第614話 チャレンジ中

 はい。


 滅びの国に頑張りに来ました。


 ダメです。


 レイスとかいるんだと思ってたんですよ。レイスは幽霊だけど、そうじゃなくってゲーム的なこう……。黒精霊の大きなのかなって考えてたんですよ。物理はダメだけど、魔法はきくのかな、って。


 ガチで幽霊じゃねぇか!!!!


 虚ろな目に透ける体、抉られた黒い眼窩に床を這う体。音も立てず壁を抜けて暗がりを近づいてくるモノ、ズルズルとかぴちゃぴちゃとか小さいくせにやたら耳に届く音をさせて近づいてくるモノ。


 船乗りの国、クリスドラムは完全に幽霊王国になっている。石造りの建造物はほとんどがどこか崩れて、濃い霧の中にある。青白い影に包まれたような崩れた都市。


 精霊図書館で昔の地図を見つけて、過去に首都だったっぽいところに来た。他の町やらは場所が曖昧だけど、首都は島に切れ込みが入ったみたいな湾の先、そこから大きな川を少し遡ったところにあって、位置が分かりやすかったんで。


 昔とは島の形自体少し変わってるみたい。俺の持ってる地図では滅びの国って西側の一部しか詳しく出ないから、昔の地図と全体は比べられてないけどね。


 湾に近いとこにも幽霊っぽいのはいたんですよ。でもそいつらは彷徨ってるだけな感じで、ああいるなって。黒精霊やら何やらで、ちょっとファンタジーな存在に慣れてたんで話はなんとなく聞いてたし、そんなに驚かなかったんだよね。


 でも、その姿で向かってこられるとどうしていいかわからない。勢いよく襲ってくるなら俺も勢いで返すんだけど。


 よく見ると幽霊達には黒精霊が憑いている。魔の森の黒精霊がさっさと体に入り込んで、少しずつ乗っ取ってくのとはまた違う。


 ここの黒精霊はむしろ幽霊たちより質感がある。ねっとりとした密度の濃いモノが絡み付いている。


 ――体がないゆうれい相手だと外から飲み込んでくの?


 これはひっぺがしたら手にくっつきそうだ。幽霊ごと従えるのもイヤすぎる。魔の森の黒精霊は恨みやら痛みやら悲しみやらが感じられたけれど、これは無機質でどろりとした何かだ。


 ちなみにここも『王の枝』のもと繁栄、『王の枝』への誓いを違えて一夜にして崩壊した国だそうです。


 怖い、怖いぞ『王の枝』!


 ここの黒精霊をくだして使うのは嫌だし、かといってここで精霊に頼み事した日には、黒精霊=幽霊たちが精霊を取り込もうと集まってくる。


 『旅人の石』集めは娯楽なんですけど……っ! いやでも、娯楽だからこそ真剣に……っ!


 探し物とかの目標があった方が世界を見て回れると思ったんですよ! 実際、『旅人の石』のことがなかったら、好んでこんなところ来ない!


 『青光石せいこうせき』どこ……っ!


 ……逃げ帰って来ました。


 あれです、『青光石』は使用目的的に多分造船所があった場所とか、船が沈んでそうなとこにあるんじゃないかなと思う。


 滅びの国の周囲の海って、真っ黒いんだけど、それ黒精霊なんだよね。海の中でなんか揺れてて、昆布かワカメかと思ったら、ヘドロのように海底に溜まった黒精霊から腕みたいなのが何本も伸びて揺れてた。


 無理!


 で、考えた結果、城の宝物庫に行ってみようかと。それでダメなら、クリスドラムの船乗り達の主な航海ルートを調べて、なるべく離れたとこの海底を調べようかなって。


 でもそれは逃げてる気がするので、とりあえず宝物庫チャレンジする! 


 そういうわけでまずは準備。一応精霊の直接的な手助けがなくても契約精霊がたくさんいるおかげで自力で魔法が使えるんだけど。「魔法」が使えるというか、その事象が起こせるというか。うん、精霊が魔法を起こすのと同じことができる。


 でもそれは内緒というか、最終手段というか、レッツェたちに心配かけるし、多分ハウロンが倒れるし、ちゃんと人間らしく準備するよ!


 まずは手を貸してもらう精霊の安全確保。持ち歩きやすいもので、精霊の居心地が良さそうな――ああ、これでいいか。


 目に入ったのはランタン。『精霊灯』は寝床にするくらい居心地がいいようだし、基本の形はランタンでいこう。


 まずはガラス部分かな? 球形は精霊が好むけど、呼び込むのに魔法陣を使っている。球形のガラスじゃなくって、丸い宝石がいいのかな? 何の細工もしなくても精霊が住み着く確率が高いし、居心地がいいはず。


 ガラスより固いものも多いし。ということは、まずは拳大くらいの宝石を手に入れるところからか。水晶とかでもいいかな。


 とりあえず砂漠か海で、持ち主のいない大きめの宝石拾って来るところからだな? 採掘行ってもいいけど。

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