第598話 ハウロンの精霊

 ハウロンの周囲には精霊が4体いる。


 華やかな花弁みたいな髪を持つ火の精霊、名前はファンドール。活発で少し悪戯好き、好奇心旺盛。


 青い衣の精霊は深い森の青い泉の精霊、名前はトリス。声も音も持たない、静かな精霊。


 赤い帽子に土色の肌を持つ小人の精霊は大地の精霊、名前はツォルキオン。地中にある財宝を見つけ出したり、溜め込んだりすることが大好き。


 風にそよぎ風に乗る布の姿をした精霊、名前はエギマ。どう見ても一反木綿だけどね。割と強い精霊なんだけど、性格なのかファンドールに踏まれながらもよく働いている。


 状況に応じて、周囲の精霊と一時的な契約をすることもあるし、小さいのはもっと使役しているけど、ずっとそばにいるのはこの4体。


 今もファンドールは先行して周囲を探っているし、一反木綿はハウロンに半分巻きついて、鉱山の穴をゆっくり落ちている。


「梯子は掛けるしかないけれど、傷んだ空気は入ってないようね」


 ハウロンが言う。傷んだ空気って、有毒ガスとか二酸化炭素とかそんなの? その辺はファンドールが見てるのかな? カナリアじゃなくってよかった。


 底につくと今度は横穴。飛び跳ねるようにツォルキオンがキョロキョロと当たりを見ながら進む。


「使われなくなった鉱山って、もう石がないんじゃないの?」

採れるなら稼働してる気がするんだけど。


「ここは一度、季節外れの、それも大嵐で水没したらしいのよ」

「あー」

完全に地面に空いた穴だもんね。


「採掘量が期待できるなら、水が入らないよう囲って屋根をかけることにするわ」

「それがいいと思います」

穴に入ってる間にどばんと水没なんて嫌だ。


「なんで石が積んであるの? わざとだよね?」

ここにくるまでの間、いくつかの枝道が石を積んで半分塞がれていた。


「掘っても出なかった方とか、もう採り尽くしてしまった方の通路ね。積んであればわざわざ行かないでしょ、迷子防止よ」

「なるほど」

わざわざ迷子になるような道、そのままにはしておかないよね。


 俺たちにはライトがあるけど、カンテラとかもっと暗い状態で採掘してたかもしれないし。


 しかもなかなか暑くて、快適とは程遠い。穴の圧迫感もあるし、崩れたらどうしようもあるし、肉体的にも精神的にも過酷だ。俺とハウロンは精霊にお願いしてずるしてるから平気だけど。


 行き止まりらしい壁の手前でツォルキオンが小躍りしている。


「見つけたみたいね」

ハウロンが言う。


 近づいて目を凝らすと、石壁の一部が色が違うような、そうでないような? ちょっと石の肌質が違うのかな?


「石の精霊の通り道ね。この通り道の中に宝石があるの。だから最初はこの道を見つけるのよ」

ハウロンがそう言いながら、指でその道をなぞる。


 赤い帽子のツォルキオンが出番とばかりに小さなツルハシを持って、岩壁を崩す。他のところより柔らかいのかな?


『大昔に道ができたのよ〜』

『ごごごごって揺れたのよ〜』

『道ができたから下から来てみたのよ〜』


 断層とか褶曲でできた隙間に、もっと深いところから他の物質が流れ込んできた感じ?


「あらこれ、旅人の石じゃないわね。青いけど――青玉サファイアかしら?」

ツォルキオンが掘り出したものから付着物を払い、ライトに透かすハウロン。


「どれどれ」

ずるして【鑑定】しよう、宝石といえば【鑑定】だよね。


 鑑定結果:ゾイサイト


「……」

【鑑定】したからといって、何なのかわかるわけじゃないんだな。困る。


「綺麗だし、いいのでは?」

「そうね、目的のものではないけど。いいわね、後で調べましょう」


 そしてまた坑道内をうろうろ。旅人の石、どこ!?


 で、結局新しく掘りました。ツォルキオンがこっちだと言う方に向かって、ついでにここの地の精霊にもナビを頼んで。


『はい、お願いします。ここからさらに60cm』

『こっちー、崩れるぞ〜』

『僕も崩れるよ〜』

『今日から僕は土の精霊〜』

『僕は砂礫の精霊〜』

『崩れないところは丈夫でいてね』

『は〜い、動かないよ〜』


「まあ、そうね。便利よね、埃も立たないし」

「ハウロンの小人だって掘ってるじゃないか」

「普通、岩の精霊は頑固でこんなに言うこと聞かないの。ツォルキオンが交渉しても、手を加えても、こんなに簡単に掘れないわ。というか掘ってるというより、崩れてるわよね?」


 姿が変わって他の精霊になってますね。


「この場所、色々な石系の精霊がいるな」

話題は変えておこう。


 進んだ先、出てきたのは不揃いで小さな柱が折り重なったような青い石。一緒に水晶。


「これ?」

「そう。この旅人の石は割れやすくって、円環に加工するのは難しいのよ。形にもよるけど、このままで売るのと加工した後では、金額に恐ろしいほどの差が出るわ」

「へえ」

一塊を手に取って眺める。


 深い青だけど、透明度は低い。いや、透明度が高いのもあるっぽいけど、エシャの民が見せてくれた旅人の石は、手の中の石と同じくほとんど不透明だった。


「この石は、円環にすると精霊が宿るとか、中の石の精霊が起きると言われるのよ。ジーンのおかげで、これからは円環に欠けがあった方がむしろ喜ばれるかもしれないけれど」


 こっちの世界、綺麗な宝石ももちろん人気だけど、何か精霊の謂れがある石はまた格別。


 でもエス川を遡って、歩いて、まず梯子をかけて。先は長そう。


「まず、風の精霊持ちと地の精霊持ちを探すところからよね。できれば涼風の精霊がいいけれど……」

ハウロンが顎に手をやって悩む仕草。


 ――精霊のいる世界の準備!!!!

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