借りてきた本を読み、山の手入れをし、リシュをなでて綱の引っ張りっこで遊び、ブラッシングして過ごす。


 パウロルおじいちゃんの系統は主に光と風のようだ。アノマの神殿は光の精霊信仰だし、中原は未だ風の精霊の影響が残っているので、資料もそれらが多かったんだろう。


 本人自体は長年光の精霊に仕えていただけあって、光の影響を持ってるけど、元々がどれかの属性に傾いてるってことはない。ざぶとんがそばにいるから、光属性系の方が色々使いやすいと思う。


 さて。


 パウロルおじいちゃんの魔法陣を基礎に使うなら、精霊に入ってもらうドームも光か風と相性がいいものがいいよね。


 光の精霊はよくわからないというか、満遍なくいるけど、満遍なくいるせいで大物は逆にどこにいるのやら。白夜の精霊とかいるけど、夜も孕んでるしね。


 風の精霊ならドラゴンのいるとこ。吠える風の精霊や狂う風の精霊、絶叫する風の精霊がいて、魔物化したドラゴンの魔石は真っ黒だったけど、魔物の魔石っていろんな色あるから、透明なのもあると思うんだよね。


 水晶とかの鉱脈があれば一番手軽なんだけど、あんなところで採掘してる人いないだろうし……まあでも、地の精霊にあるかないか探してもらう手もある。とりあえず風の精霊が強いとこで探すってことで。


 と言うわけでやってまいりましたドラゴンの闊歩する地。飛んでるのは普通のドラゴンが大半なので、地上をのしのししてるやつ狙いです。


 風の精霊は魔物になると離れてっちゃうのかな? 風の精霊の助力で飛んでるから、離れてしまうと飛べなくなってしまうんだと思う。ただ、風の精霊ごと魔物化したのもいるんで、絶対じゃないけど。


 ……まじまじと見ると、のしのししてる恐竜みたいなのは、地の精霊とか岩の精霊の方が強いな? 地上にいる魔物が狙うのは地上にいるものが対象になるんだろうし、偏るのは仕方がないのかな?


 どっかにまたドラゴン落ちてないかと、うろうろする俺。急風の精霊やら驚風の精霊がいるんで、突風注意。


 せっせと名付けてあたりを弱くしてるんだけど、風は吹き荒れ吹き過ぎて、同じ精霊が周囲にいるってことがない。風の勢いが強すぎるんですよ、ここ。


 しょうがないので海に入るのと同じように、周囲に球体の大気の守りを作ってもらう。強い風も表面を撫でて吹き過ぎ、中にいる俺に影響を与えることはない。


 時々、大気の精霊が風の精霊に引っ張られて吹き過ぎていったり、逆に球体の表面に風の精霊がまとわりついて、大気の精霊を助けてたりする。


 うろうろしてたら風の精霊がやってきて、しきりに俺の気を引く。


 なんだろ? 以前来た時に名付けた精霊でもなさそうだけど? ついてけばいいのかな?


 この辺にいるやる気溢れる風の精霊と比べれば、穏やかな精霊。周囲のドラゴンやらドラゴンの魔物に注意しながら進む。


 倒せるとは思うんだけど、質量があって大きな肉食獣ってこっちに来る前の記憶というか、印象というかで、ちょっと怖く感じる。精霊よりなら大きくっても平気なんだけど。


 風の精霊は大きな岩山の裂け目に入っていく。明るいところから暗いところ、少し目が眩むような感じはしたけど、すぐに見えるようになる。


 見えるようになったところでビリビリと空気がゆれる。ドラゴンの咆哮、その後も鳥が騒ぐようなライオンが吠えるようなでかい音が続く。


 奥に進むとちょっと湿気った感じ、火の精霊の気配も少々。足元には何か大きなものが通った跡。これ足跡の上を尻尾が通った感じ? ドラゴンの巣なのかな? 


 ――でも左右の壁に割れや崩れ。これは新しそう。


 そして通路の先に突起が並んだ短い尻尾。声からするとドラゴンの魔物がたぶんドラゴンと戦ってるのかこれ? 


 おそらくこの先が広くなってて巣なんだよね? デカ過ぎて通路が詰まってて見えないけど。

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