第586話 続く宴会

 さて、わんわんハウスは砂漠に明日移動する。シャヒラの方は、ソレイユたちが頑張って飾り付けしているはず。


 なお、地の民に金色の果物及び野菜シリーズは、一応切ったら食えるようになると伝えたんだけど、なんか中身の見える綺麗な箱にそれぞれ収納されてた。


 ランタンみたいな形状でガラスの中にスモモが納まってたり、真ん中に納められたオレンジを引き立たせる透かし彫りが上と下にあったり。


 地の民には金銀財宝を溜め込んでるって噂があって、それは事実だけど、多分ちょっと溜め込んでる理由が人間とはずれてる。


 宝石とか黄金とか、普通の人間にとって価値あるものも喜ぶけれど、それは宝石を所有したいとかじゃなくって、その宝石をもっと美しく見えるように加工したいだとか、素材として扱いたい欲なんだよね。もしくはその作品の技巧を手本にしたいとか。


 互いに互いのできを讃え合い、こうしたらもっといいとかいう会話があちこちでされている。黄金の果物と野菜は、いい酒の肴になったようだ。


 黄金のリンゴとか黄金の葡萄は地の民の手がけた箱に納まったら、すごく格好よくって、ちょっと飾りに欲しくなったし。茄子とかキュウリはみなかったことにしたけど。


 『家』に戻ってリシュをなでる。


「リシュ、今日はお土産があるぞ」

ハーヴグーヴァの骨だ、でかいぞ!


 走り寄ってきて匂いを嗅ぐリシュ。骨をひとかぎした後、俺をくんくん。


「あ、ごめん。風呂いってくる」

謝った後、風呂に直行。


 地の民との宴会は酒を浴びるほど飲まされるんで、臭いを抜かないとだめだ。自分で自分の匂いはわからなくなってるけどね。


 酔っ払って風呂はいけないんだろうけど、俺の体ならば平気。ディーンたちが時々二日酔いで青い顔をしているのを見るとよかったと思う。その反面、正体を無くすまで酔って、友達と床に転がるなんて真似はできなくって、ちょっと残念。


 汗をかいて、水を飲んで。これくらいじゃ抜けない気がするけど、多少マシと思いたい。


 風呂から上がると、ハーヴグーヴァの骨を齧っていたリシュが足元に寄ってくる。そして嗅がれる。


 ごめん、リシュ。明日はあんまり飲まないようにするから。明日は俺以外にもいっぱいいるはずだし、きっとカーンなら地の民と飲み比べしても負けないと思うし! 淡々と飲んでるだけで、鯨飲してるのはみたことないけど。量的にはいけてると思う。


 リシュと遊んで、明日に備えて眠る。


 朝はお粥。お粥というか、土鍋でかなり柔らかく炊いた薄い塩味のごはん。


 ちゃんとリシュと散歩もしたし、畑も見回った。体調が悪いとかは全くないんだけど、気分的に。宴会は、特に地の民との宴会は、なんかこう勢いに乗せられて、飲み食いしちゃうので、どうも落ち着かない。


 代わりにゆっくり食べるお粥は落ち着く。色々薬味を変えながら、お粥を楽しむ。梅干し、岩海苔、ゴマの3種類だけどね。あんまり種類があっても今度はこっち、次はこっちと忙しくなっちゃうし、これくらいの数がちょうどいい。


 お茶を飲んで終了。


「さて、リシュいってくる」

リシュをなでて、カーンの国に【転移】。


 飾り付けはハウロンの希望の元、ソレイユがやってるはず。俺はその進捗具合を一回見て、地の民とわんわんハウスの【転移】、わんわんとアサスの引っ越し――ハウロンが言うところの、『神々の渡り』の準備ができたら、カヌムのみんなを連れてくる。


 カヌムのみんなも、カーンの町が砂から出てくるところに立ち会ってるからね。その縁と、ハウロンが頑張ってたのを知ってるんで、お祝いに混ざる予定なのだ。


 ハウロンは、今後もカヌムの借家と行ったり来たりするみたいだけど、カーンはほぼ砂漠の国に腰を据えることになる。暖炉のそばにいないとちょっと寂しいね。


 そういえば、エシャの民はこのお祭りに間に合ったのかな? 身軽で移動と旅はお手の物みたいな人たちだし、とっくに越してきてるのかな。


「おー、綺麗だね」

いろいろ思いつつも砂漠のシャヒラ国、地上の神殿へ。


 明かり取りの天窓がいくつかあるけれど、暑いので分厚い石に覆われて昼間でも薄暗い。その神殿にハウロンが灯したのか、魔法の明かりが浮かび、床や柱には花が生けられている。


 篝火かがりびや、燭台も用意されている。これはきっと本番の時に火を入れるのだろう。魔法は便利だけど、なにせ火の民だしね。


「いらっしゃい。今、仮置きが終わったところよ。台座を運んでもらったら、調整するわ」

ソレイユが言う。


 部屋のやや奥よりに二つの台座がある。


 片方は、もともとこの神殿で火の精霊を祀っていたもので、これにはアサスが載る。片方は正方形の低めの台座、この上に地の民が作った台座というか、わんわんハウスが乗る。


「あ、ごめん。俺も供物的な物を持ってきたんだけど、今から配置って少し変えられる?」

「あら、何かしら?」

聞いてきたのはハウロン。


「これです」

黄金果物と黄金野菜シリーズを載せたフルーツスタンドを出す俺。


「き……っ」

息を詰まらせるソレイユ。


「……」

クッションを構えるファラミア。


「ちょ……っ!!!!! やばいものがてんこ盛り……っ」

目を剥くハウロン。


「他に使い道が思いつかなくって。腐らないし、ちょうどいいよね?」

「よくないわよ!!!」

叫ぶハウロンと、こちらを向いてはくはくと口を動かすだけのソレイユ。


 こう、プラスチックの花とか供物とかより断然よくない?

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