第594話 犬も食わない
「俺には難易度が高いです、先生」
こっちに気づいたハウロンが視線で助けを求めてくる。だがしかし、俺はノープラン!
「先生って誰?」
隣のディノッソが突っ込んでくる。
「この場合は恋愛経験が豊富な人?」
ディーンだろうか? いや妻帯者のディノッソなんでは?
「俺は夫婦円満なんで修羅場なんかない」
顔を見たら嫌そうな声で言われた。
「王狼の場合は、どちらかといえばシヴァを追いかけていた側ですしね」
「要らん情報を挟むな!」
執事に抗議するディノッソ。
「か弱い人の身に神々の仲裁は荷が重いよ。三人の女神の美の争いを決着に導いた結果、国同士の戦争になった神話も伝わっているからね」
クリスが困った顔をする。
「三人のうち最も美しいと思った女神に、人間の男が黄金のリンゴを捧げることになった話だな」
ギリシア神話のパリスの審判とよく似た話だけれど、そこに浮いている黄金のリンゴを見ながら言うのやめてください、アッシュ。
「なんとかしてちょうだい。アナタあの三人と契約してるんでしょう?」
じりじり移動して、回り込んできたハウロンが言う。
「そういう意味でなら止められるけど、強権で止めても
「だろうな。あとで爆発するほうが怖いんじゃね?」
ディーンが同意してくれた。
「夫婦喧嘩は犬もくわねぇ。二人っきりにしときゃ、収まるところに収まるだろうよ」
レッツェが言う。
「なるほど」
わんわん回収しろってことだな?
「わんわん! ドラゴンの骨あげるから、ちょっとこっちで食べよう」
「む、今わんわんは忙しいのだが」
わんわんを呼ぶ俺。
「……骨でつるの……」
ハウロンがさっきまでとはまた別な弱り方をしている。
「そこは水浸しだし、俺たちはこっちでご飯食べるんだけど、一緒は嫌か?」
「む……。ジーンのそばは好きぞ」
エスの方を気にしながら、こっちに来るわんわん。
【収納】からタオルを出して、わんわんの水に濡れた足やら腹やらを拭く俺。カーンも足取り重く、中から出てくる。
「……精霊を拭くのよね」
ハウロンがまたつぶやいてる。
「旦那、扉頼む」
「この火を消しゃいいのか?」
エスとアサスを残して奥の部屋から出ると、レッツェが扉を閉めるよう頼む。
ディノッソがそばにあった、でかい
「そういえば」
「何?」
俺を見てくるレッツェに聞き返す。
「アサスに女が好きなのか、増える方が好きなのか、扉が閉まる前に聞いとけ」
「増える? ――えーと。アサス、アサスが好きなのは女の人? 増える方?」
意味がわからないまま、レッツェの言う通りに問いかける。
「我は豊穣の神、増える方に決まっておろう! 我は愛を振り撒き、受け入れた相手が増えることを無常の喜びとする!」
アサスがエスにぎりぎりと締め上げられながら、やけくそのように怒鳴り返してきた。
増える方なんだ!?
「アタシは増えないわよ!?」
ハウロンが目を剥く。
いや、俺に言われても。
「当たり前だ! 我が増やすのは穀物、緑、果実、木々、美しい女性たちだけだ! 増えぬ相手、唯一の例外は我の愛した我が妻エスのみ!」
扉が閉まる前、エスの赤くなった顔が見えた気がした。
「増えるというと、もしかしてダンゴムシとかもストライクゾーンなんだろうか……?」
「いや、植物だけだろ。『豊穣』の神なんだから」
半眼でレッツェが言う。
それを言ったら穀物だけじゃないの? 豊穣。近い言葉に【言語】さんが頑張ってるだけ?
微妙な気分になりながら、でもアサスの浮気性は解決しないけど、エスの表情からしてなんか解決はするんだろうなとも思いつつ、約束通りわんわんにドラゴンの骨を渡す。
ちゃんとわんわんの好み通り、肉が少しこびりついたやつ。ちなみにリシュは綺麗に洗って乾かしたやつの方が好きなんだけど、食べるというよりは齧る感触が好きなのかな? ドワーフにもらった綱の次くらいには気に入ってる。
「おお! この骨は食べでがあって好きぞ!」
わんわんが隣で骨を齧り始める。
「みんなも宴会料理食べ損ねたろうし、ここで宴会にしようか」
できたばかりの神殿内部であれだけど、綺麗に片付けできるので。
大きな絨毯を出す俺。
「へへ、食う、食う!」
ディーンが笑いながらどかりと床に座る。
「そうね、しばらく開けられないし。かといって、このまま外に出るのも微妙だし。お願いできるかしら。――ティルドナイ王、この度はご迷惑をおかけいたしました」
カーンに向き直って、口調を変えて頭を下げるハウロン。
「いや、神々に巻き込まれるのは天災のようなものだ。人の身である以上はどうすることもできん。従って謝罪は不要だ」
カーンが重々しく言う。
あの夫婦喧嘩を。物は言いようだな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます