第585話 物々交換
そういうわけでハーヴグーヴァ初体験です。
鱗を持っていて、喉の下に大きなヒレがついている。元いた世界の、あの大雑把な中世の絵で描かれたクジラがモデルの魔物の姿の実写版というかんじ。イルカの魔物もいたしね。
味はクジラと――そもそもクジラを食ったことがない俺。キノコと玉ねぎ、ハーヴグーヴァのソテーは素朴で美味しい。魚より肉よりの味。
ああ、そういえば地の民って肉好きだもんな。鱗がついてても肉だ、コレ。
「おお、来たぞ!」
「メインだ! 来たぞ!」
「来たぞ!」
地の民の声が広がってゆく。
メイン? ハーヴグーヴァのステーキとかそんな感じ?
「おう! 惚れ惚れとする、黒鉄の竪穴の衆の大胆さ!」
「おう! 心を奪われる、硫黄谷の衆の繊細さ!」
「おう! 見惚れる、赤銀の谷の衆の均衡!」
「「「美しい!」」」
メインディッシュかと思ったら、神輿のように運ばれてきたのはわんわんハウス。
「見よ! あの滑らかな木肌は、
「見よ! あの優美な曲線は、
「見よ! あの見事な
「見よ! あの素晴らしき染色は、
「「「美しい!」」」
神輿のようにと思ったが、形的にも神輿っぽい。いや、たくさんの彫刻で覆われた小さな神社?
最初は台座を頼んだはずだけど、犬小屋のせいで途中で混じったので、屋根がついている。
色は真っ黒だけど禍々しいわけではなく、でも畏怖を抱かせる。すでに小さな精霊が棲まって、時々表面に姿を見せる。
黒だけど一色じゃない? ぬめるように輝く黒、光の反射を消した黒、黒檀の木肌をそのまま見せる黒、嵌め込まれた象嵌はたぶん黒いドラゴンの鱗。
とても綺麗だ。綺麗だけど、何故か俺の書いたわんわんのプレートが、上の方の真ん中にですね……。大丈夫、ひらがなだから俺以外には読めない。
もし遠い将来、日本から勇者召喚された人がいたら、頼むからカーンの国は避けてほしい。
絶賛プレートから目を逸らしながらも、わんわんハウスを見てしまう。雑念なく見惚れたい! それくらいすごい。雑念の原因は俺だけど。
「女神の巨樹」
「女神の黒檀」
「ドラゴンの鱗」
「ドラゴンの骨」
「「「扱えたことに感謝を!」」」
軽くだが、一斉に地の民たちが俺に向かって頭を下げてくる。
「俺の方こそありがとう、素晴らしいものを作ってくれて」
俺も頭を下げる。
そして再開する宴会。とうとうでき上がったわんわんハウス――と呼ぶには神々しい感じ、わんわんの台座を肴に酒を酌み交わし、料理を食う。
ハーヴグーヴァのステーキ、ハーヴグーヴァの血が混じった、赤っぽいソース。焼き加減はレア、焼くほどに硬くなるそうで、レアが基本なんだって。
「ハーヴグーヴァってどんな魚? 形は飾ってあるのでわかるけど、どうやって獲るんだ?」
「ハーヴグーヴァは北の海にいる!」
「北海、パフィンの飛ぶところだ!」
「パフィンの飛ぶところだ!」
パフィンってなんだろ? 飛ぶからには鳥?
「海にいるハーヴグーヴァは二つの岩礁のようだ!」
「腹が減ると大きなげっぷをする! 独特な香りの餌を撒き散らす!」
「魚どもを集めて丸呑みだ!」
あー。ザトウクジラとかって、口を開けて直立して魚が飛び込んでくるのを待つ漁をするんだっけ。周りで仲間のクジラが追い込むやつ。動画みたことあるけど、俺は岩礁というより、アツモリソウみたいだって思った記憶。
クジラが魔物化したのかな? エリチカの塩鉱にいたエルウィンって
「ハーヴグーヴァを探す時は、まず魚どもの行く道を探す!」
「魚どもの道を辿って、次は空に群れるパフィンを探す!」
「パフィンの下にハーヴグーヴァがいる!」
「程よいサイズならば、銛を撃つ!」
「銛を撃つ!」
「あとは戦いだ!」
「戦いだ!」
探す方はともかく、漁自体は力技だった。そして結構な数のハーヴグーヴァがいるっぽい。
「島のソレイユ! ハーヴグーヴァの魔石を受け取ってくれ!」
「島のソレイユ! 心ばかりの礼だ!」
「島のソレイユ! 我らの感謝、受け取ってくれ!」
何かもらいました。石というには軽い? 後でソレイユにどんな価値があるかジャッジしてもらおう。いや、もしかしたらハーヴグーヴァを倒すってこと自体が英雄的行為で、この魔石にはハーヴグーヴァに勝ったということの証明品的な価値があるのかもしれない。
「ありがとう。俺からも今回のお礼に珍しい食べ物を持ってきた。あとはいつものお菓子とかだけど」
流れるようにこの広間につれてこられて宴会が始まったので、出すタイミングをどうしようかと迷っていた、黄金シリーズ。
「おお!?」
「これは、神々がよこした争いのリンゴ!」
「これは、深き森の騒乱のプラム」
「これは、神の園の王に与えられる葡萄!」
「これは、至高の……?」
すみません、茄子です。
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