第589話 合流

 これから宴会だから食事ってわけにもいかないし、とりあえず俺もお茶。


「あっちは忙しそうだったか?」

「ハウロンとソレイユは忙しそうだった。神殿の外に出てないから、他はわからないけど、カーンは地下神殿で朝から籠ってるって」

一日がかりの神事、らしい。


 ディノッソに分かるとこだけ答える。砂漠に埋もれた町の復活には立ち合ってるけど、ハウロンたちが選んで連れてきた人たちとは、俺はあんまり面識がない。それはここにいる全員そうなんだけど。


 でも、中にはディノッソやレッツェたちが紹介したというか、どこそこにこんな技能を持ったやつがいるとか、あの国のあれは人格者だとか、そういう情報をハウロンに流してたらしいので、俺よりよほどカーンたちの国造りに関わっている。


「お邪魔いたします」

「今晩は。良い日だな」

執事とアッシュが入ってきた。


「おう!」

ディーンが手を挙げて答える。


「クリスがまだだ、って戻ったようだな」

レッツェの言う通り、階段を上がる音がする。たぶん、仕事で使った荷物を置くか、着替えてくるのだろう。


「うむ。まだ少し早いようだが、ジーンが来た様子だったのでな」

相変わらずの無表情でアッシュが言う。


 眉間の皺は取れてきたけれど、表情があまり顔に出ないのは変わらず。それでもディノッソ家の子供たちには好かれていて、三人がかわるがわる挨拶の軽いハグをしに行く。


 【収納】からそっと椅子を出す俺。執事はきっと立ったままなんだろうけど、2人分。貸家の一階はさすがにぎゅうぎゅう。


「やあ! 私が一番最後かな?」

お茶を出そうか迷ったところでクリスが入って来た。


「揃った、揃った」

ディーンがお茶を一気に飲み干す。


 俺も慌てて飲んで、空のカップを【収納】。俺が出した以外の茶は、レッツェが回収して台所に下げてた。


「よし、じゃあ集まって〜」

全員集めて、砂漠の神殿に【転移】。


 元の約束の時間には少しだけ早いけど、迎えに行けと言ったのはハウロンなので問題ないはず。さっき地の民を連れて出た場所に、今度はカヌムのみんなを連れて現れる。


「ただいま。連れてきた」

神殿内はどうやら調整が終わったらしく、地の民もソレイユもいない。


 ライトの魔法が一つだけ浮いた暗い神殿で、ハウロンだけが感慨深げに台座のある数段高い場所に立ち、神殿内を眺めていた。


「相変わらず転移ってすげぇな。視界の変化に慣れないわ」

ディノッソ。


「いきなり暑い!」

ディーン、神殿の外はもっと暑いぞ。湿気がないから爽やかだけど。


「む。美しい」

アッシュが神殿内を見て呟く。


「お花!」

ティナはあちこちに飾られた花に反応。


 シャクヤク咲きの大ぶりの薔薇は青。青は濃いけれど、花びらが薄いからとても繊細に見える。カップ咲きの小ぶりな薔薇、あとは俺の知らない白と薄いピンクの花が水盆いっぱいに浮いている。


「うっわ! 金色! かっこいい!!!」

「カボチャ? すごいね金色!」

バクとエンは黄金の野菜と果物に釣られている。


 うん、果物よりどうしたってカボチャやらキュウリやらナスに目がいくよね。特にカボチャはでかいし。ナスはテカテカしてるし。


「うわー……。山盛り……容赦ねぇ」

ディノッソが盛られた野菜と果物を見て絶句する。


「聞いていたよりすごいわ。それにあの神座、ずいぶんと気配が……」

わんわんハウスを見たシヴァが、言葉を途中で途切れさせる。


「すごいことになってんな」

周囲を見回すレッツェ。


 溝に興味がおありですか? その溝はエスが来ることを想定しています。


「素晴らしいね! これから篝火を焚くのだろう? 幻想的に違いないよ!」

クリスが腕を広げて感動を表す。


「いきなり騒がしくなったわねぇ。――ええ。ティルドナイ王が神々をご案内するタイミングで、松明と篝火をつけるわ」

ハウロンが短い階段を降りてくる。


「おめでとう、よき日だな」

アッシュがハウロンに言う後ろで、その言葉に同意するように執事もハウロンに向かって軽く頭を下げた。


「ありがとう。でもその言葉はティルドナイ王へ。この日を待った王の日々は遥かに長いわ」

とても嬉しそうに笑うハウロン。


 建物を出て、神殿の広場でソレイユと地の民たち、この国の住人たちと合流。


「あ! あの時のお兄さん!」

「お?」

時々ハウロンと仕事をしている人くらいしか、見たことがある人はいないと思ってたのに声をかけられた。


 『旅人の石』を譲ってくれたエシャの男の子、その父親もいる。その周りの人たちも、服装がエシャの民のものだ。


「ハウロン様とお知り合いだったんだな。道理であんな山中に綺麗な格好でいる」

俺の後ろ、ハウロンの姿を視界に収めながら男の子の父親が声をかけてくる。


 服が山の中やら国の端やら長く歩いた後にしては綺麗なことは分かってたんだけど、こっちの長旅の服装って本気で垢じみてて南京虫とかいそうな雰囲気なので無理だったんだよ! 一応古着屋でそれっぽいのは漁ったんです。


「……」

曖昧ににっこり笑っておく俺。


 大丈夫、全ては大賢者のなせる技。俺も大賢者にエシャの民の元に派遣されたんです。


 あ、ちょっとレッツェさん。ほっぺたを無言で伸ばさないでください。

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