第596話 お祝いはいいものだ
宴会である。
さっきの料理をもう一回出して、人数が増えたのでさらに追加する。エス川流域でとれたもので作った料理という条件がね。
エス、ネネトとスコスは来るんじゃないかと思ってたからあるし、多めに作ってはいるんだけど、さすがに見知らぬ神クラスの精霊たちの参加は想定してなかった。飛び入りにしても、小さい精霊が周りを飛び回ってるとかそんなイメージだったんだけど。
葡萄の若葉でピラフを巻いたやつ、干しそら豆と玉ねぎをハーブを混ぜてすりつぶして衣なしで揚げたもの。ナスのマリネ、スライスした各種野菜、レンズ豆のスープ。
メインに
見た目皮の厚い揚げ餃子みたいなお菓子。パンケーキのような生地にナッツやココナッツ、クリームを包んで揚げて、さらに甘いシロップに浸したやつ。これでもかってほど甘くって、ちょっと出すのに躊躇うほどだけど、エス周辺では人気のお菓子。
野菜を細かく刻んだ料理。エスは薪になるようなものが少ないせいか、火が早く通る料理が多い、それをさらにペーストにしたり。で、平たいパンを半分とか4分の1にしたのに詰めたりつけたりして食べるのが庶民の味。
あれです、作ってはみたものの自分ではちょっと食べない料理も大放出です。俺、スパイスもハーブもそんなにいらないし、こっちの菓子は甘すぎるんですよ!!!
こっちで働く人の体調とか気候にはあった食べ物なのだろうけど。いや、その前に精霊だしね、塩をそのまま食べるのに比べたら、ちゃんと料理な分だけ健康的なんでよしとする!
とりあえず人間組にも、スモークサーモンとチーズのあまり甘くないマフィン、洋梨のキャラメルマフィン、肉料理を追加。
そして俺が食べたくなった麻婆豆腐混入。カレー共々スパイシーな食べ物ですよ!
「器用なものよの」
「食い物からエスの香りがする……」
アサス、言い方!!!!
「わんわんも今日は骨でなく、肉でもなく、料理を食べるぞ」
キツめの顔した美青年にわんわんって言われると微妙な気分になる。エスたちみたいに我れとか言ってくれていいんだぞ? というか、こんな長い時間人型をとれたんだな。ごめんね、骨なんか出して。
「建国おめでとう!」
周囲の精霊たちも落ち着かない雰囲気で、お祝いより先に食べ始めそうだったので慌ててグラスを持ち上げる。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「寿ぎを! だね!」
「お祝い申し上げる」
「おめでとうございます」
「おめでとう」
「ほほ、改めて言葉で祝福しよう」
「祝福を」
「祝福を」
「めでたや」
「めでたいのう」
エスの言葉にアサスとわんわんが続き、次々に神々が祝いをする。それは言葉だったり、音だったり、光だったりするんだけど、みんなお祝いしてくれてる様子はなんとなく伝わってくる。
グラスを上げ、祝いの酒を飲む。
「感謝する。想定よりも早く、そしてつつがなくこの日を迎えることができた。――この国にいる10人に1人が神というような状態で、この日を迎えるとは思わなかったが」
さっさと食べ始めた神々をうかがいながら、カーンが言う。
「……」
ハウロンは笑顔を貼り付けて、神々にお酌をして回っている。
エス川の辺りでピクニックというか、エスたちと食べた時もハウロンはお酌してた気がする。ほっといても自分で飲むと思うけど、まあ、顔繋ぎ的なものなのだろう。
面白がってハウロンの後を真似してお酌しながらついて歩いてる精霊がいるけど、ハウロンは気づいてないっぽい。
「なんつーか、後ろを神クラスの精霊にぞろぞろされるっての、どういう気分なんだろうな……」
ディノッソがハウロンを眺めながらワインを飲む。
「全力で見ないふりをされておりますな」
目を細めてハウロンを見る執事。
「こっちも不思議現象が起こってるよ! すごいね!」
「なんか耳元で綺麗な音楽が聞こえる! すげー!!」
クリスとディーンが喜んでいる。
不思議現象は、人に見えないタイプの精霊が酒器を取り、酒注ぎ、上から料理を囲み、次々に食べているから。クリスから見ると、空中に浮かんだグラスが踊って、食べ物が浮かんだと思ったら消えてく感じ?
ディーンの言う音楽は、人の言語ではない精霊たちの言葉だろう。
「ノートも見ないふりをしてるんだと思うぜ?」
はしゃいでいるクリスとディーンにレッツェがボソリと言う。
「美しくも祝いにふさわしい陽気な光景ではないか? 見ずに済ますのはもったいない」
アッシュがゆっくりとグラスを傾け、微かな笑顔を浮かべる。
怖い顔じゃなくってちゃんと笑顔。いいもの見た。
篝火をゆらめく水が柔らかく映している。食事をしない小さな精霊たちが、ソレイユの用意した水に浮かぶ花に戯れ、水に潜り、水面で遊ぶ淡い光が見える。
困ったような顔をしているハウロンも機嫌は良さそうだし、カーンも黙ってワインを飲んでるけど口角は上がってる。
お祝いっていいね。
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