第588話 送迎
「うう。目の前に地の民がたくさんいるのに、全員物づくりをしているか、物に興味を持っている最中で、商談ができない……」
ソレイユがクッションに懐きながらメソメソしている。
「こんなに、こんなに様々な分野の地の民がいるのに……」
様々な分野?
そういえば木工好きな集落とか鉄製品が好きな集落とか、色々分かれているな? 土偶ちゃんの巨木やらドラゴン素材やら、素材の種類に頓着しないで地の民の中では一番付き合いがあったガムリのいる『黒鉄の竪穴』に持ち込んだせいで、あちこちから集まって来てるけど。
普通はそれぞれに頼みに行くんだろうか? なんか集落は全部地下道で繋がってるみたいだし、結局一つなんだと思うけど。
「ううう。この神殿、どうなっちゃうの? 地の民の作品であふれ、黄金の果物と野菜が捧げられ、本物の神々が常駐するの? 黄金の果物、一つでどれだけの魔法が展開できるのか。というか、この大きなのはかぼちゃなのね……」
ハウロンは黄金シリーズが盛り付けられたのを見ながら、立ち尽くしてぶつぶついっている。
「邪魔ならわんわんとアサスには2、3日あげて、その後は食べていいぞ? 切っとこうか? 果物はそのまま食べられるし、野菜は蒸すとか焼くとか」
そのまま齧るのは無理だけど、切ってあれば普通に食えるのが黄金シリーズ。
薄切りにしとけば、この乾燥具合なら腐ることもなく、ドライフルーツとか干し野菜になると思う。
「……」
ハウロンが泣き出しそうな顔をして俺を見る。
すみません。だってこの黄金シリーズ、油断するとできるもんだから、俺もどうしていいか困ってるんです。
そのまま置いとくと、目にした精霊が力を注ぎにくる。よそはともかく、俺の山の中は精霊が過密なせいで、精霊が
「収穫しないとどんどん増えるんだよこれ。黄金一色のサラダとか野菜スープとか嫌だし、普通の色の果物と野菜がいい」
「色の問題なの!?」
ハウロンが血相を変えて俺を見る。
「だって味は普通だし……。姿焼きとかはできないけど」
丸ごと焼きりんご、ダメでした。
「試さないで!?」
ソレイユが横たわり、ハウロンが叫んでいるうちに地の民によって神殿が整えられてゆく。もともとハウロンやソレイユたちが飾りつけた路線を守りつつ、美しく、
自分たちは実用性のあるものや、素朴なものを好むのに、華やかだったり絢爛豪華なものも彼らは得意だ。
……ちょっとかぼちゃとか白菜とかはやめておけばよかったかもしれない。存在感がおかしい。
そういえばウサギリンゴの時もこだわりは色だったわね……と、ハウロンがぼそぼそ言う。
「……レッツェたちを呼んできて」
「はい、はい」
ハウロンに頼まれてカヌムにみんなを迎えにゆく。今日の俺は無料タクシーなのだ。
カヌムの家に【転移】。
玄関の大きな扉を開いて周囲を見回す、夕方と呼ぶには早い明るさ。だけどこの辺、この季節は陽のある時間が長い。神殿でどれくらい時間経ったんだろう?
待ち合わせはレッツェたちの住んでいる貸家の居間。
「こんにちは〜。みんな揃ってる?」
貸家の一階に顔をのぞかせ、声をかけつつ部屋にいる顔を確認。
「ジーン、こんにちは〜」
「こんにちは!」
「こんにちは〜」
ディノッソ家の子供たちに挨拶を受ける。
親であるディノッソとシヴァは子供たちの後ろで微笑んでいる。ティナが俺に抱きついてきて、ディノッソの顔がふがーってなったけど。
「クリスがまだだな。アッシュたちはもう帰ってると思うけど、時間にはまだ早いだろ?」
俺の問いに答えたのはディーン。
いつもはだいたい酒を水代わりに飲んでいるんだけど、今日はこれから宴会のせいか、お茶を飲んでいるっぽい。それは隣のレッツェもだけど、レッツェは茶を飲んでいる率が高いんで、宴会に備えてかどうかは不明。
「やっぱり早いよね」
「なんだ? またハウロンに叫ばれたのか?」
レッツェが言う。
「うん。果物と野菜をわんわんとアサスに、って持ってったら叫ばれた」
どうしてそういう結論になるんだろうと思いつつ、叫ばれたことは本当なので素直に答える俺。
「その果物と野菜の色は何色だ?」
半眼でツッコんでくるレッツェ。
「金色です」
「うっわ、あのリンゴの?」
ディーンが驚いた顔をして聞いてくる。
ディーンも察しは悪くない。ただレッツェが異常に聡いだけというか、俺の心を読むレベルなだけで。
「うん。そろそろ俺の畑も綺麗にしとかないと増えて困る」
「伝説の黄金のリンゴを邪険にしないで?」
ディノッソが言う。
「ディノッソ、いる?」
「遠慮する」
即答。
せっかくできた果物と野菜、邪険にしないでください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます