第615話 アミジンの進捗
子供たちにやる気をもらったその足で行くのは間違っていた。【転移】があるからと気楽に考えすぎ、反省反省。
次はちゃんと準備して行こう。
ところで一番幽霊が弱りそうな、朝日の時間帯を選んで行ったんだけど、あそこ日中も暗いんで関係なかった。24時間丸ごと幽霊の国って感じだった。
あそこの幽霊のいいところは、どうやら島の外には出られないってこと。逃げてからも憑いて来てるんじゃ? ってドキドキしなくて済む。
さて。3時にはソレイユと会って、お茶をしながら打ち合わせする予定なんだけど、昼食べてないや。どうしよう、時間が微妙だ。
今までは行った先で風景見ながらお弁当食べてたのに、さすがにあそこじゃのんびりする気になれなかった。
お弁当はまた外出した時食べるとして、お茶漬でも食べとこうかな。鮭焼くの面倒だし、簡単に。
ご飯に刻んだたくあんと大葉、塩昆布、胡麻。――後でアラレを作ってみよう。これに温かい出し汁をかけてさらさらと。
出汁と程よい塩味、荒めに刻んだたくあんは、さらさらいくのを邪魔しないけど、いいアクセント。
ちょっと食べたりないけれど、腹ふさぎにはなった。あとは時間までちょっとダラダラしよう、朝っぱらから心臓に運動させたから、ちょっと落ち着かせないと。
ソファに寝転がって、本を読む。ナルアディードと北の大地で出回ってる伝承やら伝説の書かれた本の読み比べ。伝わるうちに内容がどう変わったかとか、変わった理由は何かとか。
中原の文化の中心地で手に入る本とも比べてみたいんだけど、中心地が勇者召喚の国なもんだから、近づきたくない問題。
ソファの座面はベッドより低いので、床にぺたんと伏せてあぐあぐと綱噛んでるリシュが近い。
片手で本を支えて、もう片手でリシュを撫でる。うちのリシュの頭の毛はぽわぽわ。
落ち着いた時間を過ごして、ソレイユと会って真面目な話。
ソレイユの執務机の上にはアミジンの土地の地図と、復活した城塞の間取り図。どっちも精巧。
資料を適切なタイミングで広げるファラミアは、ソレイユの斜め後ろが定位置。アウロは俺の横より、キールは防衛関係の話の時は身を乗り出してくる。
アミジンにもアフン防犯設置の要望。この島にもどんどん増えてて、足の踏み場に困ることがあるんですが? あとで他の音にできないか、パウロルお爺さんに相談しよう。
「――では、アミジンで栽培するのはこの3種類を中心に。アミジンの民たちとの関わり方は、定住を希望する者は受け入れて、作物を育ててもらいます。遊牧を選んだアミジンの民たちからも、ニイ様の役に立ちたいと重ねて申し出を受けてるわ」
ソレイユが続ける。
土地の契約の時に、アミジンの女神様出て来ちゃったしな。頼んだ塗料になるベリーは――というか、獣脂を混ぜた塗料自体をアミジンの民たちが用意して、あの女神の洞窟の絵や模様は鮮やかになぞられ、描き足されているらしい。
ただ、女神の石柱に触れるのは女神の言ったように夏至の日に限ることにしたようで、石柱の模様は手付かずだそうだ。
民の中から何人か選んで、夏至の祭りで鈴の音を響かせながら、その人たちに石柱の模様をなぞらせる予定らしい。選ばれた人たちは、夏至の日まで魔力を高める何かをして過ごすそうだ。
コカの葉とか大麻とかそっち系じゃないよね? トリップ系シャーマンは勘弁して欲しい。
「あそこの女神は豊穣を司ってるし、祀ってくれてるだけで十分役に立ってくれてるけど」
ただ、精霊頼みだけで進むといろんな意味で崩壊する。
その辺は現実主義というか現金主義というかのソレイユが、色々環境を整えてくれそうだけど。ファンタジーに
「女神の復活は偶然かもしれないけれど、契約で分割した土地に出入りを許可したことに大分感謝しているの。アミジンの民は織物が得意なんで、放牧を選んだ民には織物をお願いすることにしたわ。その前にまず、旱魃で減らした羊の数を増やすところからね」
うきうきと楽しそうなソレイユ、むちゃくちゃ忙しそうなのに元気だ。
アミジンの織物は羊毛、島の青い布とはまた違う。平織の丈夫な布で、絨毯とは異なり、毛足はない。鮮やかで細かい模様なんだけど、集落や家単位で受け継がれてる模様がある。
模様は模様でもモチーフには意味があって、言葉だ。だって働き者の【言語】さんが働いて読めるんだもん。模様は綺麗なんだけど、油断すると経文みたいに見えるんですよね……。困る。
「だいたいこんなとこかな? まだ旱魃の影響が残ってて土地が弱ってる。周囲より回復は早いだろうけど、野菜と果樹を育てるのは無理せずゆっくりで」
タリアとかマリナで畑がダメで、一時的に他の仕事を探している人も多く、そういう人たちを雇って人海戦術して、住居だとかインフラだとかはすでに整いつつあるそうだ。
早すぎてびっくりなんだけどって言ったら、いきなり城塞が復活するより遅いから……って目を逸らされた。
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