第599話 発展に向けて
「精霊が憑いてる人ってそんなにいる?」
「ずっとそばにいるのは珍しいわね。でも、精霊が興味を持って近づいてくる人間っていうのはもう少し多いわ。人間が指示できるわけでもないけど、精霊はいるだけでその周囲に影響を与えるから――まあ、人間じゃなくたって、いいんだけど」
自発的に風の精霊が寄ってくるようなものなら、と半分考えに沈むような感じで続ける。
たぶん、風の精霊や地の精霊が好むような『モノ』を考えてるんだろう。
風の精霊が好むのは、木々の枝、水の飛沫、雲――特に積乱雲は大好き。
風の精霊が好むモノは、あんまり
地の精霊はいるけど、こっちはこっちで坑道内にいるのは頑固なくせに一度テンションがあがると一気に反対に振れて崩れる。もう少し、人間の事情を知っているか、穏やかな精霊を呼びたいんだろう。
俺がやっちゃ多分ダメ。だって、坑道は増えるんだろうし、俺がずっといるわけじゃない。精霊に『ずっと』をお願いしたら、その『ずっと』の間にその願いに縛られて変質してしまう。
変質と言っても石が砂になるとかじゃなくて、願いに拘って自由を失ってしまう感じ? 本来、ひと所から動かないのも、気ままにどこかに行くのも精霊のあり方で好みで自由。
俺が『ずっと』を意識しないで頼めばいいんだけど、今考えちゃったんでアウト! うっかり俺の力が強くなりすぎてて、小さな精霊に期限のない願い事をするとずっと縛り付けてしまう。
かといって条件を事細かに設定するのもそれはそれで自由な精霊にはきつい。中には細かい方が好きって精霊もいるけど、まあそれはそれが好きだって自由だしな。
一時的な願いとか、俺が意識しない願いなら、エクス棒がいい具合に効果を発揮してくれるんだけど。
なんというか、忖度で適当に魔力を持っていって、動いてくれるくらいがちょうどいいのかもしれないって思っている今日このごろ。
俺のやらかしになるけどね!! 正直に現状を白状したら、みんなに嫌がられそう。
それに――
「『精霊の雫』とはいかないまでも、魔石をいくつか置きたいところよね」
俺が考えてる間に結論が出たらしいハウロン。
「いる?」
「アタシだって持ってるわよ」
大賢者のポケットにもあった。
「魔石は
それに全部一人でやるのは違う。
「ところで、さっきからこの霧は何なのかしら? アタシの魔力をトリスが使ってるのだけれど?」
「ここ、暑いからな」
ハウロンが半眼でこっちを見てくるが、目を合わせない。
ミストシャワーで助かってます。
外に出て、伸びをする。青い衣の精霊トリスは今も静かにハウロンのそばに浮かんでいる。ハウロンが魔石を割って魔力を補充してるけど、気のせいです。
前にファンドールで同じことをやっているからか、諦めが早い大賢者。あと多分、ハウロン自身も快適だったから文句言えなかったんだな? さては。
「ここで魔石って、どこで仕入れるんだ?」
「エス経由か、直接ナルアディードか。狩りも併用したいけれど、まだ冒険者や何人も騎士を抱えるほどの国力ではないのよね」
カーンとハウロンがスカウトしてきた人たちは、いざとなったら自分で抵抗ができるくらいには逞しい人たちが多い。だけど、戦いや狩りを本職にしている人たちじゃない。
文官だったり、町の造成に詳しいとか、職人だとか、その家族だとかが多くて、どこかの国の騎士を辞めた人も何人かいるみたいだけど、そっちは国の防衛面に組み込まれてて、魔物狩りには回せないみたい。
「人手も足りないし、まだまだね。ティルドナイ王も、この鉱山を今すぐ活用したいわけではなくて、それを見据えて準備しろということでしょうね」
ハウロンの休息だったはずなのに、カーンはなかなか人使いが荒いな。
また魔法の絨毯に乗って移動。町から鉱山への移動をどうするかとかの下見を兼ねてるから、【転移】は使わない。
そしてごはん。
野菜たっぷりのタコス。
フライドガーリックとフライドオニオンを入れた鶏肉のピリ辛チャーハンを鶏肉多めで作って、ハードシェルのトルティーヤに包んだやつ。
飲み物はビールにライムを絞ったやつ。
「あら、美味しい。具も好みの味だけど、この包んでるのいいわね」
ハウロン、結構スパイシーなもの好きなんだよね。
口に残ったサルサの甘味と辛味、ピリ辛チャーハンのガーリックと辛味をビールで流す。炭酸とライムの爽やかさがここちいい。
「町はティルドナイ王が砂漠から呼び戻し、ジーンが環境を整えてくれたわ。国民はまだまだ手探りだけれど、生きているうちに国の体裁ができたんだもの。ちゃんと発展させて見せるわね」
嬉しそうに笑いながら言うハウロン。きっと発展させるのも楽しいんだろう。苦労が形になるのはいいよね、俺も島が整備されてくの楽しいし。
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