第597話 ハウロンの短い休息
カーンの国の建国のお祭りから数日。
あの時初めて会った神々が帰るタイミングで、俺の魔力が持っていかれて契約状態になったとか、わんわんが俺に預けた骨を所望して、ハウスにハウスしたとか、エスの水が神殿に流れっぱなしでもう帰る気はなさそうなこととか、猫船長が猫のフリして侵入してきたり、子供たちと一緒にディノッソを迎えに来たシヴァをナンパしようとしたアサスが締められたり、黄金の野菜と果物がどんぶらこっこしてるのに気づいたソレイユが駆け込んできて、ナンパしようとしたアサスが締められたり、ソレイユの後ろで控えていたファラミアを見て、まだなにも言葉を発していないアサスが締められたり、色々あった。
うん、色々あった。
――アッシュにも声かけてもよかったんじゃない? いや、よくないけど。
祭り後は数日だらだら過ごし、畑と山の手入れに勤しんだ。なんか俺じゃなくってカーンの目標だったけど、一区切りついたって気が抜けた感じ。
国を造って終わりじゃなくって、これからも大変だろうけど、初めてやる王様稼業じゃないし、ハウロンもいるし大丈夫。カヌムに来ることが減るだろうから寂しいけど。
とか思ってたらハウロンからお誘いがあった。
「旅人の石を国民の守り石にしようと思っているのよ。それと特産品ね」
カヌムの貸家、いつもの席でハウロンが言う。
「透明なやつ? 青いやつ?」
「エシャが持っていた青いやつよ。旅人の石が精霊を呼んで、その導きで祖国に還れたってすでに国民に話が広がってるわ」
いつの間にか精霊にされてる!? まあ、エシャの住む山の中を尋ねた時、かなり怪しい風貌だったことは認めるけど。怪しい風貌というか、数日歩いてきたにしては綺麗な格好というか。
「採れる場所はティルドナイ王がご存知だったの。今から下見に行くから、暇だったら一緒にどうかと思って。旅人の石について、調べているのでしょう?」
「調べてるってほどじゃないけど、行く、行く」
そういうことになって、再びの竜の大陸。カーンの国からさらに南東。
「……ジャングル通るの?」
嫌なんですけど。
「その手前ね」
よかった。
ハウロンの魔法の絨毯で夜の砂漠を移動中。高いところにある小さな月が、あたりを白く照らしてる。風はあるが、微風で砂を巻き上げることなく風紋を刻んでゆく。
「呼べば白い巨人が現れて、高速移動してくれそう」
「もうちょっと雰囲気あること言えないの? なによ、高速移動って」
別にゆっくりな移動に文句があるわけじゃないのだけど、ついジェットスキーみたいに移動する精霊を思い出した。
採掘人を連れて来る時は、なるべくエス川に沿って移動することになるんだろうけど、カーンの国から砂漠を最短斜め移動中。絨毯の上にはお菓子とお茶。
「そういえば、大きな絨毯は修理はダメそう?」
絨毯が二人乗りなんで、ハウロンと二人だ。
ハウロンは水煙草を吸いながら座っているし、俺も足を絨毯の外にぶらぶらさせて寝転がりながら月を見ている。狭いとはいえ詰めればあと2、3人座れるけど重さがダメ。
今乗ってる物の他に、大人数用の空飛ぶ絨毯もあったけど、焦げちゃったって聞いている。
「ダメねぇ。今の人たちって魔力も根気も少なくって、魔力を込めながら細密な模様を織り出すってことが難しいのよ。腕だけなら、この絨毯を織り上げた者の後継がいるんだけれど」
魔力もないし精霊が見えないのよねぇ、とハウロン。
たわいない話をしながら鉱山に向かう。たぶん、今までずっと忙しかったハウロンの短い休憩時間。カーンもそのつもりで送り出したんじゃないかと思うので、場所を知らないことを理由に【転移】は使わず絨毯に同乗している。
菓子を摘んだり、ボードゲームをしたり、月を眺めたり。何も考えずのんびり絨毯に任せて夜の砂漠をいく。
砂の砂漠が終わり、ひび割れた地面の砂漠に変わる。そのうち丈の低い細い木々も見えてきてだんだん密生し始めた。ジャングルよりはちゃんと幹も枝も張っている。
鉱山っていうから岩山を想像してた。山って高いじゃん? 着いたところはなんか低いというか、台地? 山なの? 平じゃないから山? 遠くに高い山は見えるけど、ここはそう高くない。
そして日本のように木が生い茂ってないせいか、いまいち山って感じがしない。
「ここみたいね」
そして地面にあいた穴。
横じゃない、縦穴。壁はすぐ岩、どうもこの山全体が岩のようで、大きな木々が生えていない理由も岩の上にある土がとても薄いからのようだ。これじゃ根は張れない。
どうやって掘ったんだろう? と一瞬思ったけど、魔法もあれば精霊もいる世界だった。狭い穴は底が見えない、雨が降ったら水で埋まりそうだし、岩山とはいえ地震が来たら崩れそう。こっち雨も地震もほとんどないけど。
ライトの魔法を一つ落とした後、ハウロンが一反木綿に支えられながら宙に浮いてゆっくり降りてゆく。【転移】を持ってなかったら入らなかったなあ、と思いつつハウロンの後に続く俺。
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